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第一章:番外編 等
ファンブック、お渡し会 中編
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【サガリside】
昨夜は失敗した。
風呂でいつも通りにキリを洗っていたら、まぁそうなるよな?とセックスになだれ込み、ゴムもせず挿入。挙句の果てにキリは逆上せて風呂でダウン。
推しのイベント前日にする事では無かった。
少しばかり反省し、いつもより念入りにキリの手入れをしていたら、奴はそのままスコンと寝落ちした。
横抱きにしてベッドに寝かせ、俺もそのままキリの隣に潜り込んだ。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
「どう?」
キリが照れ笑いをしながら俺の目の前でクルクルと全身を見せるように回る。
「どっから見ても儚げ美少年だな」
俺が満足そうに答えると、やっぱり照れたように笑って、
「僕、26歳⋯⋯へへっ。でも、ありがと⋯⋯へへっ」
と答えやがった。
こんな可愛い26歳が居てたまるかよ。
ここに居るけど。
今日のキリの服装はカジュアルにまとめた。
細身のジーンズに無地の白シャツにオーバーサイズのスクール風カーディガン。
どれも俺や弟が小~中学くらいに着ていた服だが今のキリのサイズに良く合っている。
下手したら高校生に見えなくもない。
「ねぇ、今日はこのラキちゃんのバッグ持ってもおかしくない?」
そう言ってキリが手にしたのは、黒地に白抜きでロゴが描かれたトートバッグだった。
どぎついアイドルグッズではなく、いたってシンプルな作りなので街中で持ち歩いても浮くことは無い。
ただ、ロゴの文字を良く見ると『kira-ki-Lucky』とラキのハッシュタグと読めるので、わかる人には分かるアイドルグッズだ。
「いんじゃね?ラキのイベントなんだし」
「そうだよね!これにね、ラキちゃんのファンブックを入れるんだ。お渡し会楽しみっ!」
「そうだな。⋯⋯それより、キリは大丈夫なのか?ファンブックのグラビアページまだ直視出来ないんだろ?」
昨夜、寝落ち前に確認すれば「まだ慣れない」と夢うつつに答えていた。
あんなんでラキと会話が出来るのか。
「え⋯⋯へへっ⋯⋯まだ恥ずかしいんだけど⋯⋯、最初の頃よりは見慣れたから、ラキちゃんに感想伝えられるように頑張るよ」
ラキのグラビアを思い出したのか、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら答えるキリが恨めしい。
俺の裸見てもそんな表情しないクセに。いや、少しは恥じらうか。でもこんな真っ赤な顔は最近見ていない。
なんて感情が顔に出ていたのか、キリはゆっくりと俺に抱き着き、あろうことか頭を撫でてきやがった。
「ヨシヨシ、サガリ君大好きだよ。サガリ君は僕の大事。ラキちゃんとは、また違う気持ちの大事。ね?分かるでしょ?」
あぁ、クソ。
キリのクセに見透かされた。
「知ってる」
キリを抱き返し、顔を上に向かせると当然の様に奴は目を閉じた。これからされる事を分かっている仕草。
俺も流れるようにキリと唇を重ねる。
触れるだけ。今はそれだけ。コイツは俺のモノ。
存在をしっかりと確かめて離せば、キリは慈しむ様に俺の事を見ていた。
あぁクソ。クソクソ。こんな時ばかり年上の顔をしやがる。
俺が酔った時に吐露した感情を知ってからか、たまにこういう態度と表情を見せる。
キリのクセに。こう言う時だけ年相応と言うか、歳の差を実感させられる。
変に包容力を見せ付けやがって。
⋯⋯嫌なわけではない。
慣れないだけだ。
今まで当たり前のように長子としての責務を全うしていた。世話をするのが当たり前。面倒を見るのが当たり前。苦労した覚えは無いし嫌だと思った事も無い。
故に、自分より年上に甘やかされるのが落ち着かないだけ。嫌では無い。
