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第一章 学園編
14.狙撃手の追撃1
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『とにかくっ。今はティンベル様たちへの謝罪に専念するのっ。いいの?』
『えぇ』
彼女らが少し離れた場所でコソコソと内輪話をしている中、対するユウタロウたちは怪訝そうにその様子を観察していた。
すると、ヒメとディアンが同時に振り向き、意気込むような眼差しが彼らを捉える。
「あ、戻って来た」
能天気な声でチサトが言った。
何やら並々ならぬ気迫を感じ、ユウタロウは眉を顰めつつ、首を傾げた。
『……いい?リオ様直伝のあれで、一気に畳みかけるの。あれを前にすれば、流石の勇者も一瞬怯んで、怒りを忘れるかもしれないの。そこにつけ込むの』
『ひ、ヒメちゃん。悪党の台詞よそれ……まぁ私のせいなんだけど……』
「「……?」」
彼らの目の前まで歩み寄ると、ヒメたち二人はピタリとその動きを止めた。
何を仕出かす気だ?と、彼らは同時に首を傾げる。
その瞬間――。
「「申し訳ありませんでしたああああああ!!(なのぉ!)」
「「っ!?」」
勢いの良い土下座を、二人同時に繰り出した。思わず、ユウタロウたちは面食らってしまい、パチクリと頻りに瞬きをしている。
突如謝罪された理由も定かでない中、ここまで有無を言わさぬ土下座をされてしまえば、彼らに出来ることなど互いに目配せするぐらいである。
「おい……どういうことだ?」
「全てはこちらの不手際なの……ここにいるディアンがあなた方を敵だと勘違いしてしまったばかりに、失礼な対応をしてしまい、申し訳ないの」
「えーっと。つまり、アンタらに俺らと敵対する意思は無いと判断していいのか?」
「もちろんなの」
「そういや、アンタは?」
「申し遅れたの。ヒメはマスターに仕える、レディバグ構成員。序列対象外、ヒメ」
ユウタロウに尋ねられたヒメは、立ち上がって自己紹介をした。それに倣うように、ディアンもゆっくりと立ち上がる。
「さっきから気になってたんだが、その序列ってのは何だ?」
「特に深い意味は無いの。ただ、純粋にレディバグに所属する者の強さの度合いを表しているの。だけど、マスターを含めた数名はこの序列に適応されないの。ヒメはその一人なの」
「ほーん……何であんたは序列対象外なんだ?とてもか弱いようには見えないが」
「…………ヒメの力を計るのは、難しい……から?」
ユウタロウの問いに対する答えを、ゆっくりと吟味するように空を見上げる。そして、ふわふわ漂う雲を見つめながら、コテンっと、ヒメは首を傾けて言った。
「何で疑問形なんだよ」
「ごめんなさいね。いくら私たちの敵では無いとしても、レディバグの機密情報を易々と教えることは出来ないの。ヒメちゃんの説明で納得してくれるかしら?」
「……まぁいいけどよ。アンタら、こんな結界の中に何の用だ?」
「……多分、あなたたちと同じなの」
ディアンの言い分で渋々納得してやったユウタロウは、本題に入る。
結界の中に彼女らがいる現状況を踏まえると、二つの可能性が出てくる。
ユウタロウと同じように何らかの方法で結界をすり抜けたか、結界を張った人間の仲間という可能性の二つである。
とは言っても、彼女らの会話の内容からして、彼女らも何者かを尾行している最中だと思われるので、後者の可能性はかなり低い。
その為、ユウタロウは念の為に尋ねたのだが、ヒメの意味深な回答に首を傾げる。
「それはつまり、こういうことですか?
