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認められる努力が努力とは限らない
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「ふん!」
リリーシャが勢いよく剣を振る。
それをドレイクが長銃で上段からガードする。
「ぐっ重っ!」
思わず、情けない声を出してしまう程にリリーシャの剣は重かった。
まるで彼女が背負っているものそのものの重さがそのままのしかかるようだった。
「この!」
リオは側面からハンドガンでリリーシャに応戦するがリリーシャは咄嗟に距離を取りながら剣を払うと弾丸を弾いて軌道を逸らせた。
「2人とも詰めが甘い!」
リリーシャは”縮地”と言う移動術で一気に間合いを詰めるとそのまま2人の脇腹に剣の柄で打撃を与え、2人は倒れた。
リリーシャとの模擬戦を始めて3日ほど経った。
宇宙空間と言う事もあり魔術の使用は現状、厳禁だが、それでもリリーシャは凄かった。
“縮地”と呼ばれる技を巧みに使い一気に間合いを詰めて剣を振るう。
ドレイクが長銃で距離を取っても一気に間合いを詰めて弾丸を弾きながら肉迫しドレイクの腕を掠める事もあった。
リオも因果魔術を駆使して戦ったが彼女の戦闘技術は非常に高く、100%命中する剣の前ではどれだけ因果を変えたところで回避はできないのでほとんど一方的に叩きのめされる。
彼女と真面にやり合えたのはラッシュ次いでルオくらいのモノでありラッシュは拳による肉迫でリリーシャと互角以上の戦いを繰り広げ、ルオは気配遮断等を駆使してリリーシャを翻弄した事でほぼ互角の戦いを繰り広げた。
互角とは言っても戦闘経験の差という点で踏まえるとリリーシャはラッシュ達を圧倒する場面もあったので完全に互角とは言えない。
むしろ、リリーシャは手加減しているのではないか?と思えるほど実力に開きを感じるほどだった。
それによって反省すべき点等も浮き彫りになった。
「どうもオレは接近戦に弱いな……」
「僕はそもそも、基礎の能力が低いかも……」
ドレイクとリオは自分の問題に直面した。
まず、ドレイクから言うなら彼は超距離射撃が得意でありそれに比べると接近戦が弱い。
接近戦できない訳ではないが本職とも言えるリリーシャ相手では力不足を否めない結果となった。
リオの場合は因果魔術を使ってもリリーシャに数%の活路を見いだせないなら因果魔術にとって重要な“原因”が存在しない為に因果を変えても効果が一切ない。
それはリオの基礎能力が低く、“原因”を造る力が無い為だ。
「2人とも筋は悪くない。ただ、少し甘いのが欠点だな。リオに関しては基礎的な能力が足りていないと言う印象がある。もっと武器を扱う精度や体力をつけないと傷一つつけられないぞ」
「仰る通りでございます」
リリーシャの的確なアドバイスにリオは何も言う事がなかった。
その通り過ぎて反論する余地はない。
今までは因果力のゴリ押しでなんとかなっていたがもうそれだけではどうしようもないところまで来ていた。
これがリリーシャだったから良かったものの仮に神であったらその隙をつけいられていたと考えるとゾッとする。
「それとドレイクは近接戦になった時に動きを失うな。銃とやらで咄嗟にガードするのは良いがそれではガードする物を失えばいくらでも付け入る隙がある。もっと全身を使って避けるべきだ」
「仰る通りだな」
ドレイクも頭を掻きながら得心した。
彼は遠距離型のスナイパーであり的を外した事は殆どない。
それは逆に至近距離のテイトリーまで敵を入れた事がないと言う裏返しでもあり、彼の場合はそれに加えてラッシュと言う近接戦での守りとも言える相方がいたので今までは問題にならなかった。
しかし、今回リリーシャと模擬戦を行う中でその弱点が浮き彫りになった。
今のドレイクはギデオンクラスターのドレイクになった以上、常にラッシュとバディが組めるとは限らず、相方によっては自ら接近戦に於いて自衛しないとならない事も想定された。
ドレイク自身はそれでもある程度、自衛する自信があったがリリーシャの前で最早、惨敗だったのでリリーシャの言う事に対して特に反論は抱かなかった。
「それにしてもリリねえ強過ぎない?なんでそんなに強いの?」
リオは人懐っこい性格もありリリーシャと打ち解けており気軽に呼び合う仲になっていた。
「なんで、か……わたしには譲れないものがあるからな。魔王の脅威から人々を守る。民の為に一振りの剣になると昔、誓ったのだ。その誓いを譲る事が出来ない堅物だからだろうか」
リリーシャは少し自嘲気味な言い方で感慨耽った。
そのような自分の不器用さを自覚していながらそれでも上手く付き合おうともがく、人間の生き様を感じるような顔にドレイクは思えた。
彼女にも色んな出会いと葛藤がありそれが今の表情に全て詰まっていたのだと思えた。
深く聴くつもりはないが生きて無様を晒しながらもそれでも誓いとやらを捨てない彼女の心の在り方にはドレイクも敬服した。
それはリオも同じであり殊更、拍手して敬服した。
「凄い!カッコいい!立派!本物の騎士みたい!」
それに対してリリーシャはクスリと笑うように微笑んだ。
「ありがとう。そのように言って貰えたなら騎士になった甲斐があったと言うものだ。だが、リオとて立派な騎士なのだから、もっと自信を持ったらどうだ」
自然な会話からリリーシャはさりげなくリオの抱えている悩みをうまく突いてきた。
(よく見てるよな……実戦経験が為せる戦術眼か?)
