【R18】サ終のゲームに取り残されました! 〜最推し3種に迫られて身体がもちません〜

浅岸 久

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前日譚、そして

前日譚6.俺の好物をそんなに並べて……いったい何の儀式だ?(バグ王)

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 きらきらきら、と、召喚石イルスフィアが輝く。

 ……まもなく、時間だ。
 若い放浪騎士の俺も、裏社会に足を踏み入れた首領としての俺も導手の様子を見守るために出ていってしまい、いまは騎士王と呼ばれる俺、ただひとり。
 召喚の間――その中央に輝くのは、イルスフィアと呼ばれる召喚石だ。

 空間の流れを調整するための〈風〉。
 座標を固定、道をつくるための〈土〉。
 純粋な召喚エネルギーとなる〈光〉。
 俺たちバグウィルの魔力をたっぷりと注がれた召喚石は、3種の属性の色をまとってキラキラと輝いている。

 この輝きを見るのも、もう最後だ。
 彼女ユイをこの地へ繋ぎ止める仕上げ――それができるのは、この古城に集った仲間たちのなかでも、俺しかいないだろう。
 いくらユイによって限界まで成長させられた他のバグウィルでも不可能だ。
 だって、そもそもの器の大きさがちがう。
 この世に形作られたそのときから、俺のこの身には、誰よりも強い魔力が備わっていることを自覚しているのだから。

 そうして俺は、俺自身をもこの時空へ導いた召喚石を見つめながら、召喚されたときのことを思い出していた。


 iもうひとつのf可能性の未来――。
 はじめて、そんな馬鹿げた呼び名で呼ばれたときは、本気でどうしてやろうと思ってたがな。
 ――あの女導手に重なる姦しいユイの声に、怒ることすら馬鹿らしくなった。

 感情を抑圧し、騎士としての最高の位〈騎士王〉の座についていたはずの俺が、突然こんな別の時空に召喚され、もう戻れないと言われた。
 俺があの地位を手に入れるために、どれほどの苦難を強いられたのか、何を捨てなければいけなかったのか――そんな事も知らないやつらが、俺を召喚して強制的に使う?
 クソ喰らえだ!
 すぐにでも、もう一度召喚石イルスフィアを起動して、元の時空に帰ってやる! 俺の力ならきっとそれが可能だ! ……なんて思っていたのだがな。

「貴様は、私の力を欲するというのか? なんのために?」

 俺を呼び出した張本人に、せめてその意志を問うてやろう。
 気に入らない返答をしたら、すぐさま殺して帰ってやる。
 そう思ったからこそ発した俺の質問に答えるより前に、彼女はこう叫んだんだ。

『きゃああああ! バグ! ウィル! で、でででで、でたっ! うっそ単発ででた!? 嘘でしょっ運命!? 運命では!?』

「……」

『アリガトウ運営! イヤマジ触媒のベーコンじゃがバター優秀すぎない!? ちょ、一旦居室! いやまだガチャるけど。そのまえにまず居室いこ……! 居室いこうねじゃがバタパーティしようねバグ王!』

「…………は?」

 意味がわからなかった。
 ガチャ?
 ガチャるとは一体どういうことだろう?

 意味はわからんが、あの間抜けな声を聞いた瞬間、毒気を抜かれた。
 馬鹿馬鹿しいと一蹴することは簡単だったはずなのに、なぜだろうな。俺の存在に嬉し泣きしながら、なぜかじゃがバターと連呼する声が、とても明るくて、裏のないもので。心から歓迎されていることがすぐに伝わってきた。

 ……いや、ベーコンじゃがバターは……好きなんだが……王になってから、あのシンプルな味にはめったにありつけなくなって久しいのだが……なぜ知っているのだろう。
 だが、人の言葉の裏側ばかりを考える自分にとって、彼女の反応がとても新鮮に感じたのは事実だった。

 殺すどころか、導手に引っ張られる形で居室に連れていかれ、そのままなぜかツンツンとつつかれる。
 その導手の姿の向こうに、なぜかあのあかるい声が重なって――ぺらぺらと、とりとめのない自分の事情を話してしまい、よけいに戸惑った。
 俺はなぜ、自分のことを話している?
 こんなに素直に?
 いま考えたら、この古城に召喚されたその時から、導手に――いや、その向こうにいるあの女――ユイに、振り回されていたのだと思う。

 本当に不思議なものでな。
 彼女に呼びかけられるたびに、なんだか意固地になっているような俺自身が馬鹿馬鹿しくなって。
 彼女は俺の事情も全部知っていて、その上で、たくさんの言葉をくれた。
 俺の過去、そして存在そのものを好いてくれるのがわかって、面映ゆいような、泣きたいような気持ちになった。

 俺が進んできた道は良かったのか、悪かったのか。
 こうして別の時空に呼び出されてしまっては、真の意味で、騎士王としての未来はない。
 だったら、俺の存在意義は? いままで血反吐を吐く思いでのし上がってきたのに、全て無駄になっただと?
 自分自身がわからなくなって、自暴自棄になりそうな気持ちを、彼女が救い上げたんだ。

『バグ王、ほんと尊い無理好き』

 なんて恍惚とした声をあげながら――、

『とりあえず、レベルMAXいこうねー! はい素材!』

 こっちの事情など完全無視だ。
 嘆いている暇などない。
 ……ベーコンじゃがバターをツマミに、虹色の酒やら金色の酒やらをどんどん注がれて、一気! 一気! と謎の拍手コールされたあの時の心境を、だれかわかってくれるだろうか!?

 無茶苦茶だ。
 とにかく、無茶苦茶なんだ。
 でも、そんな彼女の勢いに巻き込まれているうちに、俺の中に溜め込んだ嫌なモノが全部馬鹿らしくなって――ああ、そうだ――、

 ユイが。
 ひどく、眩しく感じた。

 誰かに振り回されて、心地いいなんて感覚、はじめてだった。
 それでようやく、俺は思い出したんだ。
 俺が騎士王になった理由は、なんだったのか。

 答えはただひとつ。
 俺は、俺が認めたたったひとりを、誰にはばかることもなく、権力におもねることもなく、俺の気持ちに正直に主として仕えたかったからだ。

 見つけた。
 見つけた。
 俺の唯一。
 絶対、逃がしてなるものか――――!
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