あなた方レディバグは、通り魔事件について調べている側で、事件の主犯格では無いと」
「もちろん。そもそも私たちがこの国の人々を害する理由が無いもの」
ユウタロウの代わりに、ティンベルは含みのある言い方で尋ねた。鎌をかけるために。
だが、彼女の思惑など知る由も無いディアンは、当然のように答えた。寧ろ、疑われていることが不服だと言わんばかりに。
「今回の事件の動機は未だ不明です。その主張は誰に対しても適用されますよ?それに、悪魔の愛し子の目撃情報については、どのように説明する気なのですか?」
責め立てるように尋問するティンベルに、ユウタロウは怪訝そうな眼差しを向ける。不信感を覚えたからだ。
元々ティンベルは、レディバグの無実を誰よりも信じ、彼らの悪評を払拭する為にこの事件を解決に導こうと奮起している。そんな彼女がわざとレディバグを疑っているような物言いをするのには、何か訳があるのでは?ユウタロウにはそう思えて仕方が無い。
「……目撃されたのはマスターじゃないの。件の愛し子を見つけることが出来れば、マスターの疑いは晴れるの」
「あなた方のボスが悪魔の愛し子であることは認めるのですね」
「別に隠している訳じゃないの」
この時、ユウタロウは漸く理解した。ティンベルが確信を得ようとしていることを。
レディバグのボスが悪魔の愛し子であるというのは、単なる噂である。確たる証拠に基づく話では無いので、ティンベルはそれが真実なのか確かめたかったのだ。だから鎌をかけた。
彼女は直球で尋ねても答えてくれないと踏んで、回りくどい方法を選んだのだが、ヒメの返答を踏まえると、それは要らぬ苦労だったようだ。
それならば、と。ティンベルは核心をつく為、口を開く。
「……一つ、お聞きしたいことがあるのですが」
「?……何なの?」
「あなた方のボスというのは……」
刹那、夥しいほどの気配を彼らは察知し、後ろを振り向く。その気配一つ一つに、明確な敵意が感じられた。場の緊張感に、ティンベルの問いはかき消されてしまった。
彼らが振り向いた先は、ユウタロウたちがやって来た方向。つまりは結界の外である。
眼前に広がるのは、赤い瞳の黒い面。その数は計り知れない。
身震いする様な圧迫感と、ジッと監視されているような違和感、そして冷たさ。それらしか感じられない仮面の集合体には、何故か生気が感じられなかった。
「……何だコイツら?殺意は感じられるっていうのに、生きてる感じがまるでしねぇ……」
「仮面から考えるに、通り魔事件の関係者、でしょうか?」
ユウタロウ、ティンベルが憶測を語る中、仮面をつけたそれらが動きを見せる。ユウタロウたちとの壁になっている結界に触れると、結界に含まれるジルを吸収し始めたのだ。
結界のジルを吸収すれば、自ずと結界の強度は落ちていき、最終的に結界は消滅する。結界が無くなれば、仮面の彼らが襲い掛かってくる可能性があるので、ユウタロウたちは警戒心を露わにした。
そして、結界が完全に消滅した瞬間。
「っ、来るぞ」
仮面の彼らは一斉に駆け出し、ユウタロウたちに襲い掛かった。
ヒメ、ディアンの二人は早速剣を抜いて応戦している。そんな中ユウタロウは、チサトとティンベルを庇いながら敵を倒していた。
「っ……おいチサト!生徒会長とどっか隠れておけ。正直言って邪魔だっ」
「でもユウちゃんが……」
「心配するな。コイツらクソ弱い。数が厄介だが、すぐに片付ける」
「分かったわ。行きましょ」
「え、えぇ」
戦闘員としては実力不足と判断されてしまった二人は、彼らの足手纏いになるのを恐れ、早々に撤退を始めた。一方、そんな二人が建物の陰へ向かうのを確認したユウタロウは、ニヤリと不敵に破顔する。これで心置きなく、目の前の敵を殲滅することに集中できるからだ。
ユウタロウは低い姿勢で刀の柄にそっと手を添えると、抜くと同時に一気に駆け出した。刹那の内に二十メートル程の距離を進んだかと思うと、その間すれ違った敵全てが、一斉にガシャンと倒れこむ。それら全ての首は刎ねられており、仮面と胴体が分かれている状態であった。
目を瞠るほどのユウタロウの早業に、ヒメたちは息を呑む。
「……やっぱコイツら人間じゃないな。手応えが無い」
「っ!……まさか、人形なの?」
「恐らくな。操縦者がどこかにいるはずだ」
衝撃を受けつつ冷静に推測したヒメに、ユウタロウは首肯して返す。
仮面の彼らに生気が感じられず、一切言葉を発しなかったのも、彼らが操られた人形だからと言うのなら腑に落ちるのだ。
「その操縦者をどうにかしない限り……」
ふと、今しがた倒したばかりの敵を見下ろすと、嫌な予感を察知する。バラバラになった仮面の人形を鋭い眼差しで捉えると、変化は顕著に表れた。
「何度でも蘇るぞ」
倒したはず人形が刹那の内に、まるでゾンビのように起き上がり始めた。切断された首がみるみる内に修復されていき、ユウタロウは忌々し気に舌打ちするのだった。
********
倒しても、倒しても、倒しても――。
全くもって切りのない敵に、ユウタロウ含めた三人は疲弊していた。一体一体の強さなんてものは無いに等しいのだが、如何せん数が多い。人形を倒して操縦者の元へ向かおうとしても、また別の人形が立ちはだかる。その上不死身なので、いくら倒してもまた復活してしまうのだ。
「はっ……操縦者が俺らの尾行に気づいているんなら、当にうってつけの足止めってわけか」
「倒しても倒しても切りがないのっ……イライラするのっ」
(……クレハとルルを先に行かせて正解だったな)
攻略困難な敵に苦しむユウタロウだが、副生徒会長の尾行が疎かにならずに済み、ホッと安堵した。だが――。
バンっ!
