51 / 61
全部あなたのもの(1)*
しおりを挟むふわりと身体が抱き上げられる。
アーシュは真剣な表情のまま、大股で離宮の中へと入っていく。
焦れるように早足で闊歩していき、辿り着いたのは離宮の最奥にある部屋だった。
元は何代か前の王太后が過ごすために建てられた離宮は、女性の好む繊細な装飾が多い。しかし、辿り着いた部屋は重厚感のある雰囲気に満ちていた。
群青の絨毯が敷きつめられた床に、マホガニーの家具。絵画は――ああ、最近私が恥ずかしいとよく言っているから、私たちがここに到着する前に別のものに差し替えられたのかもしれない。なんて、いくつも並ぶ見事な風景画を見て私は色々察して、ここが離宮にあるアーシュの部屋なのだと理解した。
アーシュは部屋をつっきり、さらに奥、寝室へと辿り着く。
午後の光が部屋に差し込むなか、アーシュは私をベッドに下ろし、天蓋の紐を解く。
ベルベッドの天蓋が光を遮断し、世界が私とアーシュだけになったような錯覚が起こった。
見られている。
深淵のような瞳に、ジッと。
その切実な光に応えたくて、私も手を伸ばした。
両腕を彼の首の後ろに回し、ふたりでベッドになだれ込む。
ふかふかのベッドに身を預け、ぐるんとひと回転。気がつけば、私がアーシュを組み敷く形で、彼の上に乗っかっていた。
「……え?」
さすがに彼も予想外だったらしい。
目を見開く彼の両頬を捕まえ、私は顔を寄せた。
そしてキスを。触れるだけのキスを何度も。何度も。
「ん、……っ」
そしたら、なんだか足りなくなって。ああ、こういう気持ちだったのかと理解する。
今日はなんだか、彼に教え込んであげたいんだ。
あなたのことを好きで、大切で、手放せない人間がここにいるよってこと。
だから、あなたも手放さないで。ずっと側にいて。ぎゅっと抱きしめて。お願い。って縋りつきたい。
私は焦っているのかもしれない。
だって、彼のご家族はどれだけ手を伸ばしても、アーシュは頑なに距離を取ろうとした。
いつか私の身に何か起きたら、また同じ選択をする可能性はゼロじゃない。
――ううん、きっとそんなことは起こらない。私はアーシュを信じたい。私を二度も助け、離さないと言ってくれた彼を。
だからといって、今の関係に胡座をかいているつもりはなくて。
「好き」
彼の黒い髪を梳きながら口づける。
「好きよ」
伝われ、って祈りながら、何度も。
アーシュも最初こそ戸惑いながら、なすがままになっていたけれど、やがてその瞳に熱を灯した。
彼から、今度はもっと深いキスが求められ、私は唇をわずかに開く。そこから舌を差し出すと、待っていたとばかりに絡め取られた。
嬲るような乱暴さを孕んだ愛撫で、唾液が混ざりあう。くちゅん、と淫靡な水音が耳の奥に響き、全身に震えが湧き起こる。ゾクゾクしながらわずかに瞼を持ち上げると、彼の黒玉が私を射抜いているのがわかった。
「――抱いて」
我慢なんてできなかった。
私は、この人に喰われたい。
私の魔力の問題は解決していない。アーシュと身体を繋げると、問答無用で彼に魔力を吸収されてしまうから。
アーシュの制御の問題? それとも、私のほう?
なぜ、あんなことが起こるのかちっともわからないけれど、今は、そんなことを考える余裕もなかった。
伝えたいのだ。
この身体の隅々まで、あますことなくあなたのものだと。
だから、私は厚手の彼のマントを剥ぎ取り、そしてコートに手をかける。
彼も彼で私の身体を弄りながら、着込んだ衣装を脱がしていった。
はだけさせたシャツの合間から彼の白い肌が見えた。
逞しく、しなやかな筋肉は美しくもあるけれど、必要に迫られて身体を絞ったのだと考えると、胸の奥がしくりと痛む。同時に、例えようのない愛しさも湧いてきて、私は彼の肌にキスを落とした。そして、ちう、と強く吸いつく。
普段、彼が私の肌に残すように、赤い印が灯ると、少しだけ胸がすく心地がした。
多分、私も彼を繋ぎ止めていたいからだ。こうして、形に残せることがたまらなく嬉しい。
「好き。ん――ぁ、待って……!」
と思えば、アーシュも私に任せてはくれないらしい。
今度は自分の番だとばかりに、私のドレスの胸元を広げた。たちまち露わになる双丘に顔を埋め、唇を落とす。
一箇所では足りなくて、二箇所、三箇所とたっぷり口づけるも、ちょっと待って。今日は私から彼を愛したいのだ。
「アーシュ、こっち」
彼の頭を掴み、強引に上を向かせて目を合わせる。
心得たとばかりに目を細めた彼の唇に、私も自分のものを重ねた。
するっと彼の脇腹に両手を挿し込むようにして抱きつく背中をすーっと撫でていくと、アーシュがふるると睫毛を震わせた。
「ライラ?」
止まるつもりなんてない。私は両手を彼の下腹部まで滑らせ、今度はベルトに手をかけた。カチャカチャと音を立てながら外すと、下着の上からでも彼のモノが主張しているのがわかる。それを布越しに何度か撫でてから、するっと下着も下へずらした。
「くっ……!」
彼が甘い声を漏らすのがわかった。
チラッと視線を彼の顔に向けると、頬が染まっている。眼帯で隠れた右側の頬も、きっと今は真っ赤だろう。
いつも私ばかりがドキドキさせられてばかりだもの。でも、私だって、彼を愛したい。
いつか、何もわからず拙い手つきで愛撫したときとは違う。
私自身が彼を愛したいから、いきり立った屹立を両手で扱いた。
身体の奥が熱くなり、早くほしいと脳を掠める。けれども、自分自身をも焦らすように、私は彼の熱杭に顔を近付けた。
「まっ、ライラ……!?」
「今度はちゃんと、受けとめてね?」
152
あなたにおすすめの小説
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
捨てられ王女は黒騎士様の激重執愛に囚われる
浅岸 久
恋愛
旧題:愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜
初夜、夫となったはずの人が抱いていたのは、別の女だった――。
弱小国家の王女セレスティナは特別な加護を授かってはいるが、ハズレ神と言われる半神のもの。
それでも熱烈に求婚され、期待に胸を膨らませながら隣国の王太子のもとへ嫁いだはずだったのに。
「出来損ないの半神の加護持ちなどいらん。汚らわしい」と罵られ、2年もの間、まるで罪人のように魔力を搾取され続けた。
生きているか死んでいるかもわからない日々ののち捨てられ、心身ともにボロボロになったセレスティナに待っていたのは、世界でも有数の大国フォルヴィオン帝国の英雄、黒騎士リカルドとの再婚話。
しかも相手は半神の自分とは違い、最強神と名高い神の加護持ちだ。
どうせまた捨てられる。
諦めながら嫁ぎ先に向かうも、リカルドの様子がおかしくて――?
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる