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捜査14日目
捜査14日目~海軍
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マイヤーとタウゼントシュタインは港へ向かっていた。
目的の海軍の建物は、一般の船舶が着く桟橋の並ぶ港の端の一帯にある。マイヤーは近くの軍専用の桟橋までは来たことがあったが、海軍の建物まで来るのは二人とも初めてだった。
海軍の建物は港の端にある海軍の敷地内にポツンと建っている。建物は古く重厚なデザインだ。
帝国の領土は海がなかったので、そもそも帝国軍には海軍は存在しなかったが、帝国による占領後、共和国の海軍を帝国軍が丸ごと摂取した形になっている。そのため海軍に所属している人員は、帝国から派遣されている司令官のベススメルトヌイフと一部の上級士官以外は、ほとんど共和国の出身者だ。もともとの海軍の仕事と言えば、海賊や密輸船の取り締まりがほとんどであったため、さほど規模も大きくない。
二人が海軍の建物に近づくと、ルツコイともう一人男性が立ち話をしているのが見えた。男性は見たところ六十歳ぐらいの穏やかな雰囲気で、茶色の髪に白髪が少し混じっている。
二人は馬を降りて敬礼した。ルツコイと男性も敬礼した。
「ご苦労。ちょうどよかった、こちらが海軍の司令官ベススメルトヌイフだ」。
「始めまして」。
ベススメルトヌイフ、言いにくそうな名前だ。
「よろしく」。ベススメルトヌイフは笑って答えた。「“エンデクン号”が停泊している、それを使ってくれ。艦長のシュナイダーには話をしてある。すぐにも出航が可能だ」。
マイヤーはもう一度を敬礼して礼を言った。
「ありがとうございます」。
「改めて命じる。スザンネ達を捕えてくれ、汚職の全貌を把握しなければならないからな」。
「お任せください」。
マイヤーはルツコイにも敬礼をした。タウゼントシュタインも敬礼をする。
「あと、司令官」
「なんだ」。
「傭兵部隊の隊員のオットー・クラクスが行方を眩ませました。おそらくは彼もスザンネ達を追っていると思われます。また、ヴェールテ家の財産を管理していた弁護士のハルトマンが殺害されておりました」。
「クラクスが?」
「彼の失踪は私の管理不行き届きです。申し訳ありません」。
「その件についての彼や君の処分は、この一件が片付いてから考える」。
「わかりました」。
「弁護士のハルトマンの殺された理由は?」
「現場にアーレンス警部がおりましたが、わからないと言っておりました。でも、抵抗の跡がないので、顔見知りの犯行だろうと」。
「そうか。警部に会って話は聞いておこう。汚職の件とも関連があるかもしれないからな。とりあえず弁護人の件は警察に任せておく」。
ルツコイは眉間にしわを寄せた。彼も汚職の調査などで手いっぱいだろう。次から次へと事件が起こってマイヤーの頭の中も混乱している。
「では、我々は“エンデクン号”に向かいます」。
「よろしく頼む」。
マイヤーとタウゼントシュタインは、海軍専用の桟橋に向かう。そこには “エンデクン号” が停泊していた。この船は、三か月ほど前、終戦直後の反乱騒ぎに際、見かけて以来だ。
マイヤーとタウゼントシュタインは舷梯近くにいる水兵に艦長のシュナイダーの居場所を聞いた。水兵たちにも我々の事は話が伝わっているようで、すんなりと艦内に案内してくれる。舷梯を上り甲板にいた男性を紹介してくれた。男性は敬礼する。
「私が艦長のトマス・シュナイダーです」。
「今回はよろしくお願いいたします」。
「喜んで協力します。軍の重要な任務と聞いています」。
「ありがとうございます」。
「早速、出航します。明日の夕方にはオストハーフェンシュタットに到着します」。シュナイダーは近くの水兵たちに出航するように号令をかけた。
「出航だ!」
水兵たちが持ち場に散っていった。
シュナイダーはそれを見届けて、マイヤーとタウゼントシュタインに向き直って話を続ける。
「話にあった貨物船は昨日の正午に出発したと聞きました。そして、最初の寄港地はオストハーフェンシュタットと聞いています。おそらく、今日の正午頃には到着しているでしょう。貨物船は大抵、荷物の積み下ろしをしますので、少なくとも一日は停泊しているはずです。ということは明日の正午にオストハーフェンシュタットを出発、我々は全速で向かいますが、オストハーフェンシュタットでぎりぎり追いつけるか、追いつけないか微妙なタイミングになります」。
「そうですか」。
「しかし、我々は密輸船の追跡でこういうことは慣れています。港であろうが海上であろうが追いついて見せます。任せてください」。
「頼もしいです。よろしくお願いします」。
マイヤーは笑顔で答えた。
「では、お二人が使う部屋をご案内します。ほかの水兵たちとの相部屋ですが、我慢して下さい」。
「構いません。よろしくお願いします」。