「……」
口をへの字に結び、眉を顰める。
――バンっ!
「……」
何かがおかしい。噛み合っていないような違和感がむず痒く、ユウタロウは心ここに非ずという表情である。
――バンっ!
耳を澄ませると時たま聞こえてくる、鮮烈で真っ直ぐな銃声。それらは敵の人形を次々と撃ち落としており、明らかに加勢してくれているようであった。
だが正体が不明なので、その不可解さにユウタロウは首を傾げる。
「なぁ……」
「何なの?」
「人形狙撃されてねぇか?」
「されているの」
「いやどこの誰だよ。狙撃してんの」
「ナツメ様なの」
「はぁ?」
さも当然であるかのようにヒメは答えるが、その存在は周知の事実などでは無い。事実、ユウタロウは欠片も知らない人物の名を出され、当惑してしまっている。
「不服なの?それとも、流れ弾にあいそうで怖いの?」
「いや……不満どころか、驚くほど戦いやすくて逆に気味が悪い」
事実、ユウタロウはこれ以上ないほどの戦いやすさを感じていた。表現するのであれば、自身の手の届かない範囲をカバーしてくれているような。痒い所に手が届くような。そんな心地良さである。
それ自体に問題があるわけでは無い。ただ、そういったサポートは、長年の付き合いのある人間や、強固な信頼関係のある間柄で無ければ不可能だと思っていた。だが、狙撃手の知り合いなどユウタロウにはいない。つまりユウタロウは、その狙撃手とは完全に初対面なのだ。
故に、不気味という表現が相応しかったのだ。
********
「――様。……お嬢様。……お嬢様」
とある一室。伸びやかで低い、落ち着いた声が緩やかに響く。
声の主は二十代前後の青年。黒の燕尾服を着ており、当に執事の装いである。百八十センチの背丈に、黒髪。そしてキリっと鋭い黒目は、睨まれれば竦み上がる程精悍である。だが、優しく微笑むと柔和に弧を描く目元は、どんな女性であろうとも胸を熱くせざるを得ないだろう。
薄い藍色のレンズのモノクルをつける彼――ルークもまた、レディバグの仲間である。
「もう、何ですかルーク。今集中しているのですから、邪魔しないでください」
ルークの呼びかけに対し、鬱陶しそうに振り向いた少女が一人。彼女こそ狙撃手――ユウタロウが、その正確無比な狙撃を気味悪がった張本人である。
一四五センチの低身長。不釣り合いな長い髪は薄い水色で、可愛らしくツインテールにしている。
そして、彼女の容姿を語る上で欠かせない特徴が一つ。それは、彼女の大きく零れてしまいそうなほど大きな瞳。右目は髪と同じガラス色。左目は透けるように輝く黄色。――そう、オッドアイである。
低い背にはまたしても不釣り合いな、大きく重厚な狙撃銃を構え、彼女――ナツメ・イリデニックスは、地窓から仰々しくそれを突き出していた。
「お嬢様の言う様にその仮面の集団が、狙撃しても一時しのぎにしかならない不死身の軍勢なのであれば、それはジルの人形なのでは?」
「人形?」
「えぇ。私の推測が正しければ、操縦者がいるはずです。そちらを見つけて狙撃した方が、ヒメたちの助けになるかと」
「なるほど……流石はルークですね」
「勿体無いお言葉です」
純粋無垢な満面の笑みを向けられたルークは、洗練された動きで一礼する。
ルークの助言に従い、早速操縦者を探すことにしたナツメは、視線を元に戻す。
彼女の構える狙撃銃にスコープは無く、普通の人間であればユウタロウたちを視認することなど不可能。だからこそルークは、ナツメの語る内容から状況を推察することしか出来ない。
