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55 冒険者は、ふりかえる。
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タットさんの家にお泊まりをすると、だいたい俺が先に寝て、朝はタットさんが先に起きる。
そう、俺はタットさんの寝顔らしい寝顔をあまり見たことが無い。
そんなタットさんが、今、俺の目の前でスヤスヤと寝息を立てて眠ってるのだ。
えぇー?かーわーいーいー。
と、女子が言いそうなテンションで心の中で踊る。本当に可愛い。
本音を言ってしまえば、せっかくのお泊まりなのだから、めくるめく大人な夜を期待してた。でも、これはこれで貴重な時間かも知れない。俺は無音シャッターのカメラアプリを起動させ、タットさんの寝顔を撮り満足した。
起こさない様に、そっと寝室から離れ、自分も就寝の準備を済ませる。
寝室の明かりを消して、ベッドに潜り込むと、タットさんがもぞりと動いて、俺の頭をギュッと抱きしめて撫でてくれた。起きたのかな?と顔を上げれば、眠ったまま。どうやら無意識らしい。
意識が無いのに、こうやって自分の懐に入れてくれる事が嬉しくて、俺もピッタリくっついて眠りについた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「……うそでしょ……?」
窓から陽の光が入ってきて、目が覚めると、隣でタットさんが上半身を起こして呟いていた。
「おはようございます」
挨拶をすると、タットさんはガバッと振り向き、おもむろに俺の事を抱き締めてきた。
朝から情熱的。
「ゆん君ごめん!!俺、いつの間にか寝ちゃってた!!ゆん君とあんな事とか、こんな事とか!!こう……なんか色々としたかったのに!!」
したかったのか。俺も少し残念に思ったが、お泊まりは今日だけじゃないし。
「そしたら、今日の夜楽しみにしてます。色々しましょう。徹夜で金太郎鉄道プレイするのもいいですね。手加減しませんよ?」
「ゆん君……」
タットさんが眉尻を下げて情けない表情をしている。思わず吹き出してしまった。
「俺の事、揶揄った?」
「少しだけ。すみません」
誤魔化すように口にキスすると、タットさんから3倍になってキスが返ってきた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
楽しい時間はあっという間に過ぎた。映画、ボルダリング……大型アスレチック……だいぶ2人で遊び倒したような気がする。
特に大型アスレチックは、日帰り旅行レベルだった。場所は県外の温泉地。前日に特急券を取って弾丸旅行。汗だくになってアスレチックで遊んだら、立寄り湯で温泉に
浸かってコーヒー牛乳飲んで、お土産買って、また特急で帰る。
こんな遊び方があったのか、と感心した。
夜は、身体をめちゃくちゃ使って遊んだ日は、タットさんが健やかに寝てしまうので、俺も一緒にピッタリくっついて寝た。
一緒に過ごして分かったのだが、タットさんは、あまり体力が無い。
「いやいや、普通だよ?一般的な20代社会人男性の体力!ゆん君が体力オバケなの!!」
必死に弁解するタットさんも可愛い。まぁ、確かに俺の体力と筋力と持久力には定評がある。それに付き合って貰ってるのだから、そりゃ疲れるか。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
今回の夏休みで、1つ気が付いた事がある。
それは、タットさんと2人で出かけると、高頻度で知らない女の人たちに話しかけられると言う事だ。
「これから映画ですか?」
だから何?
「どこに行くんですか?」
関係無いよね?
「私たちも2人なんですよぅ」
それで?
「一緒に遊びませんか?」
なんで?
「人数多い方が絶対楽しいから」
それって貴女の感想ですよね?
