魔法の数字

初昔 茶ノ介

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2章:学園生活

第2段階

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ヴェルくんと私の特訓が始まって、一ヵ月が経とうとしていた。

「だいぶ…速くなったね…」

「そうかな?」

そう言いながら、ヴェルくんは2秒で剣を1本生成した。

「前は…1分で1本…だった」

「そうだね…それを思うと、ものすごく速くなってる気がしてきたよ」

ヴェルくんはあれから、自分の使える剣の形を考えたり、繰り返したり、魔力消費の効率化を図ったりとするうちに、速度も作成本数も増えていった。今なら10秒で5本、最大作成本数も12本にまで増えた。

「そろそろ…次の特訓…」

「次の特訓?次は何をするんだい?」

「次は…その剣を…オシャレに…する」

「…え?ごめん…よく聞こえなかったよ…もう一回」

「その剣を…オシャレに…する…」

私の言葉を聞いてヴェルくんは頭を抱えた。

「大丈夫…?ヴェルくん…頭…痛い?」

「あぁ…大丈夫だよ…ただちょっと…天才達の考えについていけないだけで…」

その言葉を聞いて、ヴェルくんが何に悩んでいるのかがわかった。
そういえばまだヴェルくんにどんな魔法を使ってもらうのかまだ説明をしていないことに気がついた。

「ヴェルくん…1回…私と…模擬戦…しよ?」

「え?えぇ!?そ、そんなこと!女の子と模擬戦なんて…」

「大丈夫…だよ?たぶん…まだ…私の方が…強いから…」

私の発言に、ヴェルくんは一瞬怯えたような表情をしたように見えた。

「わかった…やってみよう」

模擬戦のルールは、相手の胸、腹、背中のいずれかに魔法を当てる、もしくは魔法で作られた武器を当てることで、勝利とする。
怪我への配慮のため、胸と腹と背中には防具を着る。ちなみに、訓練室には模擬戦用の防具も用意されている。

私とヴェルくんは、訓練室の入り口近くにある防具を着て、一定の距離をとって向かい合う。

「私のやる魔法…よく見ててね…ヴェルくんに…してもらう魔法だから…」

「うん…わかったよ…」

「じゃあ…10秒後に…開始…」

そう言って、私達は魔筆を取り出した。

「……始め」

私の合図で、ヴェルくんは後ろに跳ぶ。
魔法使いは、後ろへ下がりながら式を展開するのが基本だ。

「なっ…」

魔法使いは後ろに下がるのが基本。しかし、私はあえて前に出た。
これからヴェルくんにしてもらう戦いは、魔法使いとしてはあまりにも異質だから…私自身がまずやって見せないと理解をしてくれないよね…。
私が展開した式は、ヴェルくんに教えたものと同じ『125-120=5』で、私はレイピア型の剣を錬成した。

ヴェルくんも同じ式で剣を錬成したが、驚きと後ろへ跳んでいたのもあり、若干バランスを崩していた。
その隙を私は見逃さず、レイピアでヴェルくんの胸を突く。

「くっ…このくらいっ!」

そう言ってヴェルくんは、自分の作った剣で私のレイピアを弾こうとした。

「えっ…!?」

しかし、ヴェルくんの剣は、私のレイピアに触れた瞬間、細切れになった。
そのまま私はヴェルくんを押し倒し、胸にレイピアをちょんっとつけた。

「私の…勝ち…」

私はレイピアをどけ、ヴェルくんに手を伸ばした。

「ど、どうして…どうして土魔法の式で…風魔法が…」

私の手をとったヴェルくんが、立ち上がりながら聞く。
私は、ヴェルくんに自分の持っていた剣を渡し、その剣を見たヴェルくんは、納得したようにため息をついた。

「まさか…これを僕にやれと?」

「ヴェルくんなら…できる…」

私もヴェルくんも剣を錬成したことに変わりはない。しかし、私のレイピアは柄に式を刻んで錬成したのだ。

「パパに…習った…付加エンチャントって…言うの……物に…魔力を付加する…のって…消費が…少ないんだって…」

「付加…」

「それじゃあ…今日から…この練習…」

「わかった、がんばるよ!」

ヴェルくんはそう言って色んな装飾のついた剣を錬成していく。
この特訓が終わったらいよいよ最終段階なんだけど…いや、今は先の心配よりも目の前のヴェルくんに集中しよう…。

私は一抹の不安を払って、目の前のヴェルくんを見た。
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