だが、ナツメは普通の人間ではない。理不尽な程に、彼女の能力は突出していた。有象無象の常識など、何の意味も成さないのだから。
『えぇ』
彼女らが少し離れた場所でコソコソと内輪話をしている中、対するユウタロウたちは怪訝そうにその様子を観察していた。
すると、ヒメとディアンが同時に振り向き、意気込むような眼差しが彼らを捉える。
「あ、戻って来た」
能天気な声でチサトが言った。
何やら並々ならぬ気迫を感じ、ユウタロウは眉を顰めつつ、首を傾げた。
『……いい?リオ様直伝のあれで、一気に畳みかけるの。あれを前にすれば、流石の勇者も一瞬怯んで、怒りを忘れるかもしれないの。そこにつけ込むの』
『ひ、ヒメちゃん。悪党の台詞よそれ……まぁ私のせいなんだけど……』
「「……?」」
彼らの目の前まで歩み寄ると、ヒメたち二人はピタリとその動きを止めた。
何を仕出かす気だ?と、彼らは同時に首を傾げる。
その瞬間――。
「「申し訳ありませんでしたああああああ!!(なのぉ!)」
「「っ!?」」
勢いの良い土下座を、二人同時に繰り出した。思わず、ユウタロウたちは面食らってしまい、パチクリと頻りに瞬きをしている。
突如謝罪された理由も定かでない中、ここまで有無を言わさぬ土下座をされてしまえば、彼らに出来ることなど互いに目配せするぐらいである。
「おい……どういうことだ?」
「全てはこちらの不手際なの……ここにいるディアンがあなた方を敵だと勘違いしてしまったばかりに、失礼な対応をしてしまい、申し訳ないの」
「えーっと。つまり、アンタらに俺らと敵対する意思は無いと判断していいのか?」
「もちろんなの」
「そういや、アンタは?」
「申し遅れたの。ヒメはマスターに仕える、レディバグ構成員。序列対象外、ヒメ」
ユウタロウに尋ねられたヒメは、立ち上がって自己紹介をした。それに倣うように、ディアンもゆっくりと立ち上がる。
「さっきから気になってたんだが、その序列ってのは何だ?」
「特に深い意味は無いの。ただ、純粋にレディバグに所属する者の強さの度合いを表しているの。だけど、マスターを含めた数名はこの序列に適応されないの。ヒメはその一人なの」
「ほーん……何であんたは序列対象外なんだ?とてもか弱いようには見えないが」
「…………ヒメの力を計るのは、難しい……から?」
ユウタロウの問いに対する答えを、ゆっくりと吟味するように空を見上げる。そして、ふわふわ漂う雲を見つめながら、コテンっと、ヒメは首を傾けて言った。
「何で疑問形なんだよ」
「ごめんなさいね。いくら私たちの敵では無いとしても、レディバグの機密情報を易々と教えることは出来ないの。ヒメちゃんの説明で納得してくれるかしら?」
「……まぁいいけどよ。アンタら、こんな結界の中に何の用だ?」
「……多分、あなたたちと同じなの」
ディアンの言い分で渋々納得してやったユウタロウは、本題に入る。
結界の中に彼女らがいる現状況を踏まえると、二つの可能性が出てくる。
ユウタロウと同じように何らかの方法で結界をすり抜けたか、結界を張った人間の仲間という可能性の二つである。
とは言っても、彼女らの会話の内容からして、彼女らも何者かを尾行している最中だと思われるので、後者の可能性はかなり低い。
その為、ユウタロウは念の為に尋ねたのだが、ヒメの意味深な回答に首を傾げる。
「それはつまり、こういうことですか?
