レディバグの改変<W>

乱 江梨

文字の大きさ
58 / 117
第二章 過去との対峙編

54.似ていない姉弟1

しおりを挟む
「……アイツ……まぁたストーカーかよ」
「ストーカー?」
「すまん。クレハも来てたみたいだ……。
 おいクレハ!さっさと降りてこい!」


 アデルが疑問の声を上げると、ユウタロウは二階に向かって大声で彼を呼んだ。一方、クレハのストーカー癖など知る由も無かったアデルたちは、先の物音の正体を教えられ、ほんの少しだけ面食らってしまう。

 刹那、クレハは一切の物音も無しに皆の前に現れ、彼らはハッと息を呑んだ。

 クレハはユウタロウに呼ばれた瞬間、二階を駆け、二階から一階を繋ぐ階段をひとっ飛びに降りた。その一連の動きを、微かな足音も無しにやってのけたのだから、彼らの驚嘆は一入だろう。


「主君。お呼びだろうか」
「いやお前何でこんなとこまでストーカーしてんだよ。ここまで転移術で来たっていうのに」


 ユウタロウの前に跪いたクレハに、彼は純粋な疑問をぶつけた。彼らはここまで、アデルとリオの転移術でやって来たので、本来であればクレハがその後を追うのは不可能だ。ならばどうやって、クレハはここまで辿り着いたのか?


「……気配を消し、コッソリとそこの者に触れたのだ」


 そこの者と言ってクレハが指差したのは、転移術を行使したリオである。対するリオは当惑したような表情で自分自身を指差し「あれま」と情けの無い声を漏らしていた。

 その様子から、リオが故意にクレハの存在を黙っていた訳ではなく、本当にその気配を察知できなかったことは明らかであり、アデルは感嘆の声を漏らしてしまう。


「リオでも気づかなかったのか……。凄いであるな」
「その技術をこんな下らねぇことに使うなってんだ」
「主君!これは下らぬ行為などでは無くっ、いつ如何なる時も主君を見守る為には必要不可欠な行為であって……!」
「ストーカーはみーんなそう言うのよ」
「ビッチは黙っていろ」
「はぁ!?」


 意図せずチサトとクレハの口論が始まってしまい、レディバグの面々はおろおろと当惑した。そんな中、ロクヤにとっては慣れた光景だったせいか、彼だけが〝二人の喧嘩の時の口論の内容って、いつも同じだよなぁ……〟と、心底どうでもいいことを考えていた。

 だが、そんな二人の口論も、ユウタロウの精悍な一声によって終幕を迎えることとなる。


「てめぇらいい加減にしねぇと殴って外に捨てるぞ」
「「っ……」」


 ピシャリと、舌鋒鋭く咎められた瞬間、二人はひゅっと息を呑み、顔を真っ青にさせた。何故ならユウタロウは、人一人殺めるのかと思える程冷たい瞳で彼らを捉えており、その殺気で全身が粟立って仕方がなかったのだ。
 ユウタロウは、やると言えばやる男だ。仲間だろうが、愛する恋人であろうが。殴ると言えば容赦なく殴る。女性のチサトには多少の手加減はするだろうが、頭に拳骨を落とされるぐらいの覚悟は持たなくてはならない。


「クレハ」
「はっ」
「生徒会長が実家に帰ってる間、生徒会長の護衛してやれ。お前なら誰にも気づかれること無く、屋敷に侵入できんだろ」


 その瞬間アデルたちは、ユウタロウがクレハを呼び寄せた本来の理由を理解した。クレハの隠密スキルがリオを欺く程であることは、先の出来事で証明されている。そんな彼であれば、クルシュルージュ家に侵入し、影ながらティンベルを見守ることなど朝飯前であろう。

 彼以上にティンベル護衛に適任な者はいなく、ユウタロウは誰よりもそれを理解していたのだ。だが、当の本人は乗り気でないのか、ほんの少しだけ顔を顰めてしまう。


「……しかし、それでは主君を見守る任が……」
「誰もてめぇにそんな命令したことねぇだろうがよ。俺がてめぇに守られなきゃ戦えねぇような弱者だとでも?」
「っ!そのようなことは決して……!」
「ならやれ」
「……承知した」


 渋々といった感じではあったが、クレハはティンベルの護衛を引き受けてくれた。クルシュルージュ家の調査の為に尽力してくれることとなったクレハに対し、ティンベルは申し訳なさそうに一礼する。