自分の感情を誤魔化すようにキリの頬を両手で押し潰して変顔にしてやった。
「変な顔」
って笑えば、キリも変顔のまま笑いやがって変顔に拍車をかけていた。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
ラキのイベント会場は都内のイベントブース併設の割と大きな書店だ。
開場時間の少し前。店に到着すると、すでに整理券を手にしたファン達がスタッフに誘導されて番号順に並んでいた。俺たちもスタッフに従った。当然だが番号が離れているのでキリと一旦別れる。
キリの番号近くにライブで良く会話をするファンが居たらしく機嫌良く挨拶をしながら列に並んでいた。
時間が来ればゆっくりと列が動き出す。
周囲に合わせて前に進み、整理券をスタッフに見せてブースに入った。何となくの仕切りと何となくの距離感でそれぞれスペースを取る。なかなか行儀がいい。俺は最後の方だったので、一番うしろでのんびり構えた。
ブースに流れているBGMはずっとラキの曲だった。
ファン達は小声でコールしたり身体を揺らしている。そのBGMがだんだんと大きくなり、一瞬曲が止む。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
『本日は、ヒラキラキのファンブック、ラキノモウシヒラキ発売イベントにお越しいただきありがとうございます。イベント開始に先駆けて、ご案内がございます』
アナウンスが流れると、周りが沸いた。
ラキ本人がアナウンスをしている。
内容は一般的な注意事項と、大まかな流れの説明。
『ヒラキラキさんがあまりにも可愛過ぎて卒倒しないよう、重々ご注意ください』
所々で小ネタを挟みつつ、
『では、ご登場お願いします。ヒラキラキさーん!』
呼び出しも本人だった。
「はーい!!」
さっきまで注意事項のアナウンスで使っていただろうマイクを持ったまま、ラキがブースの小上がりに登場してきた。
俺らも拍手で彼女を迎える。
「みんな、来てくれてありがとう!少しの時間だけど、楽しんでね!」
そう言うと、最近地上波の番組で歌った曲のイントロが流れ始めた。
用意の良い奴はペンラやらうちわを持ってスタンバイし始める。
「キラッキラッキー?」
「「ラキラッキー!!!」」
イントロ中にラキの自己紹介口上が始まった。
「君をキラッキラのラッキーにしてあげる!ヒラキラキです!書店に来てるお客さまも名前だけでも知ってください!」
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
曲が終わる頃には、イベントブースの外にも人だかりが出来ていた。イベント参加者、ブースの外にも愛想良くラキが手を振る。
ラキを呼ぶ声が聞こえてくれば、律儀に反応しファンサに努めていた。
その後は、女性司会者が登場しイベントを仕切った。
ファンブック発売に向けた裏話だったり、今後の意気込みなど上手く話を広げていた。
「じゃぁ、あとはみんなからの質問にも答えちゃおうかな!整理番号持ってるよね?私が適当に数字を言うから、呼ばれた番号は手を挙げてね?」
無茶を言う。
今日の日付、誕生月、ラッキーナンバー、等など思い付くままに当て、
「最後はぁ⋯⋯後ろの方当ててないね、48番!私のお父さんの年齢よ。あ、年齢バラしたのは秘密ね!」
と、俺の整理番号が当てられた。前方を見れば、キリが凄くキラキラした顔で俺の方を見ている。
呼ばれた人数は5人。若い番号から順に司会者が近づきマイクが渡された。
質問内容は様々で、ラキのプライベートを聞いたりファンブックのグラビアの質問だったり。和やかに進んだ。最後、俺にマイクが渡される。
「どうやってファンの人たちを認知してるのですか?」
ラキの記憶力は良い。地下アイドル時代、現場に来ているファンを始め、SNS上のファンもほとんど認知していたように思える。けど、事務所に所属して地上波にラキが映し出され、爆発的にラキを知る人が増えた。それでもラキはファンを認知し続けるのだろうか?
「認知かぁー。みんな、認知されたい?」
ラキが問えばブース内も外も反応が返ってくる。
「記憶力は良い方だし、人の顔と名前を覚えるのも得意だから、直接会いに来てくれたらみんなのこと覚えるよ。来れなくても⋯⋯SNSでたくさんリプくれたり、拡散してくれたり、反応してくれる子はね、結構覚えてる。あと、SNSの場合は⋯⋯これから言う事は私のわがままだから絶対そうしてってお話では無いのだけど、⋯⋯アイコンを固定して欲しいって思ってる」
ラキが申し訳無さそうに話し始めた。
「SNSの場合はね、アイコンが顔だと思っているから。でね、初めて現場に来てくれる時は、そのアイコンとユーザー名の分かるお名前カードを持ってくると、早々に覚えるよ!」
そこまでラキが答えると、俺の隣に立っていた年嵩の男性が胸に下げてたネームプレートをラキに分かるように高く上げた。
それに気づいたラキはそれに気付き、
「そう!それそれ!!そう言うの!!あなたは初めて来てくれたよね!『ひらパン』さん!」
確かに彼のネームプレートには『ひらパン』と書かれていた。一斉に彼に視線が集中する。
「彼ねぇ、なかなかの古参のくせに現場には一度も来てくれない塩対応なんだよ。けど、ようやく来てくれたねぇ。ありがとう!」
ニヤニヤ笑ってラキが『ひらパン』を弄る。
1人のファンをここまで弄って大丈夫か?と、思ったらすぐにネタバラシが来た。
「ねぇ、お父さん?」
一瞬でブースがざわついた。
確かに良く見ればラキに似てなくもない。
不躾に彼を見ていると、目が合ってしまった。
「最古参です」
「でしょうね!?」
俺も思わず突っ込んでしまった。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
質問の時間が終わると、ようやくメインのお渡し会が始まった。
スタッフに誘導されて整列する。
てか、俺の後ろにラキの父親が並んでいるのが気になる。
並ぶのか。身内でも。
彼も周囲の視線を気にするでも無く、飄々と立っている。
先程のやり取りもあって話しかけるべきか迷っていたら、むこうから話しかけてきた。
「いつからラキのファンなんですか?」
聞き方が初対面のソレだった。
ファンブック手渡しの順番が来るまで、会話を続けていたが内容がファン同士のソレでしか無かった。
自分の順番が来ると、ラキが噴き出した。
「お父さんのお守りありがとう、マチ君」
ラキは名乗らずとも俺の名前を呼んだ。
既にサインは書かれており、そこに名前が追加される。
その時間が接触時間だ。
「名前はマチ君?」
「カタカナ三文字のサガリでお願いします」
「下の名前?」
「はい」
「ふふっ、名前知っちゃった。はい、どうぞ。これからも応援よろしくね?」
ファンブックが手渡され、最後に握手をする。
「グラビア、凄く綺麗だった」
「ありがと!いっぱい見てね!」
感想も伝えて剥がされる。
後ろを見ればラキが困ったように笑って「もうお父さんビックリしたよう!昨日いきなり行くねって連絡してくるんだもん!」と周囲にも聞こえるよう大きめの声で会話をしていた。
なるほど、本人も知らなかったのか。
身内であってもラキはきちんとファンブックを手渡し握手までしていた。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
俺はブースから出ると、入り口近くに立っていたキリを見つけ近付いた。
「お待たせ」
話しかけると、キリはパッと物凄い期待を込めた表情で俺を見た。
「ラキちゃんのお父さん!来てたんだね!初めて来てくれたんだってね!ラキちゃん恥ずかしそうだったけど、嬉しかったって!!」
「ファンブック貰う時に聞いたのか?」
「うん。僕もビックリしちゃったからね。あ、でもきちんとグラビアの感想も伝えられたよ。ラキちゃん、今日も可愛かったぁ~」
「可愛かった」
感想を言い合いながら書店を出る。
俺はカバンを持って来てなかったので、ラキから渡されたファンブックをキリのカバンに入れてもらった。
その足で安めのラーメン屋に入って昼メシを食べる。
どこにでもあるチェーン店だが、キリは律儀に写真を撮ってSNSに投稿していた。
『今日のラーメン!イベントの感想はまた後で #キラッキラッキー』
なので、俺もキリに倣う。
『ラー #キラッキラッキー』
ある意味匂わせだな、と思いながら投稿すると、程なくして相互フォローしているモッチに『ふたりして匂わせですかな!?』と、キリと俺にリプがついた。
キリは律儀に返信をし、俺は無視した。
ラーメンをすすりながらSNSを眺める。
ラキの公式アカウントとラキ本人が今日のイベントの様子を投稿していた。
『今日はたくさんの人が私のファンブックをお迎えしてくれたよ!来てくれたみんな、ありがとう。これからの子は楽しみにね!今回来られなかった子は、またの機会に会いに来てくれたら嬉しいな!』
イベント直後と思われる自撮り付。
その投稿に連ねるように、グラビア撮影時のオフショットと思われる下着姿が投稿された。
『今日、私からファンブック渡されたみんなは、夜はファンブックの私と2人きりで過ごすんだよ?』
上手い事を言うなと感心してると、目の前でキリが顔を真っ赤にしていた。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
昼メシも終わって店を出る。
自分のマンションに帰ろうとすると、キリは自分のアパートに帰ると言い出した。
「は?俺んちでいいだろ?」
「え⋯⋯でも、せっかく紙のファンブックあるし、じっくり読んでイベントレポと感想を書かないと⋯⋯」
「俺の部屋でも出来るだろ、それ」
「う⋯っ、でもラキちゃんが今夜は2人きりでって言ってたし⋯⋯」
トートバッグをギュッと抱きしめる姿がいじらしい。
じゃなくて。
「ふぅーん?けど、ほら。俺のファンブックもそっちのカバンに入ってるし、一旦俺のマンションに寄ってからでも遅くないだろ?⋯⋯⋯⋯恋人の俺とは、一緒に過ごしてくれねぇの?そんなにラキがいい?」
最後のセリフはキリの耳元で囁く。
そうすれば、ラキのグラビアを見た時と同じくらいに顔を赤らめて、やつは俯いた。
「ダメ?」
顔を覗き込む。
「サガリ君、ずるい⋯⋯」
唇を尖らせて文句を言いつつも、キリは俺の隣に立って同じ方向に帰宅した。
昨夜は失敗した。
風呂でいつも通りにキリを洗っていたら、まぁそうなるよな?とセックスになだれ込み、ゴムもせず挿入。挙句の果てにキリは逆上せて風呂でダウン。
推しのイベント前日にする事では無かった。
少しばかり反省し、いつもより念入りにキリの手入れをしていたら、奴はそのままスコンと寝落ちした。
横抱きにしてベッドに寝かせ、俺もそのままキリの隣に潜り込んだ。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
「どう?」
キリが照れ笑いをしながら俺の目の前でクルクルと全身を見せるように回る。
「どっから見ても儚げ美少年だな」
俺が満足そうに答えると、やっぱり照れたように笑って、
「僕、26歳⋯⋯へへっ。でも、ありがと⋯⋯へへっ」
と答えやがった。
こんな可愛い26歳が居てたまるかよ。
ここに居るけど。
今日のキリの服装はカジュアルにまとめた。
細身のジーンズに無地の白シャツにオーバーサイズのスクール風カーディガン。
どれも俺や弟が小~中学くらいに着ていた服だが今のキリのサイズに良く合っている。
下手したら高校生に見えなくもない。
「ねぇ、今日はこのラキちゃんのバッグ持ってもおかしくない?」
そう言ってキリが手にしたのは、黒地に白抜きでロゴが描かれたトートバッグだった。
どぎついアイドルグッズではなく、いたってシンプルな作りなので街中で持ち歩いても浮くことは無い。
ただ、ロゴの文字を良く見ると『kira-ki-Lucky』とラキのハッシュタグと読めるので、わかる人には分かるアイドルグッズだ。
「いんじゃね?ラキのイベントなんだし」
「そうだよね!これにね、ラキちゃんのファンブックを入れるんだ。お渡し会楽しみっ!」
「そうだな。⋯⋯それより、キリは大丈夫なのか?ファンブックのグラビアページまだ直視出来ないんだろ?」
昨夜、寝落ち前に確認すれば「まだ慣れない」と夢うつつに答えていた。
