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本編

ep01_異世界召喚? 伴侶? マジで言ってるの?

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 今日もダルいけど大学行かなきゃー、って部屋を出てすぐにそれは起こった。

 マンションのエレベーターに乗って下へ。
 1階へ降りる少しのあいだに、ついうとうとしちゃったんだよね。で、いつもだったらポーン! って到着を知らせる電子音で目を開けるのに、この時はちがった。

「うおおおお!!!」
「ほ、本当に現れたぞ!?」

 あたし、円居まどい千瀬ちせ――チセは、急に聞こえた大勢の男のひとの声にハッとする。
 両目を開けて顔を上げたんだけど…………あれ? ここは、どこかな……?
 ええと? 寝ぼけてないよね?
 あたしエレベーターの中だったはずなのに、いつのまにこんな部屋に移動したの?


 そこは窓のない薄暗い部屋だった。
 ちょっと広めかな。あたしの足もとには、ファンタジーな感じの魔法陣みたいなものがきらきら輝いていて、その周囲にぐるりと、赤とか碧に光る石が敷きつめられている。
 で、その魔法陣をさらに取り囲むように、ぐるーって大勢の男のひとが立っていたんだ。

「すごい……っ!」
「女性だっ。あの目の色を見ろ!」
「晶精の愛し子さま……間違いがないっ」

 なんだかみんな大興奮! って感じだけど。
 晶精の愛し子? うん? なにかな、そのファンタジーっぽい呼び名は……。

「???」

 混乱してついついキョロキョロしてしまう。
 あたしの正面に立っている金髪の王子様っぽいひと以外は、軍服のようなテールコートのような? 制服っぽい服装のひとが大多数。それぞれ勲章の数やら細かい装飾はちがっているみたいだけど、なにかの組織なのだろうか。
 のわりには、ファンタジー映画のセットっぽいというか。そんなに詳しくないんだけど、ゲームとか、アニメの世界のような雰囲気がある。

 部屋の外からはカン、カン、カン……って、金属音? 機械音みたいなのがずーっと聞こえてくるし、この部屋の壁にも、鉄の管? パイプみたいなのがいっぱいで、工場感がある。そんななかにファンタジーな魔法陣ってのがミスマッチで、あの……世界観バグってませんか? って気持ちになるんだけど……。

 脳みそがうまく働かなくて固まっていると、中心に立っていた金髪のイケメンが笑う。何歳くらいかな。あたしよりも年上っぽいけど、20代後半くらい? どうみても外国人顔だ。

「ようこそ、晶精の愛し子よ。私はエドアルド・デ・フォーノルド、ここイージルギア王国の王太子だ」

 おっと。マジの王子さまだった!
 えっと? イージルギア??? うん??? どこよ、それ。

「ええと……?」
「愛し子よ、あなたのお名前をうかがっても?」

 愛し子。それって、あたしのことで間違いないんだよ、ね?

「……円居、千瀬、ですが……」
「マドイチセ?」
「名前は、千瀬、です」
「チセ――そうか。チセ」

 ふわあああ。めっちゃふんにゃり微笑まれたけどっ。
 なにそのイケメンオーラ!

 ウチの大学もそれなりにオシャレイケメンが多いって内外では言われているけどもっ。レベルが! っていうか、種類? が、ちがうよっ?
 そこら辺にいる日本人雰囲気イケメン男子とかじゃなくて、海外の俳優さんというか、モデルさんというか? 映画の中のキャラクターって感じで。

 っていうか、どうやら言葉もちがうみたい。
 あきらかに聞こえる音が日本語じゃないのに、脳内で綺麗に変換されているというか。あたしもすごくナチュラルに日本語じゃない言葉をしゃべってるんだけど、どういうこと!? これ、なにかなあ!?

「混乱されているようですので、説明致しますと、ここはイージルギア王国。そして、われわれが、あなたを異世界から召喚した」

 召喚。
 ……異世界!? うそでしょう!?