思い出してもモヤモヤする。
俺が1人の時で出かける時は、話しかけられた事は無い。もしかしたら、話しかけられてるかも知れないけど、総無視してるので関わった事は無い。
なのにタットさんと居ると、何故か女の人たちに捕まってしまう。そう言う時は、タットさんがやんわりと断ってくれるので、任せっきりだ。ちょっと男として情けないなと思ったんだけど、タットさんはタットさんで、
「今の子たち、ゆん君の事しか見えてなかったよ?俺の恋人なのに。失礼だよね?」
と、フンフン鼻息荒くしていた。
話しかけてくる女の人と言う女の人たちを断ってくれていたタットさんだったが、1組だけ、避けられなかった。
俺の大学の同級生の佐々木さんと、その友だち。
2人で映画を観に行った日だった。
映画館を出たら、彼女たちと遭遇した。
どうやら同じ映画を観てたらしい。
「あれ?相原君?」
「…………」
俺が固まってると、彼女は弾丸の様に話しかけてきた。
「ねねねね?もしかしてこの映画観たの?観たよね?観たでしょ?だって同じ場所から出てきたもんね。どう?どうだった?この映画。ラストどう解釈した?真っ二つに意見が分かれる感じじゃない?語らない?ねぇ語ろう?用事ある?無かったら語ろう!語らせて!じゃないと私のこの胸のなんて言うの?ナニカが爆発しそうなの!語ろう!そっちのお友だちも!お願い!!無理!このまま胸に秘めたままにするとか無理寄りの無理!」
怒涛過ぎて気圧される。佐々木さんの隣に居る友だちは、薄目で遠くを見ていた。なんなら口パクで「すみません」と言ってる。君は何も悪くないのに。
タットさんはタットさんで苦笑いだ。
すみません、うちの大学の生徒がこんなので……
「ゆん君のお友だちって事だよね?なら、良いんじゃない?この後、俺ら特に予定は無いし。俺もあの映画、他の人の感想聞きたいかも?」
「ッファ-!相原君のお友だちが神対応!ありがとうございます!相原君が塩対応する前に移動しましょう!」
佐々木さんは、俺の意見を聞くこと無く、隣に立ってた彼女の友だちの腕を掴んで歩き始めた。彼女の友だちは、薄目で小声で「なんか……すみません……」と言ってたけど、君は悪くない。
そんな佐々木さんの勢いに飲まれて、近場のファストフード店に入って4人で先程観た映画の感想を語り合った。
最初は、あまり乗り気ではなかったのだが、会話は思いの外楽しかった。
佐々木さんは何処で息継ぎしてるのか分からないくらい喋りまくるし、彼女の友だちは、それに対して上手に相槌を打ってる。
タットさんが、タイミング良く意見をすれば、それに対して三者三様で考察をする。かなり有意義な時間だった気がする。
少しだけ、佐々木さんに対する印象が変わったのと、彼女の友だちも悪い人では無いと言う事が分かった。
そう、俺はタットさんの寝顔らしい寝顔をあまり見たことが無い。
そんなタットさんが、今、俺の目の前でスヤスヤと寝息を立てて眠ってるのだ。
えぇー?かーわーいーいー。
と、女子が言いそうなテンションで心の中で踊る。本当に可愛い。
本音を言ってしまえば、せっかくのお泊まりなのだから、めくるめく大人な夜を期待してた。でも、これはこれで貴重な時間かも知れない。俺は無音シャッターのカメラアプリを起動させ、タットさんの寝顔を撮り満足した。
起こさない様に、そっと寝室から離れ、自分も就寝の準備を済ませる。
寝室の明かりを消して、ベッドに潜り込むと、タットさんがもぞりと動いて、俺の頭をギュッと抱きしめて撫でてくれた。起きたのかな?と顔を上げれば、眠ったまま。どうやら無意識らしい。
意識が無いのに、こうやって自分の懐に入れてくれる事が嬉しくて、俺もピッタリくっついて眠りについた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「……うそでしょ……?」
窓から陽の光が入ってきて、目が覚めると、隣でタットさんが上半身を起こして呟いていた。
「おはようございます」
挨拶をすると、タットさんはガバッと振り向き、おもむろに俺の事を抱き締めてきた。
朝から情熱的。
「ゆん君ごめん!!俺、いつの間にか寝ちゃってた!!ゆん君とあんな事とか、こんな事とか!!こう……なんか色々としたかったのに!!」
したかったのか。俺も少し残念に思ったが、お泊まりは今日だけじゃないし。
「そしたら、今日の夜楽しみにしてます。色々しましょう。徹夜で金太郎鉄道プレイするのもいいですね。手加減しませんよ?」
「ゆん君……」
タットさんが眉尻を下げて情けない表情をしている。思わず吹き出してしまった。
「俺の事、揶揄った?」
「少しだけ。すみません」
誤魔化すように口にキスすると、タットさんから3倍になってキスが返ってきた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
楽しい時間はあっという間に過ぎた。映画、ボルダリング……大型アスレチック……だいぶ2人で遊び倒したような気がする。
特に大型アスレチックは、日帰り旅行レベルだった。場所は県外の温泉地。前日に特急券を取って弾丸旅行。汗だくになってアスレチックで遊んだら、立寄り湯で温泉に
浸かってコーヒー牛乳飲んで、お土産買って、また特急で帰る。
こんな遊び方があったのか、と感心した。
夜は、身体をめちゃくちゃ使って遊んだ日は、タットさんが健やかに寝てしまうので、俺も一緒にピッタリくっついて寝た。
一緒に過ごして分かったのだが、タットさんは、あまり体力が無い。
「いやいや、普通だよ?一般的な20代社会人男性の体力!ゆん君が体力オバケなの!!」
必死に弁解するタットさんも可愛い。まぁ、確かに俺の体力と筋力と持久力には定評がある。それに付き合って貰ってるのだから、そりゃ疲れるか。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
今回の夏休みで、1つ気が付いた事がある。
それは、タットさんと2人で出かけると、高頻度で知らない女の人たちに話しかけられると言う事だ。
「これから映画ですか?」
だから何?