あんなんでラキと会話が出来るのか。
「え⋯⋯へへっ⋯⋯まだ恥ずかしいんだけど⋯⋯、最初の頃よりは見慣れたから、ラキちゃんに感想伝えられるように頑張るよ」
ラキのグラビアを思い出したのか、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら答えるキリが恨めしい。
俺の裸見てもそんな表情しないクセに。いや、少しは恥じらうか。でもこんな真っ赤な顔は最近見ていない。
なんて感情が顔に出ていたのか、キリはゆっくりと俺に抱き着き、あろうことか頭を撫でてきやがった。
「ヨシヨシ、サガリ君大好きだよ。サガリ君は僕の大事。ラキちゃんとは、また違う気持ちの大事。ね?分かるでしょ?」
あぁ、クソ。
キリのクセに見透かされた。
「知ってる」
キリを抱き返し、顔を上に向かせると当然の様に奴は目を閉じた。これからされる事を分かっている仕草。
俺も流れるようにキリと唇を重ねる。
触れるだけ。今はそれだけ。コイツは俺のモノ。
存在をしっかりと確かめて離せば、キリは慈しむ様に俺の事を見ていた。
あぁクソ。クソクソ。こんな時ばかり年上の顔をしやがる。
俺が酔った時に吐露した感情を知ってからか、たまにこういう態度と表情を見せる。
キリのクセに。こう言う時だけ年相応と言うか、歳の差を実感させられる。
変に包容力を見せ付けやがって。
⋯⋯嫌なわけではない。
慣れないだけだ。
今まで当たり前のように長子としての責務を全うしていた。世話をするのが当たり前。面倒を見るのが当たり前。苦労した覚えは無いし嫌だと思った事も無い。
故に、自分より年上に甘やかされるのが落ち着かないだけ。嫌では無い。
自分の感情を誤魔化すようにキリの頬を両手で押し潰して変顔にしてやった。
「変な顔」
って笑えば、キリも変顔のまま笑いやがって変顔に拍車をかけていた。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
ラキのイベント会場は都内のイベントブース併設の割と大きな書店だ。
開場時間の少し前。店に到着すると、すでに整理券を手にしたファン達がスタッフに誘導されて番号順に並んでいた。俺たちもスタッフに従った。当然だが番号が離れているのでキリと一旦別れる。
キリの番号近くにライブで良く会話をするファンが居たらしく機嫌良く挨拶をしながら列に並んでいた。
時間が来ればゆっくりと列が動き出す。
周囲に合わせて前に進み、整理券をスタッフに見せてブースに入った。何となくの仕切りと何となくの距離感でそれぞれスペースを取る。なかなか行儀がいい。俺は最後の方だったので、一番うしろでのんびり構えた。
ブースに流れているBGMはずっとラキの曲だった。
ファン達は小声でコールしたり身体を揺らしている。そのBGMがだんだんと大きくなり、一瞬曲が止む。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
『本日は、ヒラキラキのファンブック、ラキノモウシヒラキ発売イベントにお越しいただきありがとうございます。イベント開始に先駆けて、ご案内がございます』
アナウンスが流れると、周りが沸いた。
ラキ本人がアナウンスをしている。
内容は一般的な注意事項と、大まかな流れの説明。
『ヒラキラキさんがあまりにも可愛過ぎて卒倒しないよう、重々ご注意ください』
所々で小ネタを挟みつつ、
『では、ご登場お願いします。ヒラキラキさーん!』
呼び出しも本人だった。
「はーい!!」
さっきまで注意事項のアナウンスで使っていただろうマイクを持ったまま、ラキがブースの小上がりに登場してきた。
俺らも拍手で彼女を迎える。
「みんな、来てくれてありがとう!少しの時間だけど、楽しんでね!」
そう言うと、最近地上波の番組で歌った曲のイントロが流れ始めた。
用意の良い奴はペンラやらうちわを持ってスタンバイし始める。
「キラッキラッキー?」
「「ラキラッキー!!!」」
イントロ中にラキの自己紹介口上が始まった。
「君をキラッキラのラッキーにしてあげる!ヒラキラキです!書店に来てるお客さまも名前だけでも知ってください!」
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
曲が終わる頃には、イベントブースの外にも人だかりが出来ていた。イベント参加者、ブースの外にも愛想良くラキが手を振る。
ラキを呼ぶ声が聞こえてくれば、律儀に反応しファンサに努めていた。
その後は、女性司会者が登場しイベントを仕切った。
ファンブック発売に向けた裏話だったり、今後の意気込みなど上手く話を広げていた。
「じゃぁ、あとはみんなからの質問にも答えちゃおうかな!整理番号持ってるよね?私が適当に数字を言うから、呼ばれた番号は手を挙げてね?」
無茶を言う。
今日の日付、誕生月、ラッキーナンバー、等など思い付くままに当て、
「最後はぁ⋯⋯後ろの方当ててないね、48番!私のお父さんの年齢よ。あ、年齢バラしたのは秘密ね!」
と、俺の整理番号が当てられた。前方を見れば、キリが凄くキラキラした顔で俺の方を見ている。
呼ばれた人数は5人。若い番号から順に司会者が近づきマイクが渡された。
質問内容は様々で、ラキのプライベートを聞いたりファンブックのグラビアの質問だったり。和やかに進んだ。最後、俺にマイクが渡される。
「どうやってファンの人たちを認知してるのですか?」
ラキの記憶力は良い。地下アイドル時代、現場に来ているファンを始め、SNS上のファンもほとんど認知していたように思える。けど、事務所に所属して地上波にラキが映し出され、爆発的にラキを知る人が増えた。それでもラキはファンを認知し続けるのだろうか?
「認知かぁー。みんな、認知されたい?」
ラキが問えばブース内も外も反応が返ってくる。
「記憶力は良い方だし、人の顔と名前を覚えるのも得意だから、直接会いに来てくれたらみんなのこと覚えるよ。来れなくても⋯⋯SNSでたくさんリプくれたり、拡散してくれたり、反応してくれる子はね、結構覚えてる。あと、SNSの場合は⋯⋯これから言う事は私のわがままだから絶対そうしてってお話では無いのだけど、⋯⋯アイコンを固定して欲しいって思ってる」
ラキが申し訳無さそうに話し始めた。
「SNSの場合はね、アイコンが顔だと思っているから。でね、初めて現場に来てくれる時は、そのアイコンとユーザー名の分かるお名前カードを持ってくると、早々に覚えるよ!」
そこまでラキが答えると、俺の隣に立っていた年嵩の男性が胸に下げてたネームプレートをラキに分かるように高く上げた。
それに気づいたラキはそれに気付き、
「そう!それそれ!!そう言うの!!あなたは初めて来てくれたよね!『ひらパン』さん!」
確かに彼のネームプレートには『ひらパン』と書かれていた。一斉に彼に視線が集中する。
「彼ねぇ、なかなかの古参のくせに現場には一度も来てくれない塩対応なんだよ。けど、ようやく来てくれたねぇ。ありがとう!」
ニヤニヤ笑ってラキが『ひらパン』を弄る。
1人のファンをここまで弄って大丈夫か?と、思ったらすぐにネタバラシが来た。
「ねぇ、お父さん?」
一瞬でブースがざわついた。
確かに良く見ればラキに似てなくもない。
不躾に彼を見ていると、目が合ってしまった。
「最古参です」
「でしょうね!?」
俺も思わず突っ込んでしまった。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
質問の時間が終わると、ようやくメインのお渡し会が始まった。
スタッフに誘導されて整列する。
てか、俺の後ろにラキの父親が並んでいるのが気になる。
並ぶのか。身内でも。
彼も周囲の視線を気にするでも無く、飄々と立っている。
先程のやり取りもあって話しかけるべきか迷っていたら、むこうから話しかけてきた。
「いつからラキのファンなんですか?」
聞き方が初対面のソレだった。
ファンブック手渡しの順番が来るまで、会話を続けていたが内容がファン同士のソレでしか無かった。
自分の順番が来ると、ラキが噴き出した。
「お父さんのお守りありがとう、マチ君」
ラキは名乗らずとも俺の名前を呼んだ。
既にサインは書かれており、そこに名前が追加される。
その時間が接触時間だ。
