【R18】処刑されるはずが、目覚めたら敵国王子の推し活包囲網にとらわれていました

浅岸 久

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全部あなたのもの(1)*

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 ふわりと身体が抱き上げられる。
 アーシュは真剣な表情のまま、大股で離宮の中へと入っていく。

 焦れるように早足で闊歩していき、辿り着いたのは離宮の最奥にある部屋だった。
 元は何代か前の王太后が過ごすために建てられた離宮は、女性の好む繊細な装飾が多い。しかし、辿り着いた部屋は重厚感のある雰囲気に満ちていた。

 群青の絨毯が敷きつめられた床に、マホガニーの家具。絵画は――ああ、最近私が恥ずかしいとよく言っているから、私たちがここに到着する前に別のものに差し替えられたのかもしれない。なんて、いくつも並ぶ見事な風景画を見て私は色々察して、ここが離宮にあるアーシュの部屋なのだと理解した。

 アーシュは部屋をつっきり、さらに奥、寝室へと辿り着く。
 午後の光が部屋に差し込むなか、アーシュは私をベッドに下ろし、天蓋の紐を解く。
 ベルベッドの天蓋が光を遮断し、世界が私とアーシュだけになったような錯覚が起こった。

 見られている。
 深淵のような瞳に、ジッと。

 その切実な光に応えたくて、私も手を伸ばした。
 両腕を彼の首の後ろに回し、ふたりでベッドになだれ込む。
 ふかふかのベッドに身を預け、ぐるんとひと回転。気がつけば、私がアーシュを組み敷く形で、彼の上に乗っかっていた。

「……え?」

 さすがに彼も予想外だったらしい。
 目を見開く彼の両頬を捕まえ、私は顔を寄せた。
 そしてキスを。触れるだけのキスを何度も。何度も。

「ん、……っ」

 そしたら、なんだか足りなくなって。ああ、こういう気持ちだったのかと理解する。
 今日はなんだか、彼に教え込んであげたいんだ。
 あなたのことを好きで、大切で、手放せない人間がここにいるよってこと。
 だから、あなたも手放さないで。ずっと側にいて。ぎゅっと抱きしめて。お願い。って縋りつきたい。

 私は焦っているのかもしれない。
 だって、彼のご家族はどれだけ手を伸ばしても、アーシュは頑なに距離を取ろうとした。
 いつか私の身に何か起きたら、また同じ選択をする可能性はゼロじゃない。

 ――ううん、きっとそんなことは起こらない。私はアーシュを信じたい。私を二度も助け、離さないと言ってくれた彼を。
 だからといって、今の関係に胡座をかいているつもりはなくて。

「好き」

 彼の黒い髪を梳きながら口づける。

「好きよ」

 伝われ、って祈りながら、何度も。

 アーシュも最初こそ戸惑いながら、なすがままになっていたけれど、やがてその瞳に熱を灯した。
 彼から、今度はもっと深いキスが求められ、私は唇をわずかに開く。そこから舌を差し出すと、待っていたとばかりに絡め取られた。
 嬲るような乱暴さを孕んだ愛撫で、唾液が混ざりあう。くちゅん、と淫靡な水音が耳の奥に響き、全身に震えが湧き起こる。ゾクゾクしながらわずかに瞼を持ち上げると、彼の黒玉が私を射抜いているのがわかった。

「――抱いて」

 我慢なんてできなかった。
 私は、この人に喰われたい。

 私の魔力の問題は解決していない。アーシュと身体を繋げると、問答無用で彼に魔力を吸収されてしまうから。
 アーシュの制御の問題? それとも、私のほう?
 なぜ、あんなことが起こるのかちっともわからないけれど、今は、そんなことを考える余裕もなかった。

 伝えたいのだ。
 この身体の隅々まで、あますことなくあなたのものだと。

 だから、私は厚手の彼のマントを剥ぎ取り、そしてコートに手をかける。
 彼も彼で私の身体を弄りながら、着込んだ衣装を脱がしていった。

 はだけさせたシャツの合間から彼の白い肌が見えた。
 逞しく、しなやかな筋肉は美しくもあるけれど、必要に迫られて身体を絞ったのだと考えると、胸の奥がしくりと痛む。同時に、例えようのない愛しさも湧いてきて、私は彼の肌にキスを落とした。そして、ちう、と強く吸いつく。
 普段、彼が私の肌に残すように、赤い印が灯ると、少しだけ胸がすく心地がした。
 多分、私も彼を繋ぎ止めていたいからだ。こうして、形に残せることがたまらなく嬉しい。

「好き。ん――ぁ、待って……!」

 と思えば、アーシュも私に任せてはくれないらしい。
 今度は自分の番だとばかりに、私のドレスの胸元を広げた。たちまち露わになる双丘に顔を埋め、唇を落とす。
 一箇所では足りなくて、二箇所、三箇所とたっぷり口づけるも、ちょっと待って。今日は私から彼を愛したいのだ。

「アーシュ、こっち」

 彼の頭を掴み、強引に上を向かせて目を合わせる。
 心得たとばかりに目を細めた彼の唇に、私も自分のものを重ねた。
 するっと彼の脇腹に両手を挿し込むようにして抱きつく背中をすーっと撫でていくと、アーシュがふるると睫毛を震わせた。

「ライラ?」

 止まるつもりなんてない。私は両手を彼の下腹部まで滑らせ、今度はベルトに手をかけた。カチャカチャと音を立てながら外すと、下着の上からでも彼のモノが主張しているのがわかる。それを布越しに何度か撫でてから、するっと下着も下へずらした。

「くっ……!」

 彼が甘い声を漏らすのがわかった。
 チラッと視線を彼の顔に向けると、頬が染まっている。眼帯で隠れた右側の頬も、きっと今は真っ赤だろう。
 いつも私ばかりがドキドキさせられてばかりだもの。でも、私だって、彼を愛したい。

 いつか、何もわからず拙い手つきで愛撫したときとは違う。
 私自身が彼を愛したいから、いきり立った屹立を両手で扱いた。
 身体の奥が熱くなり、早くほしいと脳を掠める。けれども、自分自身をも焦らすように、私は彼の熱杭に顔を近付けた。

「まっ、ライラ……!?」
「今度はちゃんと、受けとめてね?」
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