ドレイクはリオとそれなりに付き合いがあるので分かるがリオは自分に自信がない。
自分が役に立てているのか?とか自分がチームに貢献できているのかとか役立たずじゃないだろうかとかそんな事を心の片隅で気にしている。
恐らく、今まで育った環境が彼女にそのような考え方を植え付けたのだろうとドレイクは考えていた。
シュウもそこを気にしてかさりげなく、リオは役立っていると伝えているのだが、それはそれに関しては素直に受け取れないらしく世辞を言っているとか無理して言っているのではとか考えている。
ドレイクから見てもリオの貢献度はかなり計り知れないと知っている。
因果神との戦いでリオがいるといないでは戦闘結果は大きく変わっていただろう。
それこそ、部隊の全滅すらあり得た。
それだけリオの貢献度が高いのは皆が知っているのだが、他のメンバーとは違い因果力と言う目立たない能力で貢献している事も相まってリオは本当に貢献出来ているのか不安であり周りが言い聞かせてもリオ自身が納得いっていない節があったのだ。
そんな中でリリーシャはそんなリオの自信の無さにこの3日で気づいたのは本当に凄いと思う。
もし、リオを表面だけしか見ない人間なら彼女の能天気に明るく振る舞っているだけに見えただろうがリリーシャはそういったリオの心の暗い部分にも正眼を当てて向かい合おうとしていた。
「えぇ?僕はリリねえほど立派じゃあ……」
それに対してリリーシャはまるで悩んでいる妹を諭す姉のような暖かい微笑みを浮かべて対応した。
「そんな事はない。リオはどこかで他人から評価されない努力は努力ではないと考えているのでないか?」
「それは……多分、思ってる」
「なら、ハッキリ言う。そんなモノはまやかしだ。」
「まやかし?」
「あぁ、まやかしだ。人に認められない努力は努力ではないと言う人間がいるならその人間はよほど、自分勝手で周りを何も見てない愚か者だろうな。そのような堕落した考えは古来より淘汰されるべき存在だ」
その時のリリーシャの言葉には少しだけ重みがあった。
「少しだけ昔話をしよう。わたしの国と友好的な国にある将軍がいたんだ。だが、そいつはあまりに酷い奴でな。自分の手柄と保身しか考えないような奴で口先では自国防衛と魔王に殺された者への敵討ちを語ってはいたが上っ面だけの男だった。その癖、兵士ではない国民の事を「犬畜生以下の無駄飯喰らい」と罵り無作為に農民を徴兵し肉壁にしたり味方を巻き込んで新型魔術を平然と放ったりと散々な奴だった」
重苦しい話からしてリリーシャにとって何か苦い過去の記憶を想起させる内容なのだと伺えた。
だが、それを押してもなお、リオに伝えたい事があると言う誠意がありリオは黙してそれを聴いた。
「だが、そんな男の最後はあまりに無惨で最悪なモノだった。男は妄信的に軍事至上主義を掲げ、兵士の命よりも農民の命を軽んじある時に大規模な作戦の際に多くの農民を徴兵して肉壁と囮に使い爆破系の魔術で敵を一掃した事件が起きた。それは山が破壊され、大地が抉れるほどの物だった。だが、それが決起となり小麦を造っていた農家の働き手が激減しその国は食料の自給を賄えなくなった。更にあまりに非道なその男のやり方に生き残った農民も反旗を翻し騎士団には食料が配給されなくなりそこで飢えた兵士達が農民を虐殺し奪い合い、そこから内戦が起きるまで一瞬の事だった。そのまま泥沼化し結果、その国はその将軍の惨死と同時期に崩壊し領土と民は他国に分配されたのだ」
確かに酷い話だ。
その男は行いに応じた報いを受けたかも知れないがそれは人々の平穏を崩す形で終息した。
誰が想像しても国が崩壊した国民が安住を得られたとは思えない。
難民になった可能性が極めて高く地球を基準して良いのか分からないが難民となれば、恐らく30~40年間難民のまま過ごし一生を終える可能性すらあった。
それが苦労の絶えない生活である事は察するに余りある。
「ここで質問だ。リオ。その将軍は農民の努力を認めず、軍事のみの努力しか評価しなかった。しかし、それが正しいと思うか?」
「……思わない。間違っていると思う」
