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5.銀髪少女、クラリス視点
しおりを挟む私の名前は、クラリス・エーベルライン。侯爵家の長女。
この魔法学院では、“上”のほうの存在――そう思っていた。
勉強も、魔力も、礼儀作法も、それなりにこなしてきた。
親も先生も「よくできた娘」と言ってくれるし、同じ階級の子たちからは頼られている。
それは私が――“間違えない子”だから。
(なのに……)
あのレティシア・フローレンス。あの“落ちこぼれ”だけは……どうしても気にくわない。
最初に目にしたときは、笑った。
あの家の三女、魔力量もない、頭も悪いと有名な“失敗作”。
それなのに、学院に来るなんて、よっぽど親のコネを使ったのだろう、と。
周りの子も言っていた。
「クラリス様の足元にも及ばないわね」
「これから、誰が“上”なのか、教えてあげないとね」
だから、教科書をちょっと汚して投げてみた。少しからかってみた。
いつもの“しつけ”みたいなもの。
でも――
(なんで、あの子、あんな顔をするの……?)
あの時。普通なら怒るか泣くかする場面で――
彼女は、笑った。しかも、どこか上から見下ろすような、静かで落ち着いた笑みで。
私はぞくっとした。
まるで――
“自分が今、試されている”みたいな、変な感覚。
◆ ◆ ◆
それからも、何度か話しかけた。何度か揺さぶってみた。
でも、彼女はいつも同じ顔をする。淡々として、優しいようで、どこか冷たい。
そして、あの授業の日。
先生の質問に、誰も答えられない中――
「はい、わかります」
と、彼女が手をあげた。
その瞬間、教室の空気が変わった。
簡単な内容じゃなかった。むしろ、私だってちんぷんかんぷんだった。
なのに、彼女は落ち着いた声で、次々と説明していく。
先生も、呆然としていた。
(おかしい。あんな子が、どうしてあんな話ができるの?)
私は焦った。
だって、彼女は“底辺”のはずだった。
見下していい存在、笑っていい相手だった。
それなのに――
気づいたら、私の知らない世界を、当たり前のように語っていた。
◆ ◆ ◆
その夜、私は鏡の前で自分の顔を見つめた。
誰にも言えない不安が、胸の奥に残っていた。
(私、怖いんだ)
なぜだかわからない。
ただ、“あの子は危ない”――本能がそう言っている。
もし、あの子が本気を出したら。
私たちの“安心できる世界”は、あっという間に崩れてしまう。
だから、私はまた明日も、彼女に言葉をぶつける。
これは、いじめなんかじゃない。
――自分を守るための、“戦い”だ。
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