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第二章 過去との対峙編
112.彼が陽の光を浴びる時-戦闘編-6
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泣きすぎたせいか、ライトが意識を取り戻したことで安心しきったせいか、ハヤテは頭がボーっとする感覚に襲われ、今にも眠ってしまいそうである。それに拍車をかけるように、ライトがハヤテの頭を撫でている為、ハヤテはうつらうつらとしていた。
そんな中、未だ状況を理解出来ていないライトは、勇者一族の屋敷内では浮きまくっている見知らぬ女性を前に、当惑気味な眼差しを向けていた。
「え、っと……君は……?」
「っ!」
ライトが尋ねた瞬間、朦朧としていたハヤテは彼女の存在を思い出し、ハッと目を見開いた。おかげで目が覚めたハヤテは、ライトの腕の中から抜け出すと、膝立ちのまま彼女に向き合い――。
「っ!あっ、頭を上げてくださいっ!」
地面に指先を添えて、深々と頭を下げたハヤテの行動に面食らってしまい、彼女は狼狽えた声を上げた。だがハヤテの意思は固く、土下座の姿勢から微動だにしないまま、感謝の弁を述べ始めた。
「……俺の大事な仲間を救ってくださり、ありがとうございました。感謝してもしきれません……このご恩は必ず……一生、いや、俺の全てをかけてでもお返し致します」
「ま、待ってくださいっ。私はただ、自分のできることをしただけでっ、そもそもこれは私の力ではありませんしっ……」
「?」
だいぶ重めなハヤテの恩返しは、彼女には抱えきれなかったようだ。彼女は慌てた様子で必死に遠慮し、何とかハヤテに頭を上げさせようと試みた。
蚊帳の外のライトは、自身の力ではないという彼女の言葉に疑問を抱き、首を傾げたが、その真意を追求することは出来なかった。
「あなたは、自身の成されたことを理解した方がいい……あのままではライトは……俺の大事な仲間は、死んでしまっていたかもしれない。それをあなたは救ってくれたんだ。ライトの命だけじゃない……その行為一つで、あなたは色々な物を……俺のことも、救ってくれた。奇跡なんてものじゃない。その力の偉大さを、きちんと理解すべきだと…………」
「「……??」」
ハヤテの話に聞き入っていた二人だったが、唐突にその言葉が途切れたことに違和感を覚え、キョトンと首を傾げた。一方のハヤテは見る見るうちに顔面蒼白になったかと思うと、再びメイリーンに土下座をしてしまう。
「申し訳ありませんっ……恩人に対して偉そうな態度をとってしまい……」
「い、いえっ……そのようなことは……」
ライトの命を救ってくれた恩人に対してまで、普段の癖で説教臭い物言いをしてしまったことをハヤテは悔いた。一方、過剰なまでの謝罪を受けてしまった彼女は、ハヤテの言葉に思う所があったのか、どこか間の抜けた返事しかできなかった。
だが、土下座をするハヤテの背中から、彼の後悔の念を犇々と感じ取った彼女は、ハヤテの誠実な人柄に触れ、思わず微笑んでしまう。
「……ふふっ、真面目な方なのですね?」
「真面目過ぎて心配になっちまうけどな」
彼女が機嫌を損ねてしまったかもしれないと危惧していたハヤテは、頭上から楽し気な笑い声が降ってきたことに当惑し、呆けた面で彼女とライトを見上げてしまう。
そんな和やかな空気が漂う中、それを汚す不躾な声がその場に響き渡る。
「貴様何者だっ!どのようにしてこの屋敷に侵入したっ!」
突然の出来事に茫然自失としていた一族の重鎮らも、ようやく彼女という不穏分子を無視できなくなったのか、彼女に対する警戒を露わにした。
それもそのはず。ツキマが屋敷中に張り巡らせた結界は一朝一夕で壊せるような代物ではない。レディバグの序列一位――あのリオでさえも全く歯が立たなかった程である。
その結界を詠唱一つで粉砕し、剰え、いつ死んでもおかしくなかったライトの傷を一瞬で癒してしまったあの御業。