「お手間を取らせてしまい、申し訳ありません。クレハ様……よろしくお願い致します」
「別に謝る必要なんてねぇよ。コイツがストーカーなのが悪いんだからよ」
「そ、そんなっ、しゅ、主君……」
「……ギルドニスに似ているようで、全く似ていないのであるな」


 ユウタロウに突き放されたと感じたクレハは、一瞬にして顔面蒼白になると、慈悲を乞うように縋った。その姿は、親に見放され、涙目になる子供のようで、アデルはボソッと本音を零してしまう。

 アデルという人間を神のように崇め奉っているギルドニスと、ユウタロウという主を心から慕っているクレハ。この点に関して、二人はよく似ており、逆にユウタロウは、アデルが似ていないと称した理由が分からず、首を傾げてしまう。


「?どこが?」
「ギルドニスにこんな可愛げはないのだ」
「ぶっ……たっ、確かに……ギル坊、話し方癪に障るもんね、いい意味で」


 堪え切れなくなったように吹き出すと、リオはサラリと毒を放った。ギルドニスが気絶しているのは不幸中の幸いであったが、彼の場合、面と向かって言われたところで、清々しい程の満面の笑みで黙らせるだろう。

 だが、お目付け役であるナギカの鋭い眼が、呑気に笑うリオに照準を定めていた。


「リオ様。語尾に〝いい意味で〟をつければ、どんな暴言も無かったことに出来る訳ではありませんよ」
「そんなこと無いわよぉ。さっきのは煽り上手って意味だし」
「〝いい意味で〟にどれだけの可能性を感じていらっしゃるんですか。過度な期待はよくないかと」
「ナギ助に〝いい意味で〟の何が分かるのよ」
「リオ様には分かるというのですか」

「……何の口論だよこれ」
「さぁ?」


 突如鳴り響いた、ナギカとリオによる口論開始のゴングを前に、ユウタロウは遠い目をしてしまう。彼の疑問を受けたアデルではあるが、いつものことなので問題視しておらず、投げやりな返答をした。


「失礼いたしました。お見苦しい所を……」


 ユウタロウの遠い目から繰り出される、怪訝そうな視線をビシビシと肌で感じたのか、ナギカは我に返ると丁寧に陳謝した。

 ティンベルは微笑ましいものを見るように苦笑を零すと、改めて話を戻す。


「――私の話し合いたかった案件はあらかた話してしまいましたが、何か聞きたいことなどある方はいらっしゃいますか?」


 ティンベルの問いかけに対し、挙手という形で意思を示したのは、ユウタロウただ一人であった。


「では、ユウタロウ様」
「副生徒会長はどうなったんだ?」


 実は、ユウタロウはティンベルたちが彼の自宅に訪ねてきた時からずっと、ナオヤの近況を気にしていた。通称フェイクが騎士団に拘束されていた仲間全員を口封じに殺害したのなら、ナオヤの身にも危険が迫ったのではないかと、内心気が気では無かったのだ。

 厄介な呪術の使い手であるフェイクにとって、同じ敷地内にいるナオヤを殺すことなど、赤子の手を捻るようなものなので、ユウタロウの危惧は当然である。


「幸いなことに、副生徒会長は無事でした。彼はあのフェイクという男に騙されただけで、仮面の組織については何も知りませんでしたから。情報漏洩の心配は無いと判断されたのでしょう」
「そうか……」


 ナオヤが無事であることを知ると、ユウタロウは安堵した様にホッと息を吐いた。そんな彼の安堵を確固たるものとしたのは、付け加えるように言ったアデルだ。


「念の為、ヒメたちに副生徒会長の護衛をさせているのだ。心配する必要は無い」
「あぁ……道理でいないと思った」


 ユウタロウは納得の声を上げると、辺りを見回して彼らがいないことを確認した。初めて会ったレディバグ構成員がヒメたちなので、ユウタロウにとって彼女らがいないという現状は、たった一つのねじだけが外れているような違和感を生んでいたのだ。


「あぁ、そうだ。フェイクと言えば……」


 ――ドガンッ!!!!!!!!!!!!!!!