「名前はマチ君?」
「カタカナ三文字のサガリでお願いします」
「下の名前?」
「はい」
「ふふっ、名前知っちゃった。はい、どうぞ。これからも応援よろしくね?」
ファンブックが手渡され、最後に握手をする。
「グラビア、凄く綺麗だった」
「ありがと!いっぱい見てね!」
感想も伝えて剥がされる。
後ろを見ればラキが困ったように笑って「もうお父さんビックリしたよう!昨日いきなり行くねって連絡してくるんだもん!」と周囲にも聞こえるよう大きめの声で会話をしていた。
なるほど、本人も知らなかったのか。
身内であってもラキはきちんとファンブックを手渡し握手までしていた。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
俺はブースから出ると、入り口近くに立っていたキリを見つけ近付いた。
「お待たせ」
話しかけると、キリはパッと物凄い期待を込めた表情で俺を見た。
「ラキちゃんのお父さん!来てたんだね!初めて来てくれたんだってね!ラキちゃん恥ずかしそうだったけど、嬉しかったって!!」
「ファンブック貰う時に聞いたのか?」
「うん。僕もビックリしちゃったからね。あ、でもきちんとグラビアの感想も伝えられたよ。ラキちゃん、今日も可愛かったぁ~」
「可愛かった」
感想を言い合いながら書店を出る。
俺はカバンを持って来てなかったので、ラキから渡されたファンブックをキリのカバンに入れてもらった。
その足で安めのラーメン屋に入って昼メシを食べる。
どこにでもあるチェーン店だが、キリは律儀に写真を撮ってSNSに投稿していた。
『今日のラーメン!イベントの感想はまた後で #キラッキラッキー』
なので、俺もキリに倣う。
『ラー #キラッキラッキー』
ある意味匂わせだな、と思いながら投稿すると、程なくして相互フォローしているモッチに『ふたりして匂わせですかな!?』と、キリと俺にリプがついた。
キリは律儀に返信をし、俺は無視した。
ラーメンをすすりながらSNSを眺める。
ラキの公式アカウントとラキ本人が今日のイベントの様子を投稿していた。
『今日はたくさんの人が私のファンブックをお迎えしてくれたよ!来てくれたみんな、ありがとう。これからの子は楽しみにね!今回来られなかった子は、またの機会に会いに来てくれたら嬉しいな!』
イベント直後と思われる自撮り付。
その投稿に連ねるように、グラビア撮影時のオフショットと思われる下着姿が投稿された。
『今日、私からファンブック渡されたみんなは、夜はファンブックの私と2人きりで過ごすんだよ?』
上手い事を言うなと感心してると、目の前でキリが顔を真っ赤にしていた。
▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪
昼メシも終わって店を出る。
自分のマンションに帰ろうとすると、キリは自分のアパートに帰ると言い出した。
「は?俺んちでいいだろ?」
「え⋯⋯でも、せっかく紙のファンブックあるし、じっくり読んでイベントレポと感想を書かないと⋯⋯」
「俺の部屋でも出来るだろ、それ」
「う⋯っ、でもラキちゃんが今夜は2人きりでって言ってたし⋯⋯」
トートバッグをギュッと抱きしめる姿がいじらしい。
じゃなくて。
「ふぅーん?けど、ほら。俺のファンブックもそっちのカバンに入ってるし、一旦俺のマンションに寄ってからでも遅くないだろ?⋯⋯⋯⋯恋人の俺とは、一緒に過ごしてくれねぇの?そんなにラキがいい?」
最後のセリフはキリの耳元で囁く。
そうすれば、ラキのグラビアを見た時と同じくらいに顔を赤らめて、やつは俯いた。
「ダメ?」
顔を覗き込む。
「サガリ君、ずるい⋯⋯」
唇を尖らせて文句を言いつつも、キリは俺の隣に立って同じ方向に帰宅した。
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一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
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