それを目の当たりにして警戒しないのは、彼女の仲間ぐらいだろう。
重鎮らが剣を構え、メイリーンに害意を向けると、ハヤテたちもそれに対抗するように武器を手にしようとした。
だが――。
「……あの、この方々は、敵……ということでいいんですよね?」
「あ……はい、そう……なります」
この状況に危機感を覚えていないことが犇々と伝わって来る程のんびりとした声音に、ハヤテは思わず毒気を抜かれてしまった。
彼らを打破すべき敵であることを認識すると、メイリーンは冷たい眼差しで彼らを捉えた。
「……フェイント」
「「がぁああああああああああああああ!!」」
メイリーンが彼らに手を向け詠唱すると、刹那の内に彼らの頭上から雷のようなものが放たれた。それを一身に受けた重鎮らは、一人残らず気絶し、身体から焦げ臭い煙を上げている。
彼女はまるで息をするかのように平然と、当たり前にその御業をやってのけた。思わず二人は呆然と「すごい……」という感嘆の声を漏らしてしまう。
「あの……あなたのお名前を伺ってもいいだろうか?」
まだ名前を聞いていないことを思い出したハヤテは、呆けた顔のまま彼女に尋ねた。すると、彼女はハッとし、未だ彼らに名乗っていなかったことを自覚する。
彼女はスカートの裾を軽く持ち上げ、滑らかに足を滑らせた。美しい彼女のカーテシーに二人が目を奪われる中、彼女は優艶にその口を開く。
「申し遅れました。私はレディバグ、序列対象外……メイリーン・ランゼルフと申します。リオ様から連絡を受け、こちらに馳せ参じた次第です」
「序列、対象外?」
確か、ヒメという構成員も序列対象外だったか。と、ハヤテはユウタロウから聞き及んでいた話を照らし合わせながら、疑問の声を上げた。
レディバグの序列は彼らが各構成員の力量と立場を把握する為に作られた制度で、構成員同士の決闘を繰り返しことで、その序列を決定づけている。だが、その決闘のルールに性質上逸脱してしまう者は序列対象外となる。
つまり、彼女――メイリーンの力にも、ルールに逸脱してしまうような、特殊な性質があるということである。
「あの……不躾な質問をするようで申し訳ないのだが、あの超人的な治癒能力は一体……加えて、当主の張った結界をいとも容易く破壊してしまうなんて。……あなたは一体…………」
瞬間、メイリーンは少しだけ困ったように眉を下げると、物言いたげに微笑んだ。
「私に特別な力などありません。私は……大切な方々と神様に恵まれた、歌しか取り柄のない、ただの18歳の小娘ですよ」
「「……?」」
その真意を知る術を持たない二人は当惑気味に首を傾げた。彼らが彼女の超人的な力の秘密を知るのは、もう少し後の話である。
********
ユウタロウは、開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けていた。いや、衝撃というよりは恐怖に近いかもしれない。
本来のチサトのジルを解放した全身全霊の攻撃を放ったというのに、それを一身に受けたはずのツキマが、平然とその場に佇んでいたから。
その絡繰りを理解できていないユウタロウにとって、ツキマの存在は異質以外の何者でもなかった。
「どうしたユウタロウ。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
「てめぇ……いったい何をしやがった」
涼しい相好で不敵な笑みを浮かべるツキマは悪魔のように不気味で、ユウタロウは青ざめた顔で彼を睨み据えた。
「なに。お前が私を打破する為、渾身の一撃を用意してくるのは分かりきっていたからな。その対策を今しがた発動したまでだ」
「対策……?」
「そんなことよりも気分はどうだ?己が力で仲間を殺めた感想は」
「…………は?」
この男は本気で何を言っているんだ。そんなユウタロウの困惑の声が直接耳に響くかのような、そんな表情でユウタロウは呆けた。
――自分が仲間を殺めた?
――いつ?