「どこに行くんですか?」
関係無いよね?
「私たちも2人なんですよぅ」
それで?
「一緒に遊びませんか?」
なんで?
「人数多い方が絶対楽しいから」
それって貴女の感想ですよね?
思い出してもモヤモヤする。
俺が1人の時で出かける時は、話しかけられた事は無い。もしかしたら、話しかけられてるかも知れないけど、総無視してるので関わった事は無い。
なのにタットさんと居ると、何故か女の人たちに捕まってしまう。そう言う時は、タットさんがやんわりと断ってくれるので、任せっきりだ。ちょっと男として情けないなと思ったんだけど、タットさんはタットさんで、
「今の子たち、ゆん君の事しか見えてなかったよ?俺の恋人なのに。失礼だよね?」
と、フンフン鼻息荒くしていた。
話しかけてくる女の人と言う女の人たちを断ってくれていたタットさんだったが、1組だけ、避けられなかった。
俺の大学の同級生の佐々木さんと、その友だち。
2人で映画を観に行った日だった。
映画館を出たら、彼女たちと遭遇した。
どうやら同じ映画を観てたらしい。
「あれ?相原君?」
「…………」
俺が固まってると、彼女は弾丸の様に話しかけてきた。
「ねねねね?もしかしてこの映画観たの?観たよね?観たでしょ?だって同じ場所から出てきたもんね。どう?どうだった?この映画。ラストどう解釈した?真っ二つに意見が分かれる感じじゃない?語らない?ねぇ語ろう?用事ある?無かったら語ろう!語らせて!じゃないと私のこの胸のなんて言うの?ナニカが爆発しそうなの!語ろう!そっちのお友だちも!お願い!!無理!このまま胸に秘めたままにするとか無理寄りの無理!」
怒涛過ぎて気圧される。佐々木さんの隣に居る友だちは、薄目で遠くを見ていた。なんなら口パクで「すみません」と言ってる。君は何も悪くないのに。
タットさんはタットさんで苦笑いだ。
すみません、うちの大学の生徒がこんなので……
「ゆん君のお友だちって事だよね?なら、良いんじゃない?この後、俺ら特に予定は無いし。俺もあの映画、他の人の感想聞きたいかも?」
「ッファ-!相原君のお友だちが神対応!ありがとうございます!相原君が塩対応する前に移動しましょう!」
佐々木さんは、俺の意見を聞くこと無く、隣に立ってた彼女の友だちの腕を掴んで歩き始めた。彼女の友だちは、薄目で小声で「なんか……すみません……」と言ってたけど、君は悪くない。
そんな佐々木さんの勢いに飲まれて、近場のファストフード店に入って4人で先程観た映画の感想を語り合った。
最初は、あまり乗り気ではなかったのだが、会話は思いの外楽しかった。
佐々木さんは何処で息継ぎしてるのか分からないくらい喋りまくるし、彼女の友だちは、それに対して上手に相槌を打ってる。
タットさんが、タイミング良く意見をすれば、それに対して三者三様で考察をする。かなり有意義な時間だった気がする。
少しだけ、佐々木さんに対する印象が変わったのと、彼女の友だちも悪い人では無いと言う事が分かった。
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