シュナイダーはマイヤーとタウゼントシュタインを船内の兵士たちが使う部屋の一つへ案内する。
帆を上げた“エンデクン号”は、ゆっくりと進み始め、そして、着実に加速していった。
目的の海軍の建物は、一般の船舶が着く桟橋の並ぶ港の端の一帯にある。マイヤーは近くの軍専用の桟橋までは来たことがあったが、海軍の建物まで来るのは二人とも初めてだった。
海軍の建物は港の端にある海軍の敷地内にポツンと建っている。建物は古く重厚なデザインだ。
帝国の領土は海がなかったので、そもそも帝国軍には海軍は存在しなかったが、帝国による占領後、共和国の海軍を帝国軍が丸ごと摂取した形になっている。そのため海軍に所属している人員は、帝国から派遣されている司令官のベススメルトヌイフと一部の上級士官以外は、ほとんど共和国の出身者だ。もともとの海軍の仕事と言えば、海賊や密輸船の取り締まりがほとんどであったため、さほど規模も大きくない。
二人が海軍の建物に近づくと、ルツコイともう一人男性が立ち話をしているのが見えた。男性は見たところ六十歳ぐらいの穏やかな雰囲気で、茶色の髪に白髪が少し混じっている。
二人は馬を降りて敬礼した。ルツコイと男性も敬礼した。
「ご苦労。ちょうどよかった、こちらが海軍の司令官ベススメルトヌイフだ」。
「始めまして」。
ベススメルトヌイフ、言いにくそうな名前だ。
「よろしく」。ベススメルトヌイフは笑って答えた。「“エンデクン号”が停泊している、それを使ってくれ。艦長のシュナイダーには話をしてある。すぐにも出航が可能だ」。
マイヤーはもう一度を敬礼して礼を言った。
「ありがとうございます」。
「改めて命じる。スザンネ達を捕えてくれ、汚職の全貌を把握しなければならないからな」。
「お任せください」。
マイヤーはルツコイにも敬礼をした。タウゼントシュタインも敬礼をする。
「あと、司令官」
「なんだ」。
「傭兵部隊の隊員のオットー・クラクスが行方を眩ませました。おそらくは彼もスザンネ達を追っていると思われます。また、ヴェールテ家の財産を管理していた弁護士のハルトマンが殺害されておりました」。
「クラクスが?」
「彼の失踪は私の管理不行き届きです。申し訳ありません」。
「その件についての彼や君の処分は、この一件が片付いてから考える」。
「わかりました」。
「弁護士のハルトマンの殺された理由は?」
「現場にアーレンス警部がおりましたが、わからないと言っておりました。でも、抵抗の跡がないので、顔見知りの犯行だろうと」。
「そうか。警部に会って話は聞いておこう。汚職の件とも関連があるかもしれないからな。とりあえず弁護人の件は警察に任せておく」。
ルツコイは眉間にしわを寄せた。彼も汚職の調査などで手いっぱいだろう。次から次へと事件が起こってマイヤーの頭の中も混乱している。
「では、我々は“エンデクン号”に向かいます」。
「よろしく頼む」。
マイヤーとタウゼントシュタインは、海軍専用の桟橋に向かう。そこには “エンデクン号” が停泊していた。この船は、三か月ほど前、終戦直後の反乱騒ぎに際、見かけて以来だ。
マイヤーとタウゼントシュタインは舷梯近くにいる水兵に艦長のシュナイダーの居場所を聞いた。水兵たちにも我々の事は話が伝わっているようで、すんなりと艦内に案内してくれる。舷梯を上り甲板にいた男性を紹介してくれた。男性は敬礼する。
「私が艦長のトマス・シュナイダーです」。
「今回はよろしくお願いいたします」。
「喜んで協力します。軍の重要な任務と聞いています」。
「ありがとうございます」。
「早速、出航します。明日の夕方にはオストハーフェンシュタットに到着します」。シュナイダーは近くの水兵たちに出航するように号令をかけた。
「出航だ!」
水兵たちが持ち場に散っていった。
シュナイダーはそれを見届けて、マイヤーとタウゼントシュタインに向き直って話を続ける。
「話にあった貨物船は昨日の正午に出発したと聞きました。そして、最初の寄港地はオストハーフェンシュタットと聞いています。おそらく、今日の正午頃には到着しているでしょう。貨物船は大抵、荷物の積み下ろしをしますので、少なくとも一日は停泊しているはずです。ということは明日の正午にオストハーフェンシュタットを出発、我々は全速で向かいますが、オストハーフェンシュタットでぎりぎり追いつけるか、追いつけないか微妙なタイミングになります」。
「そうですか」。
「しかし、我々は密輸船の追跡でこういうことは慣れています。港であろうが海上であろうが追いついて見せます。任せてください」。
「頼もしいです。よろしくお願いします」。
マイヤーは笑顔で答えた。
「では、お二人が使う部屋をご案内します。ほかの水兵たちとの相部屋ですが、我慢して下さい」。
「構いません。よろしくお願いします」。
シュナイダーはマイヤーとタウゼントシュタインを船内の兵士たちが使う部屋の一つへ案内する。
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