――そんなわけがないだろう。
とにかくツキマの発言の意味が端から端まで理解できなかったユウタロウは、真面な疑問の言葉を投げかけることすら出来ずにいた。
「は……な、にいって……」
「殺したんだよ、お前は。……恐らく今頃、ハヤテ辺りが身体を裂かれているだろうな」
「なっ……!」
問いただしたいことは山ほどあるというのに、ハヤテの死という信じがたい情報を突き付けられ、その衝撃でユウタロウは動くことが出来ない。
一体何故そんなことになっているのだ。そう問いかける前に、ツキマはサラリと絶望を零していく。
「先ほどお前が俺に向けた攻撃だが、そのまま別の場所に移動させてもらった。ハヤテの父親を経由してな。あの男は聞き分けの悪い息子を処分する為に、俺の提案に乗ったが……自分も息子と一緒に朽ち果てるとは思ってもいなかっただろうな」
彼ら親子の決着にライトが介入してきたことは、ソウセイにとってもツキマにとっても想定外のことだ。当然、その場にいないツキマはライトの介入を知らない為、転移させたユウタロウの攻撃を受けたのはハヤテだと思い込んでいる。
「っ……!!お前……どこまで屑に成り下がれば気が済むんだっ……」
「いいじゃないか。親子共々無様に地獄へ逝けるんだ。あの壊れた家族にはお似合いの最期だろう」
「っ……!」
ハヤテを侮辱する言葉によってカッとなったユウタロウは、鬼のような形相でツキマに襲い掛かった。衝撃波を纏わせた剣撃は威力こそあれど、その精度にいつものキレはなかった。
ツキマに対する怒りと、ハヤテを殺してしまったかもしれないという形容しがたい不安で、ユウタロウの剣は鈍ってしまっている。
空を切るような素早さも、一太刀でありとあらゆる物を一刀両断してしまうような鋭さも、その攻撃には見受けられない。
当然、そのような乱れた攻撃がツキマに通用するはずもなく、ユウタロウの怒りの一撃はいとも簡単に防がれた。
「っ……」
「はぁ……失望させてくれるなよ、ユウタロウ。お前の力はその程度の代物ではないはずだ。たかだか仲間一人失った程度で、その素晴らしい戦闘術を鈍らせるな」
呆れたような表情のまま、ツキマは反撃にかかった。
両手を軽く挙げ、何かを操作するように不規則に動かすと、ある一定のところでピタリとその動きを止める。刹那、その両手が一直線に振り下ろされる。
すると、ユウタロウたちを取り囲む結界から、数え切れないほどの光の矢が出現し、その存在に彼らが気づくよりも早く、矢は一斉に彼の元へ放たれた。
「なっ……!?」
この数の矢を攻撃によって滅するのは不可能だと察したユウタロウは咄嗟に、自らとチサトを囲む結界を張った。刹那、その結界に数多の矢が刺さり、結界に傷を作っていく。
咄嗟に張った結界に矢を弾くほどの強度は無かった為、ユウタロウはその結界にチサトのジルを送り続けた。
だが、結界の強度を上げていく間も、光の矢による攻撃が止むことはなく、結界の傷がどんどん広がっていくばかり。
「ちっ……」と、軽く舌打ちをすると、ユウタロウは一か八か、反撃の機会を窺った。攻撃を防ぐために張った結界に蓄積されたジルを回収する為、結界を壊すと、そのジルで強風を発生させて何とか矢を防ごうとした。
「ふむ……」
ユウタロウの作り出した竜巻によって光の矢が舞い上げられていく様を眺めていたツキマは、思案顔で顎をさすると、手を動かして自らの結界を操作した。
すると、結界から放たれていた光の矢が徐々に弾丸へと変化していき、ユウタロウは目を見開く。
弾丸であれば例え突風の中でも掻い潜ることが出来るため、ユウタロウは咄嗟に剣を構えて弾丸を弾いた。
だが、先の光の矢と同数の弾丸が結界から止めどなく放たれている為、ユウタロウの剣撃で対処できるものでは無くなってしまう。それもそのはず。あの量の弾丸が拳銃から放たれた時と遜色ない速度で放たれ続けているのだ。例えるのなら、周囲を大量のライフルで埋め尽くされ、終わることのない銃撃を浴びているようなもの。
少しずつ、少しずつ。防ぎきれない弾丸が増えていき、ユウタロウの身体に傷を作っていく。苦悶の表情を浮かべながら弾丸をはじくユウタロウは、徐々に刃こぼれしていく剣と自身の身体を一瞥する。
その一瞬の気のゆるみがいけなかった。自身の胸に直進してくる弾丸に対する反応が、一瞬だけ遅れてしまう。
今から剣を振りなおしても間に合わない。ユウタロウがそう判断し、思わず目をぎゅっと瞑った、その時だった――。
「っ!?……結界がっ……」
「っ?」
弾丸に貫かれる衝撃がいつまで経ってもやって来ないことに疑問を覚えたユウタロウがそろりと瞼を開くと、その視界に映ったのは上空を凝視しながら衝撃に顔を歪ませるツキマの姿。
首を傾げつつツキマの視線を追うと、ユウタロウも衝撃と困惑で目を見開いた。
ツキマが屋敷中に張り巡らせた結界が、この刹那の間に何者かによって破壊されていたのだ。
そんな芸当をやってのけてしまう存在など、ユウタロウはアデル以外に心当たりが無かったが、アデルがこちらの援護にあたらないことも同時に理解していた。
では一体だれが……?