「あなたは晶精の愛し子として選ばれたのです、チセ。そしてあなたには、今すぐあなたの伴侶を選んでもらわなければいけない」
「…………はい?」

 伴侶?

 ……うん?
 それはつまり、旦那さま、ということなのだろうか。

「えええええ!?」

 ちょっと待って待って。召喚されて異世界? それだけでもいっぱいいっぱいになっているっていうのに、そのうえ伴侶?
 なんだかホンキで、漫画とかアニメの展開になってきてない!?

「いきなりで戸惑われるでしょうが、そう決められているのです。あなたが選びやすいように、あらかじめ候補は決めておりますが――――君たち!」

 そうエドアルド殿下が周囲に呼びかけると、ぐるりと周囲に立っていたひとたちの数人が前に出てくる。
 ――って、えええ……?
 赤髪の軍人っぽいイケメンとか、青髪の文官っぽいイケメンとか、銀髪長髪の魔法使いっぽいイケメンとか……まってまって、わらわらとイケメンばっか10人くらいでてきたけど!?
 えっ!?
 よく集めたねっ。各種イケメン取りそろえましたってこの環境はなに?
 いやいやいや、あたし、一般人だから。釣りあわないからっ。
 ひえっ、こ、こわ! 怖いって!!

 やだやだ、なんか話しかけてくるけどちょっとみんな落ち着いて。
 みんな顔はいいけど、目がギラギラしてるし、身長高くて圧迫感あるし、オーラ強すぎるしっ。
 ムリ!
 たしかに格好いいけど! それよりも、ふつーに怖くて、引く。
 だからあたしは首をぶんぶん横に振って、後ろにさがった。

 一歩、二歩……って逃げようとしたら、みんな笑顔でこっち近づいてくるしー!
 笑顔で早足やめてっ!?
 ってか殿下も止めて、って思うのに、それを主張するより先に、ぞわぞわぞわって恐怖がおとずれた。
 あたしは慌てて、後ろにバタバタ逃げてたんだよね。そしたら――、

 ドンッ!!

 誰かにぶつかっちゃった。
 そのまま体勢を崩しそうになって、あたしは無意識に、両腕をそのひとの腕に巻き付けてたの。

「!」
「ノウト閣下、だと……!?」
「愛し子は、ギリアロ殿をお選びになるのか……!?」
「なんという、これは運命か……!?」

 え? 選んだ? なに??? って思ってたら、候補者っぽかったイケメンを左右に押しのけて、エドアルド殿下がこっちに歩いてくる。
 で、あたしたちの方をみてにっこりと笑った。

「すごいな。くくく……ノウト、君もいよいよ逃げられないね」
「待ってください! わ、私は……っ」
「まあまあ」

 抱きついている相手の腕が、ぴくって動く。
 ええと、怖くて顔が見られないでいたんだけどさ……このひと、結構あたしと顔の位置近くない? って顔むけてみたら目があった。

 みんな色とりどりの髪や目の色をしていたいかにもファンタジーな外人顔って感じだったけれど、この人だけはちがう。
 あたしより身長は高いけど、けっこう小柄でね?
 黒髪に――灰色? の瞳。灰色もね、右と左でちょっと色味がちがってて。片方は黒に近い灰、もう片方はキラキラいろんな色が混ざり合った、色素の薄い虹色のような淡い灰色。それがとってもキレーなんだけどさ。

 ……どこからどう見ても、オッサンだった。
 黒髪はくしゃくしゃで寝癖ついてるし、無精髭もそのまんまだし、制服だってシワだらけ!
 顔だちだってひとりだけなぜか東洋人っぽい、30代くらいのオッサンで――――。

「ギリアロ・デ・ノウト。――彼を選ぶだなんて、さすが晶精の愛し子だ。君たちの婚姻を祝福しよう」

 ――――どうやら今の瞬間、あたしはこのオッサンと結婚することになったらしい。
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