食べたい2人の気散事

黒川

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19 冒険者は、連れ立つ。

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着いた場所は大学から少し離れた路線バスのバス停。うちの学生が頻繁に使うような交通機関では無い。待合のベンチもガランとしてる。行き先としては、帰りの方向なので、電車じゃないのかと頭にハテナマークを浮かべてると

「ゆん君、大学では有名人なの?」

とタットさんに聞かれた。

「門の前で、ゆん君と居たら、あんな短時間なのに行き交う学生みんな振り返ってるし、なんなら出待ち?みたいな女の子達も居たよね?男の子も居た?かな?」

「あー……俺、結構なイケメンなんで大学で良く声かけられるんですよ。全てガン無視してるんですけどね。女子は要領を得ない話を振ってくるし、男は……飲みとか遊びに誘ってきますけど、きっとアレって合コン?とか言うやつです。ついて行った事無いんで知らないですけど」

ホント、男からの誘いの真意は知らないけど「顔要員」とかってやつだろ?漫画で読んだことある。
そこまで言うと、タットさんが吹き出して笑った。

「ゆん君容赦ないね……なんか……大学の子達が可哀想なんだけど……そんな塩対応のゆん君と一緒に居られてる自分がちょっと嬉しい。あー……バスを選んだのはね、その周りの反応が気になったんだ。このまま2人で歩いて駅まで向かうと、その内誰かが話しかけて来るんじゃないかって思ってさ……逆方向のバス停なら流石についてくる人も居ないだろって思って……」

最後、尻すぼみな言葉尻まで俺はキチンと聞き取り、ふんふんと頷いた。

「要するに、邪魔されたくなかったって事ですよね?だったら俺も一緒です。今はタットさんと2人で居たいので、こう言う気遣いは嬉しいです。俺、毎日ここ通ってるのにバス停があるなんて知りませんでした」

バス停の時刻表を確認すると、まだ時間がかかりそうだった。健脚な俺たちは、ベンチに座ることなく、バス停のポール傍に並んで立っていた。
バス停に連れてこられた事は理解出来たので、俺としては特に思うことは何も無いのだが、タットさんは何か思うところがあったのか、少し黙ってしまい、沈黙が続いた。
別に沈黙が苦手と言うわけでも無いので、起動させていたCDフィットの画面を覗く。
と、レアボスが出現していた。
俺は思わずバシバシとタットさんの肩を叩いた。

「タットさん!タットさん!出た!出た!レアドラゴン出た!これ2人なら倒せますよ絶対!あぁ~!バス!まだ来ないですよね!?はやく!はやく!」

「え?え!?」

戸惑いながらもゲーム画面を開き、「うわマジか」と言いながら、タットさんもボス戦画面に素早く切り替えていた。俺も続いてボス戦に切り替える。
今のゲームシーズンは、新しいイベントは無いのだが、神出鬼没(攻略サイトにも情報は上がってこない)のレアボスが出現する。ガチ勢の俺ですら滅多にお目にかかれないのでテンション爆上がりだ。

「じゃぁ、いきますよー!」
「うん!」

気まずかった空気が、一気に和んだ。



予想通り、レアドラゴンは俺たち2人で戦ったらサクッと倒すことが出来た。1人だったら苦戦してたと思う。

「レアアイテムドロップ無しかぁ」

タンタンタンタン!と、叩いても意味の無いクリア画面をタップする。いや、本当に意味無いんだけど、何故かやりたくなるCDフィットあるある。

「レアドラゴンと言っても難易度はそこまで高くなかったし、仕方ないよ。俺はこのドラゴン倒したことないからモンスター図鑑が増えて満足してる。あと、ゆん君と一緒に倒せたのも嬉しい」

タットさんはニコっと笑ってモンスター図鑑の画面を見せてくれた。良かった、雰囲気が戻っている。

しばらくCDフィットのアプリを開きながら、ゲーム話で盛り上がっていたら、バスが到着した。ICカードをかざして乗車する。路線バスは使った事が無いので、こんなバスが走ってるなんて知らなかった。
学校終わりとも、仕事終わりとも言える時間だったので、そこそこ乗車客も居た。俺たちは2人ならんで吊革に掴まる。
タットさんは、片手でスマホを操作しながら何か調べていた。のぞき込むのも失礼なので、俺は外の景色をぼんやりと眺めていた。

「んんー。このバスだと結構近くまで行けるね。ゆん君、次の次の停車場所で降りるよ」
「はい」

目的地までの経路を調べてたらしい。
路線図を見て、何となく今走っている所を把握した。どうやら俺たちの最寄り駅からは少し離れた場所だった。駅と駅の中間地点と言うか、絶妙な場所。とは言え、ショッピング街もあるので、こう言う路線バスが通ってる。と言ったところか?
ほどなくして、目的の停車場に着いたので、ICカードをかざして降車する。
目の前には商店街の入り口があった。
俺の知らない場所。
キョロキョロとあたりを見回してると、タットさんに腕を掴まれ、「こっちだよ」と引っ張られた。そのまま、言われるがままについて行く。ちなみに、腕はすぐ離された。
行き先は、商店街の中だった。
古きよき……と言うべきか、個人店が立ち並んでいて、お客さんもそこそこ行き交っていて賑やかだ。
そこから少し歩いて、小さな路地に入る。セレクトショップのような小さな店が立ち並んでいて、タットさんは、そこの2階を指さした。

「あのお店。俺の友だちがオーナーしてるんだよ。お酒を飲む場所だけど、ご飯もボリュームあって美味しいんだ」

ニコニコしながら階段を上り、カランとドアを開ける。「どうぞ」と、女性をエスコートするみたいに俺を店の中に入れてくれた。
なんかちょっとくすぐったい。
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