そんな疑問が両者の間で張り巡らされる中、ツキマはユウタロウ以上の脅威的な存在を前に、思わず顔を顰めるのだった。
そんな中、未だ状況を理解出来ていないライトは、勇者一族の屋敷内では浮きまくっている見知らぬ女性を前に、当惑気味な眼差しを向けていた。
「え、っと……君は……?」
「っ!」
ライトが尋ねた瞬間、朦朧としていたハヤテは彼女の存在を思い出し、ハッと目を見開いた。おかげで目が覚めたハヤテは、ライトの腕の中から抜け出すと、膝立ちのまま彼女に向き合い――。
「っ!あっ、頭を上げてくださいっ!」
地面に指先を添えて、深々と頭を下げたハヤテの行動に面食らってしまい、彼女は狼狽えた声を上げた。だがハヤテの意思は固く、土下座の姿勢から微動だにしないまま、感謝の弁を述べ始めた。
「……俺の大事な仲間を救ってくださり、ありがとうございました。感謝してもしきれません……このご恩は必ず……一生、いや、俺の全てをかけてでもお返し致します」
「ま、待ってくださいっ。私はただ、自分のできることをしただけでっ、そもそもこれは私の力ではありませんしっ……」
「?」
だいぶ重めなハヤテの恩返しは、彼女には抱えきれなかったようだ。彼女は慌てた様子で必死に遠慮し、何とかハヤテに頭を上げさせようと試みた。
蚊帳の外のライトは、自身の力ではないという彼女の言葉に疑問を抱き、首を傾げたが、その真意を追求することは出来なかった。
「あなたは、自身の成されたことを理解した方がいい……あのままではライトは……俺の大事な仲間は、死んでしまっていたかもしれない。それをあなたは救ってくれたんだ。ライトの命だけじゃない……その行為一つで、あなたは色々な物を……俺のことも、救ってくれた。奇跡なんてものじゃない。その力の偉大さを、きちんと理解すべきだと…………」
「「……??」」
ハヤテの話に聞き入っていた二人だったが、唐突にその言葉が途切れたことに違和感を覚え、キョトンと首を傾げた。一方のハヤテは見る見るうちに顔面蒼白になったかと思うと、再びメイリーンに土下座をしてしまう。
「申し訳ありませんっ……恩人に対して偉そうな態度をとってしまい……」
「い、いえっ……そのようなことは……」
ライトの命を救ってくれた恩人に対してまで、普段の癖で説教臭い物言いをしてしまったことをハヤテは悔いた。一方、過剰なまでの謝罪を受けてしまった彼女は、ハヤテの言葉に思う所があったのか、どこか間の抜けた返事しかできなかった。
だが、土下座をするハヤテの背中から、彼の後悔の念を犇々と感じ取った彼女は、ハヤテの誠実な人柄に触れ、思わず微笑んでしまう。
「……ふふっ、真面目な方なのですね?」
「真面目過ぎて心配になっちまうけどな」
彼女が機嫌を損ねてしまったかもしれないと危惧していたハヤテは、頭上から楽し気な笑い声が降ってきたことに当惑し、呆けた面で彼女とライトを見上げてしまう。
そんな和やかな空気が漂う中、それを汚す不躾な声がその場に響き渡る。
「貴様何者だっ!どのようにしてこの屋敷に侵入したっ!」
突然の出来事に茫然自失としていた一族の重鎮らも、ようやく彼女という不穏分子を無視できなくなったのか、彼女に対する警戒を露わにした。
それもそのはず。ツキマが屋敷中に張り巡らせた結界は一朝一夕で壊せるような代物ではない。レディバグの序列一位――あのリオでさえも全く歯が立たなかった程である。
その結界を詠唱一つで粉砕し、剰え、いつ死んでもおかしくなかったライトの傷を一瞬で癒してしまったあの御業。
それを目の当たりにして警戒しないのは、彼女の仲間ぐらいだろう。
重鎮らが剣を構え、メイリーンに害意を向けると、ハヤテたちもそれに対抗するように武器を手にしようとした。
だが――。
