食べたい2人の気散事

黒川

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27 冒険者は、賞味する。

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面白くなかったので、タットさんの手を掴んで席に戻った。常連さんやらユネさんが面白そうに「あらあら」なんて言ってるけど気にしない。

「ゆん君、みんなにアレコレ言われるの嫌だった?ごめんね?」

「ここでアレコレ言われるのは慣れてるんで大丈夫です。常連さんもユネさんも、俺の事をよく分かってるので。そうじゃなくて、タットさんですよ。なんですか?さっきの可愛い仕草は。あれ、誰にでもしてるんですか?みんなタットさんが可愛いって事に気付いちゃったじゃないですか」

俺がムスッとしながら訴えると、タットさんはとても嬉しそうな顔をしてた。

「そうねぇ、見た目と仕草にギャップがあると思うわよ」

会話に割り込んできたのはユネさん。頼んでいたスパイシーカレーが運ばれてきた。ちなみにクリームソーダは食後だ。

「そうですか?」

コテン、と小首をかしげながらも、配膳されたスパイシーカレーに釘付けのタットさん。

「ほら、それよそれ。年増のババアから見ると何でも与えたくなっちゃうわぁ。デザートにティラミスはいかが?サービスするわよ」

タットさんがバッと顔を上げて効果音を付けるなら「ぱぁぁぁ!」が、とても似合う笑顔をユネさんに向けた。

「ちょ!ユネさん!!そしたら俺にもティラミス!あとユネさんはババアじゃないです!綺麗なお姉さんです!」

「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。今日は気分が良くなったから今居るお客さまみんなにミニティラミスサービスしちゃうわ」

そうユネさんが言うと、他のお客さん達が沸いた。俺もユネさんがつくるティラミス好きなので一緒に沸いておく。

「店主さん、太っ腹だね」

そう言いながらも、モグモグと既にスパイシーカレーを食べ始めてるタットさん。勿論きちんと手を合わせて小声で「いただきます」と挨拶をしていたのも見逃してない。こう言う丁寧な仕草がいいなっていつも思う。
俺も、遅ればせながらスパイシーカレーを食べる。
うん、いつもと変わらず美味しい。スパイスが効いてるのに辛味は程よい。1番好きなカレーの味だ。
お互い、無言で無心でモグモグと食べ続けた。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「さて、ゆん君」

「はい、タットさん」

「俺が考えてること、分かるね?」

カレーを食べ終わって、ティラミスとクリームソーダが運ばれてきたら、この発言だ。

「分からなくもないですが、どっちも美味しいので、どっちを先に食べても良いと思いますよ」

「んもぅ!!一刀両断!一緒に悩もうよ!」

タットさんは、甘いデザートと甘い飲み物は、別々に食したい人だって事を、今までの食事で気が付いた。ティラミスもクリームソーダも、どちらも甘い。よって、どちらを先に食べるか飲むか、悩むだろうなと思っていたら、案の定だった。俺としては、どっちを先にしても後にしても、自信を持って提供出来るメニューなので、自分で決めて欲しい。

「ちなみに、ゆん君はどちらを先にお召になるのかね?」
タットさんがよく分からないキャラを出てきた。かけてもいないメガネをクイッと上げる仕草も加わってる。

「俺はティラミスが先です。クリームソーダで最後締めたいんで」

「なるほど?」

俺は迷うことなく、フォークを1人前より少し小さめなティラミスに突き刺した。
小さい子どもも食べられる様にと、珈琲、洋酒は使わず、ココアとカラメルシロップを使っている。「手軽に作りたいのよ」とユネさんの言う通り、チーズはマスカルポーネでは無くクリームチーズだ。酸味の少ないクリームチーズを使っているので、味もまろやか。好みはあると思うが、俺は、ティラミスだったらコレが1番好き。

ティラミスを2分割し、口の中に入れる。
最初に感じるのはクリームの滑らかな舌触りと甘味。その次に、カラメルを浸したスポンジケーキがジュワっと口の中に広がる。もぐもぐと噛み締めるとココアの苦味があとからついてくる。この、甘味と苦味のバランスが良く、いくらでも食べられてしまう。小学生の頃、初めてユネさんのティラミスを食べた時、あまりの美味しさに感動して、姉に「バケツで食べたい」とねだったくらいだ。
そしてその気持ちは今も変わらない。

「俺はコレをバケツで食べたい」

思わず声も漏れる。
すると、常連さんは笑いながら「ゆう君のそれ久しぶりに聞いた」って言うし、ユネさんは「自分で作りなさい」と突き放す。

「そんなに美味しいんだ?」

タットさんが興味津々に、俺とティラミスを交互に見てる。今は喋るより、味わっていたいので、コクンとうなづくと、残りのティラミスを口の中に入れた。すると、タットさんも決まったのか、ティラミスに手を出した。クリームソーダで締めるらしい。

小さな皿に乗った、小ぶりのティラミスを、マジマジと眺めてから、フォークに乗っけてパクンと食べるタットさん。
1口でいった。

「んんんん~!!」

頬に手を添えて身悶えてる可愛いどうしてくれよう?周りを見ればみんなタットさんを見てニッコニコしてる。分かる、分かるよその気持ち。けど、なんか面白くない……。

「ゆん君がバケツで食べたいって言う気持ち、物凄く分かる。俺もバケツでイケる」

唇に付いたクリームを舌でペロっと拭いながら、ちょっと興奮気味のタットさん。

「ここ、まだ付いてます」

俺はそう言って、タットさんの口横に、まだ付いてるクリームを指で拭って、そのままペロっと舐めた。
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