コトコトコトの番外事

黒川

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食べたい2人の番外編

古川さんの初恋は?

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大学4年、夏頃。
就職先内定済。
大学の卒業必須単位取得済。
名前『裕也』『健人さん』
言葉遣い フランク
同棲前


古川家に2人で挨拶をしに行った後の話です。


裕也視点。


✂︎------------------------------------✂︎



俺は今、健人さんに聞くべきか否か迷っていることがある。
それが、

健人さんの初恋相手だ。

先日、古川家に俺の事を紹介したいと言われて健人さんのご実家に行ってきた。
挨拶自体は拍子抜けするくらい、和やかに終わった。
思っていた以上に俺らの仲を認めてくれて、とても良くしてくれた。
嬉しい事だ。
それに、健人さんも自分の性的マイノリティをご家族に対して後ろめたさを感じていたと言っていたから、そこも、誤解……と言うか一方的に抱いていた気持ちが解消されて、良い方向に進んだんじゃないかな?と思っている。

そんな、ラノベだったらご都合主義乙と言われてしまうくらいの順調な関係に、不満があるわけでは全くないのだが、古川家に行った事で、俺はある仮説を導き出してしまったんだ。
それが、


『健人さんの初恋、お義兄さん説』


である。
お義兄さんと健人さんは一切血は繋がってない。
ご両親の再婚で兄弟になった。
それは、前々から聞いていた。
そして初めてのご挨拶の時、俺は衝撃を受けた。


お義兄さん、可っっっ愛いんだ。


ちょっと小柄。
170無い。165……あるか無いか?
それでいて、筋肉質で程よい体格。
真っ黒な髪の毛を短く刈り上げ、目がどんぐりみたいな丸っこい形をしてる二重、鼻も口も小さめで、愛嬌のある顔立ち。
分かってやってるのか知らないけど、笑うと顔中がしわくちゃになる。
嬉しいとか、楽しいを全身で表現する人で、動物に例えるなら柴犬。
中性的とは程遠い、割と男らしい見た目だけど、男の俺から見ても、お義兄さんはワンコみたいで可愛かった。

お義兄さんが、健人さんに話を振って、健人さんが答える。その時の、健人さんの表情が物語っていたんだ。
とても、慈しむような。懐かしいような、過去を思い出しているような。
俺だって健人さんの事が好きだ。
だから、その表情を見逃さなかった。
アレは過去にあった慕情を思い出している顔だった。



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼



「健人さんの初恋の相手ってお義兄さんだったりする?」



何事も溜め込まずに話した方が良いと教えてくれたのはハヤシダ様だったっけかな?
そのアドバイスは、要所要所で俺の背中を押してくれる。
今回も、迷ったけど結局ストレートに聞いてしまった。
健人さんはビクッと身体を震わせると、ギギギギ……と、油の切れたブリキ人形みたいな動きで俺の方を見た。
もう、その態度が物語ってる。
確定だ。
そっか。健人さんはあぁ言う人が好きだったのか。
俺とはタイプ違うよな……

「まだ何も言ってないよ?裕也」

あからさまに肩を落とした俺の態度で察したのか、直ぐに抱き締めてくれた。

「もう態度で丸分かりだよ。健人さんの初恋お義兄さんでしょ?」

グッ……と喉が鳴って、またブリキ人形ですか?みたいな動きで頷いた。別にやましい事が無ければ普通に答えてくれれば良いのに。

「……うん……でも、過去のことだし、今1番大切な人は間違いなく裕也だよ?」

「それも知ってる。俺も健人さんが1番だよ。そうじゃなくて。うん?そうなのかな?俺、ヤキモチ妬いてたのかも?」

健人さんに1番大切な人だと言われて気持ちがスッキリしている。そうか、不確定要素な憶測で悶々してたけど、事実を確認して、その上で愛されてることを認識したからか。そうかそうか。
俺が1人で納得していると、健人さんは隣で悶絶していた。

「裕也がヤキモチ!裕也がヤキモチだって!可愛い!かわいい!!」

あー。もう。恥ずかし。
付き合い始めて結構経つのに健人さんは相変わらず俺の事が大好きだ。
それは俺も同じなのだけど、でもこう言う態度を取られるのは恥ずかしいので、照れ隠しで健人さんの太ももをペシペシ叩いた。

「恥ずかしいからもう止めて。ヤキモチ妬いた。認める。でも今の1番は俺なんでしょ?だったら大丈夫。もうこの話はおしまい。でも健人さんとお義兄さんが小さかった頃の話を聞きたい。……したくないなら」

「うんうん、俺の自慢の義兄だよ。何から話そうかな……あぁ、あの話はどうかな……」

そう言いながら健人さんは俺の頬にキスをしてから語り始めた。
健人さんの家庭は少し複雑だ。再婚後の家庭仲は良かったが、その前は違った。と、健人さんからサラッと聞いたことがある。そのトラウマで中々お義父さんやお義兄さんに心を開けなかった事も。
だから、あまり自分から聞くことは無かったけど、幸せそうに当時を思い出しながら話をしてくれる健人さんを見ると、もっと話を聞きたいなと思ってしまった。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「健人さんがお義兄さんの事、好きになっちゃうの分かる。俺も健人さんの立場だったら初恋泥棒されてる、確実に」

「されないで!?向こう既婚者!奥さんと子どもたち大好き魔人だからね!?」

「例え話!」

「知ってた!」

「もう!」


チュッとキスで誤魔化される。
今までに無いくらい、たくさんお義兄さんエピソードを聞いて、勝てないと思った。
お義兄さん……カッコよすぎ……まぁぁ、だとしても健人さんの1番は俺だしな。