あなた方レディバグは、通り魔事件について調べている側で、事件の主犯格では無いと」
「もちろん。そもそも私たちがこの国の人々を害する理由が無いもの」
ユウタロウの代わりに、ティンベルは含みのある言い方で尋ねた。鎌をかけるために。
だが、彼女の思惑など知る由も無いディアンは、当然のように答えた。寧ろ、疑われていることが不服だと言わんばかりに。
「今回の事件の動機は未だ不明です。その主張は誰に対しても適用されますよ?それに、悪魔の愛し子の目撃情報については、どのように説明する気なのですか?」
責め立てるように尋問するティンベルに、ユウタロウは怪訝そうな眼差しを向ける。不信感を覚えたからだ。
元々ティンベルは、レディバグの無実を誰よりも信じ、彼らの悪評を払拭する為にこの事件を解決に導こうと奮起している。そんな彼女がわざとレディバグを疑っているような物言いをするのには、何か訳があるのでは?ユウタロウにはそう思えて仕方が無い。
「……目撃されたのはマスターじゃないの。件の愛し子を見つけることが出来れば、マスターの疑いは晴れるの」
「あなた方のボスが悪魔の愛し子であることは認めるのですね」
「別に隠している訳じゃないの」
この時、ユウタロウは漸く理解した。ティンベルが確信を得ようとしていることを。
レディバグのボスが悪魔の愛し子であるというのは、単なる噂である。確たる証拠に基づく話では無いので、ティンベルはそれが真実なのか確かめたかったのだ。だから鎌をかけた。
彼女は直球で尋ねても答えてくれないと踏んで、回りくどい方法を選んだのだが、ヒメの返答を踏まえると、それは要らぬ苦労だったようだ。
それならば、と。ティンベルは核心をつく為、口を開く。
「……一つ、お聞きしたいことがあるのですが」
「?……何なの?」
「あなた方のボスというのは……」
刹那、夥しいほどの気配を彼らは察知し、後ろを振り向く。その気配一つ一つに、明確な敵意が感じられた。場の緊張感に、ティンベルの問いはかき消されてしまった。
彼らが振り向いた先は、ユウタロウたちがやって来た方向。つまりは結界の外である。
眼前に広がるのは、赤い瞳の黒い面。その数は計り知れない。
身震いする様な圧迫感と、ジッと監視されているような違和感、そして冷たさ。それらしか感じられない仮面の集合体には、何故か生気が感じられなかった。
「……何だコイツら?殺意は感じられるっていうのに、生きてる感じがまるでしねぇ……」
「仮面から考えるに、通り魔事件の関係者、でしょうか?」
ユウタロウ、ティンベルが憶測を語る中、仮面をつけたそれらが動きを見せる。ユウタロウたちとの壁になっている結界に触れると、結界に含まれるジルを吸収し始めたのだ。
結界のジルを吸収すれば、自ずと結界の強度は落ちていき、最終的に結界は消滅する。結界が無くなれば、仮面の彼らが襲い掛かってくる可能性があるので、ユウタロウたちは警戒心を露わにした。
そして、結界が完全に消滅した瞬間。
「っ、来るぞ」
仮面の彼らは一斉に駆け出し、ユウタロウたちに襲い掛かった。
ヒメ、ディアンの二人は早速剣を抜いて応戦している。そんな中ユウタロウは、チサトとティンベルを庇いながら敵を倒していた。
「っ……おいチサト!生徒会長とどっか隠れておけ。正直言って邪魔だっ」
「でもユウちゃんが……」
「心配するな。コイツらクソ弱い。数が厄介だが、すぐに片付ける」
「分かったわ。行きましょ」
「え、えぇ」
戦闘員としては実力不足と判断されてしまった二人は、彼らの足手纏いになるのを恐れ、早々に撤退を始めた。一方、そんな二人が建物の陰へ向かうのを確認したユウタロウは、ニヤリと不敵に破顔する。これで心置きなく、目の前の敵を殲滅することに集中できるからだ。
ユウタロウは低い姿勢で刀の柄にそっと手を添えると、抜くと同時に一気に駆け出した。刹那の内に二十メートル程の距離を進んだかと思うと、その間すれ違った敵全てが、一斉にガシャンと倒れこむ。それら全ての首は刎ねられており、仮面と胴体が分かれている状態であった。
目を瞠るほどのユウタロウの早業に、ヒメたちは息を呑む。
「……やっぱコイツら人間じゃないな。手応えが無い」
「っ!……まさか、人形なの?」
「恐らくな。操縦者がどこかにいるはずだ」
衝撃を受けつつ冷静に推測したヒメに、ユウタロウは首肯して返す。
仮面の彼らに生気が感じられず、一切言葉を発しなかったのも、彼らが操られた人形だからと言うのなら腑に落ちるのだ。
「その操縦者をどうにかしない限り……」
ふと、今しがた倒したばかりの敵を見下ろすと、嫌な予感を察知する。バラバラになった仮面の人形を鋭い眼差しで捉えると、変化は顕著に表れた。
「何度でも蘇るぞ」
倒したはず人形が刹那の内に、まるでゾンビのように起き上がり始めた。切断された首がみるみる内に修復されていき、ユウタロウは忌々し気に舌打ちするのだった。
********
倒しても、倒しても、倒しても――。
全くもって切りのない敵に、ユウタロウ含めた三人は疲弊していた。一体一体の強さなんてものは無いに等しいのだが、如何せん数が多い。人形を倒して操縦者の元へ向かおうとしても、また別の人形が立ちはだかる。その上不死身なので、いくら倒してもまた復活してしまうのだ。
「はっ……操縦者が俺らの尾行に気づいているんなら、当にうってつけの足止めってわけか」
「倒しても倒しても切りがないのっ……イライラするのっ」
(……クレハとルルを先に行かせて正解だったな)
攻略困難な敵に苦しむユウタロウだが、副生徒会長の尾行が疎かにならずに済み、ホッと安堵した。だが――。
バンっ!