「……あの、この方々は、敵……ということでいいんですよね?」
「あ……はい、そう……なります」
この状況に危機感を覚えていないことが犇々と伝わって来る程のんびりとした声音に、ハヤテは思わず毒気を抜かれてしまった。
彼らを打破すべき敵であることを認識すると、メイリーンは冷たい眼差しで彼らを捉えた。
「……フェイント」
「「がぁああああああああああああああ!!」」
メイリーンが彼らに手を向け詠唱すると、刹那の内に彼らの頭上から雷のようなものが放たれた。それを一身に受けた重鎮らは、一人残らず気絶し、身体から焦げ臭い煙を上げている。
彼女はまるで息をするかのように平然と、当たり前にその御業をやってのけた。思わず二人は呆然と「すごい……」という感嘆の声を漏らしてしまう。
「あの……あなたのお名前を伺ってもいいだろうか?」
まだ名前を聞いていないことを思い出したハヤテは、呆けた顔のまま彼女に尋ねた。すると、彼女はハッとし、未だ彼らに名乗っていなかったことを自覚する。
彼女はスカートの裾を軽く持ち上げ、滑らかに足を滑らせた。美しい彼女のカーテシーに二人が目を奪われる中、彼女は優艶にその口を開く。
「申し遅れました。私はレディバグ、序列対象外……メイリーン・ランゼルフと申します。リオ様から連絡を受け、こちらに馳せ参じた次第です」
「序列、対象外?」
確か、ヒメという構成員も序列対象外だったか。と、ハヤテはユウタロウから聞き及んでいた話を照らし合わせながら、疑問の声を上げた。
レディバグの序列は彼らが各構成員の力量と立場を把握する為に作られた制度で、構成員同士の決闘を繰り返しことで、その序列を決定づけている。だが、その決闘のルールに性質上逸脱してしまう者は序列対象外となる。
つまり、彼女――メイリーンの力にも、ルールに逸脱してしまうような、特殊な性質があるということである。
「あの……不躾な質問をするようで申し訳ないのだが、あの超人的な治癒能力は一体……加えて、当主の張った結界をいとも容易く破壊してしまうなんて。……あなたは一体…………」
瞬間、メイリーンは少しだけ困ったように眉を下げると、物言いたげに微笑んだ。
「私に特別な力などありません。私は……大切な方々と神様に恵まれた、歌しか取り柄のない、ただの18歳の小娘ですよ」
「「……?」」
その真意を知る術を持たない二人は当惑気味に首を傾げた。彼らが彼女の超人的な力の秘密を知るのは、もう少し後の話である。
********
ユウタロウは、開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けていた。いや、衝撃というよりは恐怖に近いかもしれない。
本来のチサトのジルを解放した全身全霊の攻撃を放ったというのに、それを一身に受けたはずのツキマが、平然とその場に佇んでいたから。
その絡繰りを理解できていないユウタロウにとって、ツキマの存在は異質以外の何者でもなかった。
「どうしたユウタロウ。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
「てめぇ……いったい何をしやがった」
涼しい相好で不敵な笑みを浮かべるツキマは悪魔のように不気味で、ユウタロウは青ざめた顔で彼を睨み据えた。
「なに。お前が私を打破する為、渾身の一撃を用意してくるのは分かりきっていたからな。その対策を今しがた発動したまでだ」
「対策……?」
「そんなことよりも気分はどうだ?己が力で仲間を殺めた感想は」
「…………は?」
この男は本気で何を言っているんだ。そんなユウタロウの困惑の声が直接耳に響くかのような、そんな表情でユウタロウは呆けた。
――自分が仲間を殺めた?
――いつ?