「そうだ。仮に農民が武器を取り戦わないとしても兵士達の食料を支えていたのは彼らだ。その努力が認められないからと無かった事にはできない……してはならないのだ。我々、騎士が日々戦えるのはそう言った見えない努力の積み重ねだ。確かに誰にも評価されないかも知れない。しかし、それ無くして物事は成り立たない。誰の努力も軽んじてはならないし目立たないからと「お前は要らない」と判断してはならない。だからこそ、リオも自分の努力を「要らない」と考えてはならない。お前がお前の努力を認めなければ、いつかそれが仲間を殺す事になるのだぞ」
「!」
その言葉はリオにとっては衝撃だった。
自分だけの問題ならそれでも良いと思った。
だが、違う……違ったのだ。
リオがリオ自身の努力を否認する事は自分が大好きなシュウ達を危険に晒す認識であるとリオは悟った。
リオにとってシュウ達は大切な存在であるのは疑いようがない。
だからこそ、この言葉で自分は変わらないとならないと深く思えた。
「……どうやら、理解したようだな。もう迷うな。自分の努力を素直に受け入れろ。それがリオが出来る最大の貢献だ。」
「うん……分かった」
リオはまるで猫を借りたように俯き加減に頷いた。
リリーシャはそんなリオも見て、安堵したように徐に頭を撫でた。
「よしよし、良い子だ」
その時のリリーシャはまるで可愛い妹でも撫でるように微笑ましく笑っていた。
◇◇◇
それ以来、リオは前向きに自分の努力を認めるようになり意識もだいぶ、向上しどことなく練習にも余裕があるように見えた。
今までは「役に立たない=だから、役に立つように」と言う意識があり焦っていた節があったが程よく肩の力が抜け、基礎能力も上がり始めてきた。
そんな頃にL21番格納庫の時空トンネルが開通した。
目の前にはウリムの王都が見えており複数の騎士達の顔も映っていた。
「世話になったな、皆」
リリーシャは深々と頭を下げる。
「いや、こっちも世話になった。かなり貴重な経験ができたぜ」
ドレイクもリリーシャに感謝の意を籠める。
「僕も……リリねえに大切な事を気づかせて貰った。本当に感謝してもし切れないよ」
リオもまた、リリーシャに感謝の意を籠める。
「なに、大した事じゃない。わたしはリオの背中を押しただけに過ぎない。それに応えたのはリオ自身の心の強さだ。リオ、お前は強い。だから、しっかり自信を持て」
「うん」
リリーシャはリオの事は何かと気にかけていた。
何故、気にかけているのは分からないがそれでも悪害感情はないので誰も聴こうとは思わなかった。
「長話が過ぎたな。わたしは一度、国元に帰りこの件を報告する。もしかすると、また会う事になるかも知れないがその時はよろしくな」
リリーシャは軽く手を振りながらトンネルの中を通って行った。
そこには複数の騎士がおりリリーシャはテキパキと指示を出している様子が伺えた。
「行ったな」
「行っちゃったね」
今回の件で一番世話になったドレイクとリオからすれば感慨に耽るモノがあった。
だが、悲しいとは思わなかった。
「リリねえとはまた、会う事になりそうだね」
「あぁ?なんでそう思うんだ?」
「勘かな?」
リオの勘とやらが当てになるのかは分からないがドレイクもそれには納得しく気がした。
その頃になると月面基地は大方復旧が完了しヘリウム3を地上に定期的に届ける事に成功していた。
地上では緊急メンテナンスが終わり多くのプレイヤーが“荒廃の文明”でグリード討伐に明け暮れ始めていた。
その頃になって任務を終えた4人はテレポートポータルを使って地上に戻る事になった。
リリーシャが勢いよく剣を振る。
それをドレイクが長銃で上段からガードする。
「ぐっ重っ!」
思わず、情けない声を出してしまう程にリリーシャの剣は重かった。
まるで彼女が背負っているものそのものの重さがそのままのしかかるようだった。
「この!」
リオは側面からハンドガンでリリーシャに応戦するがリリーシャは咄嗟に距離を取りながら剣を払うと弾丸を弾いて軌道を逸らせた。
「2人とも詰めが甘い!」
リリーシャは”縮地”と言う移動術で一気に間合いを詰めるとそのまま2人の脇腹に剣の柄で打撃を与え、2人は倒れた。
リリーシャとの模擬戦を始めて3日ほど経った。
宇宙空間と言う事もあり魔術の使用は現状、厳禁だが、それでもリリーシャは凄かった。
“縮地”と呼ばれる技を巧みに使い一気に間合いを詰めて剣を振るう。
ドレイクが長銃で距離を取っても一気に間合いを詰めて弾丸を弾きながら肉迫しドレイクの腕を掠める事もあった。