 アデルが何かを言いかけた刹那、その声をいとも簡単にかき消す轟音が鳴り響き、彼らはビクッと肩を震わせた。

 その轟音は入り口から部屋の奥へと続いていた。彼らは恐る恐る顔を上げると、衝撃で舞う風に眉を顰めながら、辺りの様子を見回した。すると彼らは、入り口の扉が大きなへこみを作りながら、室内の壁へと一直線に激突したことに気づく。
 頑丈に固定されている扉をいとも簡単に外し、分厚い扉に修復不可能なほどの傷を作るなど、並大抵の力では到底不可能である。

 そんな御業をやってのけたであろう来訪者に、彼らの視線は自然と集まった。扉を蹴飛ばした態勢のまま、獰猛な眼光でこちらを睨みつけているその女性に、ユウタロウたちは目を奪われる。

 百七十センチ強という、女性にしてはかなりの高身長。スラっと長い手足も相まって、体格はまるでモデルのよう。肌の色素も薄く、こんな状況でさえ無ければ見惚れる程の容姿を持っている。
 青みがかかった紺色の髪は地面につく程長く、それを頭の高い位置でポニーテールにしている。軍服をベースとした衣服を身につけており、彼女の勇ましさを際立たせていた。だが、膨らみのある袖や、太ももの半分程しか隠せていないミニスカートは女性的である。

 髪と同じ色の瞳が捉えているのはアデルで、その彼は席を立つと、嬉々とした様子で彼女の元へ歩み寄った。


リン。よく来たのだ」
「アデルてめぇ……このアタシを通信術一つで呼びつけるとはいい度胸してんじゃねぇか……それ相応の用件があっての愚行なんだろうなぁ?あ゛?」
「文句言いつつちゃんと来るリンリンが、俺は大好きよ」


 アデルに向けられた震え上がるような脅しも、能天気なリオのせいでぶち壊しである。リオの周りだけ陽だまりのような空気が流れており、その場違い感が気まずい困惑を生み出していた。

 出鼻をくじかれ、苛立った彼女――林は、ピキッと蟀谷に血管を浮かばせる。


「よし分かった。リオは後でぶん殴るから覚悟しとけ」
「通信術で呼びつけないで直接会いに来て欲しいって、素直に言えばいいのにねぇ?」
「リオ様。その辺りでとどめておかないと、拳骨の数が増えてしまわれますよ」


 リオはナギカに向けて内輪話をしているつもりであったが、声が丸聞こえなので、ナギカはチラチラと林の様子を窺いながら、リオに忠告をした。

 一方、突然の来訪者に対する衝撃が抜けきらないユウタロウは、遅れて疑問を呈する。


「……なんだ?この暴走機関車みたいな女」
孫林ソンリン……皓然ハオランの姉なのだ」
「皓然って……あぁ、アイツか…………あ?」


 孫皓然。彼のことを記憶の中から手繰り寄せたユウタロウは一瞬、納得の声を上げたが、刹那の内に怪訝そうな表情を露わにした。


『あ、こんにちは。勇者一族の皆様。俺は孫皓然と言います。どうぞよろしく』


 ユウタロウの知る、孫皓然という男は当に、この自己紹介を体現したような人間である。いつもニコニコと穏やかな表情を浮かべ、物腰柔らかく、丁寧な口調で、礼儀正しい好青年。
 そんな彼を知っているからこそ、ユウタロウには不可解であった。どうしても、どう考えても、目の前にいる粗暴な女性と、あんなにも物静かな皓然が姉弟だとは思えなかったのだ。

 ユウタロウは現実逃避するように、悟りでも開いたのかと思える程真っ直ぐな目で林を見つめる。


「……そうか。よく分からねぇが、大変な事情でもあるんだな。今時義姉弟なんて珍しくねぇし、良いんじゃねぇの」
「おい待てこら。何で最初から血が繋がっていない前提なんだよ。アタシと皓然は正真正銘、血を分けた姉弟だっつーの。顔は似てんだろうが顔は」
「あ、性格が似てない自覚はあるんだな」
「はっ!アイツは男のくせになよっちぃからな。アタシとは正反対のタイプだぜ」


 吐き捨てるように言った林は、自身の弟を貶しているようであったが、ユウタロウたちは知らない。

 ――彼女が皓然を始めとする家族のことを、自らの命と引き換えにするのも厭わない程愛していることを。
 ――家族が血を流そうものなら、アデルでも制止するのが困難になる程に、林が怒り狂うことを。

 そもそも皓然は、林の言う様な弱々しい性格ではない。皓然を良く知る人間からすれば寧ろ、はっきりとした勇ましい性格をしている。豪快過ぎる林は自分自身と比較するので、相手が悪いのだ。


「……ってか、お前誰だよ」
「ユウタロウ。……一応勇者」
「……へぇ?」


 ユウタロウが勇者――強者であることを知った途端、林の獰猛な瞳にギラギラとした光が差し、彼女は片方の口角を精悍に上げた。危うくユウタロウは、刺々しい林の好奇心に呑み込まれてしまいそうになるのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...