――そんなわけがないだろう。
とにかくツキマの発言の意味が端から端まで理解できなかったユウタロウは、真面な疑問の言葉を投げかけることすら出来ずにいた。
「は……な、にいって……」
「殺したんだよ、お前は。……恐らく今頃、ハヤテ辺りが身体を裂かれているだろうな」
「なっ……!」
問いただしたいことは山ほどあるというのに、ハヤテの死という信じがたい情報を突き付けられ、その衝撃でユウタロウは動くことが出来ない。
一体何故そんなことになっているのだ。そう問いかける前に、ツキマはサラリと絶望を零していく。
「先ほどお前が俺に向けた攻撃だが、そのまま別の場所に移動させてもらった。ハヤテの父親を経由してな。あの男は聞き分けの悪い息子を処分する為に、俺の提案に乗ったが……自分も息子と一緒に朽ち果てるとは思ってもいなかっただろうな」
彼ら親子の決着にライトが介入してきたことは、ソウセイにとってもツキマにとっても想定外のことだ。当然、その場にいないツキマはライトの介入を知らない為、転移させたユウタロウの攻撃を受けたのはハヤテだと思い込んでいる。
「っ……!!お前……どこまで屑に成り下がれば気が済むんだっ……」
「いいじゃないか。親子共々無様に地獄へ逝けるんだ。あの壊れた家族にはお似合いの最期だろう」
「っ……!」
ハヤテを侮辱する言葉によってカッとなったユウタロウは、鬼のような形相でツキマに襲い掛かった。衝撃波を纏わせた剣撃は威力こそあれど、その精度にいつものキレはなかった。
ツキマに対する怒りと、ハヤテを殺してしまったかもしれないという形容しがたい不安で、ユウタロウの剣は鈍ってしまっている。
空を切るような素早さも、一太刀でありとあらゆる物を一刀両断してしまうような鋭さも、その攻撃には見受けられない。
当然、そのような乱れた攻撃がツキマに通用するはずもなく、ユウタロウの怒りの一撃はいとも簡単に防がれた。
「っ……」
「はぁ……失望させてくれるなよ、ユウタロウ。お前の力はその程度の代物ではないはずだ。たかだか仲間一人失った程度で、その素晴らしい戦闘術を鈍らせるな」
呆れたような表情のまま、ツキマは反撃にかかった。
両手を軽く挙げ、何かを操作するように不規則に動かすと、ある一定のところでピタリとその動きを止める。刹那、その両手が一直線に振り下ろされる。
すると、ユウタロウたちを取り囲む結界から、数え切れないほどの光の矢が出現し、その存在に彼らが気づくよりも早く、矢は一斉に彼の元へ放たれた。
「なっ……!?」
この数の矢を攻撃によって滅するのは不可能だと察したユウタロウは咄嗟に、自らとチサトを囲む結界を張った。刹那、その結界に数多の矢が刺さり、結界に傷を作っていく。
咄嗟に張った結界に矢を弾くほどの強度は無かった為、ユウタロウはその結界にチサトのジルを送り続けた。
だが、結界の強度を上げていく間も、光の矢による攻撃が止むことはなく、結界の傷がどんどん広がっていくばかり。
「ちっ……」と、軽く舌打ちをすると、ユウタロウは一か八か、反撃の機会を窺った。攻撃を防ぐために張った結界に蓄積されたジルを回収する為、結界を壊すと、そのジルで強風を発生させて何とか矢を防ごうとした。
「ふむ……」
ユウタロウの作り出した竜巻によって光の矢が舞い上げられていく様を眺めていたツキマは、思案顔で顎をさすると、手を動かして自らの結界を操作した。
すると、結界から放たれていた光の矢が徐々に弾丸へと変化していき、ユウタロウは目を見開く。
弾丸であれば例え突風の中でも掻い潜ることが出来るため、ユウタロウは咄嗟に剣を構えて弾丸を弾いた。
だが、先の光の矢と同数の弾丸が結界から止めどなく放たれている為、ユウタロウの剣撃で対処できるものでは無くなってしまう。それもそのはず。あの量の弾丸が拳銃から放たれた時と遜色ない速度で放たれ続けているのだ。例えるのなら、周囲を大量のライフルで埋め尽くされ、終わることのない銃撃を浴びているようなもの。
少しずつ、少しずつ。防ぎきれない弾丸が増えていき、ユウタロウの身体に傷を作っていく。苦悶の表情を浮かべながら弾丸をはじくユウタロウは、徐々に刃こぼれしていく剣と自身の身体を一瞥する。
その一瞬の気のゆるみがいけなかった。自身の胸に直進してくる弾丸に対する反応が、一瞬だけ遅れてしまう。
今から剣を振りなおしても間に合わない。ユウタロウがそう判断し、思わず目をぎゅっと瞑った、その時だった――。
「っ!?……結界がっ……」
「っ?」
弾丸に貫かれる衝撃がいつまで経ってもやって来ないことに疑問を覚えたユウタロウがそろりと瞼を開くと、その視界に映ったのは上空を凝視しながら衝撃に顔を歪ませるツキマの姿。
首を傾げつつツキマの視線を追うと、ユウタロウも衝撃と困惑で目を見開いた。
ツキマが屋敷中に張り巡らせた結界が、この刹那の間に何者かによって破壊されていたのだ。
そんな芸当をやってのけてしまう存在など、ユウタロウはアデル以外に心当たりが無かったが、アデルがこちらの援護にあたらないことも同時に理解していた。
では一体だれが……?
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それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
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