リオも因果魔術を駆使して戦ったが彼女の戦闘技術は非常に高く、100%命中する剣の前ではどれだけ因果を変えたところで回避はできないのでほとんど一方的に叩きのめされる。
彼女と真面にやり合えたのはラッシュ次いでルオくらいのモノでありラッシュは拳による肉迫でリリーシャと互角以上の戦いを繰り広げ、ルオは気配遮断等を駆使してリリーシャを翻弄した事でほぼ互角の戦いを繰り広げた。
互角とは言っても戦闘経験の差という点で踏まえるとリリーシャはラッシュ達を圧倒する場面もあったので完全に互角とは言えない。
むしろ、リリーシャは手加減しているのではないか?と思えるほど実力に開きを感じるほどだった。
それによって反省すべき点等も浮き彫りになった。
「どうもオレは接近戦に弱いな……」
「僕はそもそも、基礎の能力が低いかも……」
ドレイクとリオは自分の問題に直面した。
まず、ドレイクから言うなら彼は超距離射撃が得意でありそれに比べると接近戦が弱い。
接近戦できない訳ではないが本職とも言えるリリーシャ相手では力不足を否めない結果となった。
リオの場合は因果魔術を使ってもリリーシャに数%の活路を見いだせないなら因果魔術にとって重要な“原因”が存在しない為に因果を変えても効果が一切ない。
それはリオの基礎能力が低く、“原因”を造る力が無い為だ。
「2人とも筋は悪くない。ただ、少し甘いのが欠点だな。リオに関しては基礎的な能力が足りていないと言う印象がある。もっと武器を扱う精度や体力をつけないと傷一つつけられないぞ」
「仰る通りでございます」
リリーシャの的確なアドバイスにリオは何も言う事がなかった。
その通り過ぎて反論する余地はない。
今までは因果力のゴリ押しでなんとかなっていたがもうそれだけではどうしようもないところまで来ていた。
これがリリーシャだったから良かったものの仮に神であったらその隙をつけいられていたと考えるとゾッとする。
「それとドレイクは近接戦になった時に動きを失うな。銃とやらで咄嗟にガードするのは良いがそれではガードする物を失えばいくらでも付け入る隙がある。もっと全身を使って避けるべきだ」
「仰る通りだな」
ドレイクも頭を掻きながら得心した。
彼は遠距離型のスナイパーであり的を外した事は殆どない。
それは逆に至近距離のテイトリーまで敵を入れた事がないと言う裏返しでもあり、彼の場合はそれに加えてラッシュと言う近接戦での守りとも言える相方がいたので今までは問題にならなかった。
しかし、今回リリーシャと模擬戦を行う中でその弱点が浮き彫りになった。
今のドレイクはギデオンクラスターのドレイクになった以上、常にラッシュとバディが組めるとは限らず、相方によっては自ら接近戦に於いて自衛しないとならない事も想定された。
ドレイク自身はそれでもある程度、自衛する自信があったがリリーシャの前で最早、惨敗だったのでリリーシャの言う事に対して特に反論は抱かなかった。
「それにしてもリリねえ強過ぎない?なんでそんなに強いの?」
リオは人懐っこい性格もありリリーシャと打ち解けており気軽に呼び合う仲になっていた。
「なんで、か……わたしには譲れないものがあるからな。魔王の脅威から人々を守る。民の為に一振りの剣になると昔、誓ったのだ。その誓いを譲る事が出来ない堅物だからだろうか」
リリーシャは少し自嘲気味な言い方で感慨耽った。
そのような自分の不器用さを自覚していながらそれでも上手く付き合おうともがく、人間の生き様を感じるような顔にドレイクは思えた。
彼女にも色んな出会いと葛藤がありそれが今の表情に全て詰まっていたのだと思えた。
深く聴くつもりはないが生きて無様を晒しながらもそれでも誓いとやらを捨てない彼女の心の在り方にはドレイクも敬服した。
それはリオも同じであり殊更、拍手して敬服した。
「凄い!カッコいい!立派!本物の騎士みたい!」
それに対してリリーシャはクスリと笑うように微笑んだ。
「ありがとう。そのように言って貰えたなら騎士になった甲斐があったと言うものだ。だが、リオとて立派な騎士なのだから、もっと自信を持ったらどうだ」
自然な会話からリリーシャはさりげなくリオの抱えている悩みをうまく突いてきた。
(よく見てるよな……実戦経験が為せる戦術眼か?)