「……」
口をへの字に結び、眉を顰める。
――バンっ!
「……」
何かがおかしい。噛み合っていないような違和感がむず痒く、ユウタロウは心ここに非ずという表情である。
――バンっ!
耳を澄ませると時たま聞こえてくる、鮮烈で真っ直ぐな銃声。それらは敵の人形を次々と撃ち落としており、明らかに加勢してくれているようであった。
だが正体が不明なので、その不可解さにユウタロウは首を傾げる。
「なぁ……」
「何なの?」
「人形狙撃されてねぇか?」
「されているの」
「いやどこの誰だよ。狙撃してんの」
「ナツメ様なの」
「はぁ?」
さも当然であるかのようにヒメは答えるが、その存在は周知の事実などでは無い。事実、ユウタロウは欠片も知らない人物の名を出され、当惑してしまっている。
「不服なの?それとも、流れ弾にあいそうで怖いの?」
「いや……不満どころか、驚くほど戦いやすくて逆に気味が悪い」
事実、ユウタロウはこれ以上ないほどの戦いやすさを感じていた。表現するのであれば、自身の手の届かない範囲をカバーしてくれているような。痒い所に手が届くような。そんな心地良さである。
それ自体に問題があるわけでは無い。ただ、そういったサポートは、長年の付き合いのある人間や、強固な信頼関係のある間柄で無ければ不可能だと思っていた。だが、狙撃手の知り合いなどユウタロウにはいない。つまりユウタロウは、その狙撃手とは完全に初対面なのだ。
故に、不気味という表現が相応しかったのだ。
********
「――様。……お嬢様。……お嬢様」
とある一室。伸びやかで低い、落ち着いた声が緩やかに響く。
声の主は二十代前後の青年。黒の燕尾服を着ており、当に執事の装いである。百八十センチの背丈に、黒髪。そしてキリっと鋭い黒目は、睨まれれば竦み上がる程精悍である。だが、優しく微笑むと柔和に弧を描く目元は、どんな女性であろうとも胸を熱くせざるを得ないだろう。
薄い藍色のレンズのモノクルをつける彼――ルークもまた、レディバグの仲間である。
「もう、何ですかルーク。今集中しているのですから、邪魔しないでください」
ルークの呼びかけに対し、鬱陶しそうに振り向いた少女が一人。彼女こそ狙撃手――ユウタロウが、その正確無比な狙撃を気味悪がった張本人である。
一四五センチの低身長。不釣り合いな長い髪は薄い水色で、可愛らしくツインテールにしている。
そして、彼女の容姿を語る上で欠かせない特徴が一つ。それは、彼女の大きく零れてしまいそうなほど大きな瞳。右目は髪と同じガラス色。左目は透けるように輝く黄色。――そう、オッドアイである。
低い背にはまたしても不釣り合いな、大きく重厚な狙撃銃を構え、彼女――ナツメ・イリデニックスは、地窓から仰々しくそれを突き出していた。
「お嬢様の言う様にその仮面の集団が、狙撃しても一時しのぎにしかならない不死身の軍勢なのであれば、それはジルの人形なのでは?」
「人形?」
「えぇ。私の推測が正しければ、操縦者がいるはずです。そちらを見つけて狙撃した方が、ヒメたちの助けになるかと」
「なるほど……流石はルークですね」
「勿体無いお言葉です」
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彼女の構える狙撃銃にスコープは無く、普通の人間であればユウタロウたちを視認することなど不可能。だからこそルークは、ナツメの語る内容から状況を推察することしか出来ない。
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宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
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