お義兄さんの話を聞いてから、一方的に親しみを感じていたある日、健人さんの家に冷凍便が届いた。
因みに、受け取ったのは俺だ。
たまたま健人さんの家に遊びに来て……と言うか、最近は、ほぼ入り浸って居るので、荷物や郵便の受け取りを代わりに良くしている。

「健人さーん!荷物届いたよ。俺の名前も書いてあるんだけど……」

「えー?誰から?」

台所で料理をしていた健人さんが、エプロンで手を拭き拭きこっちにやって来た。

「あ、義兄さんからだ。俺ら宛だね。冷凍便?うーん?食品?は?」

伝票の内容を読みながら無造作に包装をビリビリと開けていく。
すると、中から中華まんの箱が出てきた。

「あーー!!!中華街のお店の中華まん!この前、お義兄さんが美味しいって言ってたお店の!」

思わず身を乗り出して覗き込んでしまう。
健人さんは、苦笑いしていた。

「んもーぅ、義兄さんてば……2人でデートがてらに行くのに……」

俺は勝手に箱の中から説明書きを取り出し、一番美味しい解凍方法を読み込んだ。
しばらく送られてきた中華まんに釘付けだったが、我に返った。

「健人さん。お礼の電話かけないと」

「うーん?出るかなぁ?」

そう言いながら、健人さんは自分のスマホからお義兄さんに連絡をした。
因みに顔が見える様にビデオ電話だ。

「義兄さん?」

『おー、健人。元気か?』

「うん。元気だよ。荷物届いた。肉まんありがとう。裕也が受け取って……」

2人の会話が進む中、俺は後ろでウズウズソワソワ身体を揺らしていた。

『裕也く……』

俺の名前呼んでくれた!

「お義兄さん!!中華まん!嬉しいっ!ありがとうございます!!あのっ!!あれっ!!前に話しをしてくれたヤツ!!」

健人さんの横に引っ付いて、お義兄さんにお礼を言おうと思ったけど、興奮して言葉が続かない。

『うはははは!元気だなぁー!!うんうん、裕也君が凄く興味持って話しを聞いてくれてたから、食べて欲しくなってね。なんなら健人の分も食っちゃっていいからな』

「義兄さん!?裕也に甘くない!?」

画面越しで、お義兄さんがゲラゲラ笑っている。
その声に気付いたのか、ワラワラと奥さんと子ども達もスマホの画面に現れた。

「え!?え!?裕也君から電話来てるの!?」

因みに、奥さんはキャンステ時代の姉ちゃんと、読モ時代の兄ちゃんのファンと言ってたので、2人の弟である俺に対しても、ちょっと態度が好意的だ。

「あ、たけとおじさんも居る」

子ども達とは、挨拶の時、あまり関わる事が出来なかったので、健人さん寄りの反応だ。

4人の大人と3人の子ども、スマホの小さい画面越しでは収集がつかなくなってしまい、健人さんが無理やり電話を終了させていた。

「じゃあね!義兄さん切るよ!義姉さんもオチビズもまたね!切るよ!!」

『悪ぃな、騒がしくて。裕也くーん!いつでも遊びに来ていいからな!』

『裕也君!来てね!また来てね!』

『えぇー!?いつー?いつ遊びにくるの!?たけとおじさんも来るの!?来る?』

「分かった!わかったから切るよ、バイバイ!」

「また今度お邪魔しまーす」

ヒラヒラと手を振ってる最中に画面が暗くなった。

「んもうっ!!裕也の人たらし!!」

プクッと頬を膨らませて健人さんが俺を睨む。……可愛いだけだけど。

「義兄さんも義姉さんも裕也裕也って!!俺の事を見てくれたのオチビ達だけだよ、もう」

あ……しまった。

「すみません……」

謝ると、健人さんはハッとしたように俺を見た。

「あ……いや、ごめん、違う。いや、違わないかな?いや、でも裕也が悪いわけじゃないよ?」

「俺が可愛かったばかりに……弟ポジションを奪ってしまって……」

少しだけ、真意混ぜつつ冗談で返す。
健人さんがみるみると顔を真っ赤にさせた。

「んもぉぉぉぉおおおー!!!そうだよ!ちょっと嫉妬した!あーーー!格好悪いっ!いい歳して義兄さんを取られた気持ちになりましたっ!裕也が可愛いからっ!あの人たちは俺より可愛い裕也にメロメロなの!これで満足!?」

真っ赤になりながら怒ってる。
思わず笑みが零れてしまった。

「健人さん可愛い。でもゴメン。俺の可愛いはいくらでも健人さんのご家族に見せられるけど、健人さんの可愛いは独り占めしたいので……お義兄さんに見せたらダメだよ?」

抱き着いて触れるだけのキスを唇にする。

「もー!!」

怒りながらもキスを受け入れてくれる健人さん。
少しだけ口を開くと、当然のように舌を捩じ込んできたので受け入れる。チュッと吸い付くと、舌を絡め取られた。スリスリと擦り合わせ強めに吸われる。
ずっと触れ合いたくて、健人さんの舌の動きに合わせて吸い付いたり絡めたりキスを楽しんだ。

「ふふ……」

ディープキスで頭がフワフワしていると、健人さんの機嫌が治ったのか、満足そうな顔で俺の頭を撫でてくれた。

「でも、こっちの可愛い顔は俺だけに見せてよね?」

「ぁい……」

キスの余韻から戻れず、ままならない返事と一緒にコクッと頷くと、

「裕也!!かわいい!!かわいい!!」

ギューギューに健人さんが抱き締めてくれた。
なんか、2人してお義兄さんにヤキモチ妬いたって考えると、真の人たらしは、お義兄さんなんだろうな。




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健人さんのお義兄さんは老若男女モテモテ。
※恋愛対象にはならないタイプのモテ

古川ファミリーの名前は相変わらずありません(名前付けるの苦手)
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