ドレイクはリオとそれなりに付き合いがあるので分かるがリオは自分に自信がない。
自分が役に立てているのか?とか自分がチームに貢献できているのかとか役立たずじゃないだろうかとかそんな事を心の片隅で気にしている。
恐らく、今まで育った環境が彼女にそのような考え方を植え付けたのだろうとドレイクは考えていた。
シュウもそこを気にしてかさりげなく、リオは役立っていると伝えているのだが、それはそれに関しては素直に受け取れないらしく世辞を言っているとか無理して言っているのではとか考えている。
ドレイクから見てもリオの貢献度はかなり計り知れないと知っている。
因果神との戦いでリオがいるといないでは戦闘結果は大きく変わっていただろう。
それこそ、部隊の全滅すらあり得た。
それだけリオの貢献度が高いのは皆が知っているのだが、他のメンバーとは違い因果力と言う目立たない能力で貢献している事も相まってリオは本当に貢献出来ているのか不安であり周りが言い聞かせてもリオ自身が納得いっていない節があったのだ。
そんな中でリリーシャはそんなリオの自信の無さにこの3日で気づいたのは本当に凄いと思う。
もし、リオを表面だけしか見ない人間なら彼女の能天気に明るく振る舞っているだけに見えただろうがリリーシャはそういったリオの心の暗い部分にも正眼を当てて向かい合おうとしていた。
「えぇ?僕はリリねえほど立派じゃあ……」
それに対してリリーシャはまるで悩んでいる妹を諭す姉のような暖かい微笑みを浮かべて対応した。
「そんな事はない。リオはどこかで他人から評価されない努力は努力ではないと考えているのでないか?」
「それは……多分、思ってる」
「なら、ハッキリ言う。そんなモノはまやかしだ。」
「まやかし?」
「あぁ、まやかしだ。人に認められない努力は努力ではないと言う人間がいるならその人間はよほど、自分勝手で周りを何も見てない愚か者だろうな。そのような堕落した考えは古来より淘汰されるべき存在だ」
その時のリリーシャの言葉には少しだけ重みがあった。
「少しだけ昔話をしよう。わたしの国と友好的な国にある将軍がいたんだ。だが、そいつはあまりに酷い奴でな。自分の手柄と保身しか考えないような奴で口先では自国防衛と魔王に殺された者への敵討ちを語ってはいたが上っ面だけの男だった。その癖、兵士ではない国民の事を「犬畜生以下の無駄飯喰らい」と罵り無作為に農民を徴兵し肉壁にしたり味方を巻き込んで新型魔術を平然と放ったりと散々な奴だった」
重苦しい話からしてリリーシャにとって何か苦い過去の記憶を想起させる内容なのだと伺えた。
だが、それを押してもなお、リオに伝えたい事があると言う誠意がありリオは黙してそれを聴いた。
「だが、そんな男の最後はあまりに無惨で最悪なモノだった。男は妄信的に軍事至上主義を掲げ、兵士の命よりも農民の命を軽んじある時に大規模な作戦の際に多くの農民を徴兵して肉壁と囮に使い爆破系の魔術で敵を一掃した事件が起きた。それは山が破壊され、大地が抉れるほどの物だった。だが、それが決起となり小麦を造っていた農家の働き手が激減しその国は食料の自給を賄えなくなった。更にあまりに非道なその男のやり方に生き残った農民も反旗を翻し騎士団には食料が配給されなくなりそこで飢えた兵士達が農民を虐殺し奪い合い、そこから内戦が起きるまで一瞬の事だった。そのまま泥沼化し結果、その国はその将軍の惨死と同時期に崩壊し領土と民は他国に分配されたのだ」
確かに酷い話だ。
その男は行いに応じた報いを受けたかも知れないがそれは人々の平穏を崩す形で終息した。
誰が想像しても国が崩壊した国民が安住を得られたとは思えない。
難民になった可能性が極めて高く地球を基準して良いのか分からないが難民となれば、恐らく30~40年間難民のまま過ごし一生を終える可能性すらあった。
