【R18】処刑されるはずが、目覚めたら敵国王子の推し活包囲網にとらわれていました

浅岸 久

文字の大きさ
24 / 61

〈命脈〉への干渉(3)

しおりを挟む

(意外と、残ってたのね。祝福……)

 全盛期の五分の一程度だろうか。
 髪や瞳の色彩からみて、もっとしょっぱくなっているかなと思っていたけれど、そんなことはなさそうだ。
 これだったら、普通の神子としての役割は十分果たせることだろう。
 アーシュにおんぶに抱っこにならなさそうで、ちょっとだけホッとする。

 安心するなり、全身の力が抜けた。
 地面にぺたんと座り込み、ほう、と息を吐く。
 もう魔力は流していないため、〈命脈〉との同調も消えた。周囲の光が見えなくなるまでに、この部屋を出ないといけない。でないと、真っ暗になってしまって、何も見えなくなるので。

 消えたランプを手に引っかけて、私は立ち上がる。けれど、思った以上に力を使ってしまっているのか、すぐにその場に崩れ落ちた。

(前と同じ感覚で使うと、こうなるのね)

〈命脈〉に触れている間、神子は問答無用で魔力を消耗する。
 そのまま空になってしまったら終わりだ。〈命脈〉に命ごと引きずり込まれてしまう。
 そうなると、もぬけの殻のように肉体だけが取り残される。
 心臓は動いていても、植物人間のように身体を動かすことも、話すこともできなくなる。
 そうするうちに、身体の方も朽ちてしまうのだという。

 実際そのような事故は起こらないように、駆け出しの神子は絶対に師匠に連れられて〈命脈〉に触れることになっているけれど、それでもたまに命を失う者はいる。
 それだけは絶対に嫌だと、ぶるると私は身体を震えさせた。
 今後も、〈命脈〉に触れるときは絶対に気をつけよう。前と同じ感覚でいたら事故りかねないと自分自身に言い聞かせつつ、よろよろと出口に向かった。

 ゆっくりと扉を開き、後ろ手に閉じたところで、ホッとしてその場に崩れ落ちた。

「ライラ!」

 地面にお尻をつくよりも早く、アーシュの手が伸びていく。

「大事ないか!?」
「あ、ええ。ありがと」

 ううん、ちょっと口には出せないけど、ちょっと無理しすぎた様な気もする。
 危なかったという事実は隠したつもりだけれど、アーシュはいつも以上に厳しい眼光を私に向けてきた。

「っ!? ――え、えと。大丈夫よ……?」
「…………」

 そんなことないだろう?という目だ。これは。
 訴えるような顔を向けられ、うっと言葉に詰まる。
 が、次の瞬間には視界が高くなっていた。

「ひゃ!?」

 ガッと横抱きにされ、アーシュはくるりと反対を向く。ユスファやメリルを従えて、大股でもと来た道を戻っていった。
 迷路のような地下道を迷いなく歩いては、やがて城の上階へと続く階段へと足をかけた。



 地上階に戻ると、ずらりと使用人たちが立ち並び、私たちを出迎えてくれる。
 そうだった。私、結婚してこの城に連れて来られたんだった。
 使用人たちへの挨拶もそこそこに、真っ先に〈命脈〉を見るからと地下へ通して貰ったため、全てが中途半端になっていた。

 私は平民ということになっている。いきなりこれでは不興を買いそうだけど、今のところ悪意らしきものは感じない。よほど教育が行き届いているのだろう。
 ――なんて、感心しているうちに、目的の部屋に辿り着いたらしい。

 ふわっと、優しい香りが漂う部屋は、白と赤を基調とした可愛らしい作りだった。
 赤い布張りのソファーに真っ白のテーブル。猫足になっているのが可愛らしく、品がある。
 冷気が強い風土にもかかわらず大きな窓を使用できているのは、魔晶石の働きによるものか。この城ひとつにどれほど多くの魔晶石が配置されているのかと考えると、くらりとしそうだ。
 ファブリックも濃い臙脂のものが多く、温かしさを感じる作りだ。国境の砦とは全然ちがう、柔らかい印象の部屋にぽかんとした。

「えっと、ここは? アーシュの部屋、ではないのよね……?」

 アーシュが使用するには愛らしすぎる。
 彼の妃のための部屋を宛がわれたと考えるのが自然なのだが、まさかの赤。
 貴族個人の部屋は、その部屋の持ち主に祝福を与えた神の色彩を基調とすることが多い。
 結婚するにしても、事前に相手の祝福を調べ、調度品を用意するのが主流だ。たいていは輿入れまでに最低数カ月の準備期間があるものなので。

 でも、私が突然ノルヴェンに転がり込んできてからまだ一週間も経っていない。
 こんな短期間で用意できる部屋ではない。となると、最初から誰がこの部屋を使うのか想定して、ずっと前から整えていたと考えるのが自然なんだけど。

「君の部屋だ」
「やっぱり、そう、なのよね……」

 ズバンと言い切られ、私は息を飲んだ。


「いつからこの部屋を準備して……?」
「俺が辺境領を治めるようになって3年になる」

 ……つまり、そのときから、ということなのだろうか。
 私が強制的に自国へ連れ戻されて間もなく、彼は辺境にやってきた。そのときから、赤の女神の祝福を授かった妃を迎えることを想定していたと。

 メリルも1年以上準備をしてきたと言っていたけれど――何だろう。彼の私への執念みたいなものを感じずにいられないというか。

「君だ」
「は?」
「そのときから俺は、君以外を妃に迎える気などなかった」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

捨てられ王女は黒騎士様の激重執愛に囚われる

浅岸 久
恋愛
旧題:愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜 初夜、夫となったはずの人が抱いていたのは、別の女だった――。 弱小国家の王女セレスティナは特別な加護を授かってはいるが、ハズレ神と言われる半神のもの。 それでも熱烈に求婚され、期待に胸を膨らませながら隣国の王太子のもとへ嫁いだはずだったのに。 「出来損ないの半神の加護持ちなどいらん。汚らわしい」と罵られ、2年もの間、まるで罪人のように魔力を搾取され続けた。 生きているか死んでいるかもわからない日々ののち捨てられ、心身ともにボロボロになったセレスティナに待っていたのは、世界でも有数の大国フォルヴィオン帝国の英雄、黒騎士リカルドとの再婚話。 しかも相手は半神の自分とは違い、最強神と名高い神の加護持ちだ。 どうせまた捨てられる。 諦めながら嫁ぎ先に向かうも、リカルドの様子がおかしくて――?

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...