賢者に転生したけど、なぜか“落ちこぼれ令嬢”と呼ばれてます。あ、そろそろ皆さん泣いて後悔しますよ?

おとか

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「……これ、あんたのよね?」

 昼休み。中庭のベンチに座っていた私は、突然、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、そこには数人の令嬢たち。皆、高価なリボンやブローチを身につけていて、明らかに“上級貴族”の子たちだとわかる。

 その中の一人――銀髪に細い目をした少女が、ぐしゃぐしゃになった教科書を手にしていた。

「……ええ、私のです」

「そ。だったら、ちゃんと管理しなさいよね。“みっともない”わよ?さっきの授業の答えは偶然だったようね。だってあなたは、お、ち、こ、ぼ、れ、ですものね」

 少女は、にやりと笑うと、教科書を私の足元に投げ捨てた。

 ああ、これはわかりやすい。

(なるほど。いじめの定番ね。目立たない子を、みんなで押さえつけるやり方)

 私は何も言わずに、それを拾い上げた。

「ふーん、なに黙ってんの? 先生にチクる? それとも、泣いちゃう?」

 別の令嬢がそう言って、くすくすと笑った。周囲もそれに合わせて笑い声をあげる。

「だってこの子、魔力量ゼロなんでしょ? どうして学院に来れたのか不思議~」

「貴族の恥ってこういうの言うのね。可哀想に、お姉様が泣くわよ?」

 言葉は鋭く、じわじわと刺さってくる。でも、私は黙っていた。心は不思議と冷静だった。

 だって――これは、もう見慣れた光景だから。

(エレノアだった頃も、似たような目にあったことはある。才能を妬まれ、知識を恐れられ、裏で何度も足を引っ張られた)

 だから、わかる。

 今は動く時じゃない。

(今、感情的に返したら“思い通りになった”って、相手を喜ばせるだけ)

 私は、にこりと笑って言った。

「ありがとう。教科書、助かるわ」

「……は?」

「私、うっかりどこに置いたかわからなかったのよ。本当にありがとう」

 その場にいた全員が、一瞬黙った。

 反応に困ったのか、数秒の沈黙のあと、銀髪の少女が眉をひそめて言った。

「……なによ、感じ悪」

 そして皆、つまらなさそうに去っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

 その日の夜、寮の小さな部屋で私は机に向かっていた。

 教科書の補足、魔法理論の再計算、そしてこの世界の魔導技術の分析。

(……まあ、もう少しだけ我慢しましょうか)

 レティシアの記憶には、もっとひどい仕打ちもあった。寮で着替えを隠されたことも。持ち物を捨てられたことも。

 でも――

「まだよ」

 鏡に映る、自分の小さな顔を見ながら、私はつぶやく。

「本気を出すのは、まだ早い」

 この世界の常識をひっくり返すには、もう少し“材料”が欲しい。相手をただ黙らせるんじゃなく、“何も言えなくなるほどの差”を見せるために。

 そう。今は、静かに、静かに――その時を待つ。

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