それが苦労の絶えない生活である事は察するに余りある。
「ここで質問だ。リオ。その将軍は農民の努力を認めず、軍事のみの努力しか評価しなかった。しかし、それが正しいと思うか?」
「……思わない。間違っていると思う」
「そうだ。仮に農民が武器を取り戦わないとしても兵士達の食料を支えていたのは彼らだ。その努力が認められないからと無かった事にはできない……してはならないのだ。我々、騎士が日々戦えるのはそう言った見えない努力の積み重ねだ。確かに誰にも評価されないかも知れない。しかし、それ無くして物事は成り立たない。誰の努力も軽んじてはならないし目立たないからと「お前は要らない」と判断してはならない。だからこそ、リオも自分の努力を「要らない」と考えてはならない。お前がお前の努力を認めなければ、いつかそれが仲間を殺す事になるのだぞ」
「!」
その言葉はリオにとっては衝撃だった。
自分だけの問題ならそれでも良いと思った。
だが、違う……違ったのだ。
リオがリオ自身の努力を否認する事は自分が大好きなシュウ達を危険に晒す認識であるとリオは悟った。
リオにとってシュウ達は大切な存在であるのは疑いようがない。
だからこそ、この言葉で自分は変わらないとならないと深く思えた。
「……どうやら、理解したようだな。もう迷うな。自分の努力を素直に受け入れろ。それがリオが出来る最大の貢献だ。」
「うん……分かった」
リオはまるで猫を借りたように俯き加減に頷いた。
リリーシャはそんなリオも見て、安堵したように徐に頭を撫でた。
「よしよし、良い子だ」
その時のリリーシャはまるで可愛い妹でも撫でるように微笑ましく笑っていた。
◇◇◇
それ以来、リオは前向きに自分の努力を認めるようになり意識もだいぶ、向上しどことなく練習にも余裕があるように見えた。
今までは「役に立たない=だから、役に立つように」と言う意識があり焦っていた節があったが程よく肩の力が抜け、基礎能力も上がり始めてきた。
そんな頃にL21番格納庫の時空トンネルが開通した。
目の前にはウリムの王都が見えており複数の騎士達の顔も映っていた。
「世話になったな、皆」
リリーシャは深々と頭を下げる。
「いや、こっちも世話になった。かなり貴重な経験ができたぜ」
ドレイクもリリーシャに感謝の意を籠める。
「僕も……リリねえに大切な事を気づかせて貰った。本当に感謝してもし切れないよ」
リオもまた、リリーシャに感謝の意を籠める。
「なに、大した事じゃない。わたしはリオの背中を押しただけに過ぎない。それに応えたのはリオ自身の心の強さだ。リオ、お前は強い。だから、しっかり自信を持て」
「うん」
リリーシャはリオの事は何かと気にかけていた。
何故、気にかけているのは分からないがそれでも悪害感情はないので誰も聴こうとは思わなかった。
「長話が過ぎたな。わたしは一度、国元に帰りこの件を報告する。もしかすると、また会う事になるかも知れないがその時はよろしくな」
リリーシャは軽く手を振りながらトンネルの中を通って行った。
そこには複数の騎士がおりリリーシャはテキパキと指示を出している様子が伺えた。
「行ったな」
「行っちゃったね」
今回の件で一番世話になったドレイクとリオからすれば感慨に耽るモノがあった。
だが、悲しいとは思わなかった。
「リリねえとはまた、会う事になりそうだね」
「あぁ?なんでそう思うんだ?」
「勘かな?」
リオの勘とやらが当てになるのかは分からないがドレイクもそれには納得しく気がした。
その頃になると月面基地は大方復旧が完了しヘリウム3を地上に定期的に届ける事に成功していた。
地上では緊急メンテナンスが終わり多くのプレイヤーが“荒廃の文明”でグリード討伐に明け暮れ始めていた。
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