魔法の数字

初昔 茶ノ介

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2章:学園生活

昇組試験開始

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ヴェルくんを助けた次の日の朝、私は男子寮の前でみんなとヴェルくんを待っていた。

「それで、その後はどうしたの?」

待ってる間にみんなに昨日のことを話すと、ハナちゃんがちょっと怒り気味に聞いてきた。

「リリスさんに…任せて…私は寮に帰って…ママはやることがあるって…学校にいった」

「そう…それにしてもむかつくわね…そんな卑怯なことしかできないくせにいい顔でいられるなんて」

「まったくですね。ヴェルさんは他の人とは違って誠実で優しい方でしたから」

ハナちゃんの言葉にルナちゃんが同意した。
それは私だってそうだ。ヴェルくんは一か月の特訓で、みんながヴェルくんの実力と人柄を認めていた。

話をしていると男子寮の扉が開きヴェルくんとリリスさんが出てきた。

「あ、みんな。おはよう」

予想よりも軽い挨拶にみんなぽかんとしていた。
そしてなぜかリリスさんは顔が少し赤く、満足げな顔をしていた。

「あんた、ちゃんと元気になったのよね?」

「もちろん、リリスのおかげですっかりね」

「そうですか。では、今日不合格になった場合は覚悟してください。昨日の話を聞いて不合格でも慰めてあげようと思いましたが、全快しているのなら問題ないですね」

「ちょ、ちょっとそれは遠慮したいかな」

みんなと話すヴェルくんを見て、ちょっと安心した。

「とにかく、今日は手伝ってくれたみんなに恥ずかしくない戦いをするよ」

ヴェルくんの試験は戦闘部門だから、当然戦闘技術を評価される。
合否を判定するのは昇組の対象の先生で、ヴェルくんはママに認められるのが合格の条件となる、

ヴェルくんは私の方を向いて、いつものようにニコっと笑った。

「リンさん、いろいろとありがとう。昨日もいろいろと助けてくれたみたいで…」

ヴェルくんが申し訳なさそうに頭を下げた。

「ヴェルくんは悪くない…よ?体は…平気?」

「リリスのおかげですっかりね。ここまでしてもらったんだ。絶対合格するよ」

なんだかいつもよりも頼もしく見えた。
でも…私は不安だった。
ヴェルくんの相手がクロくんだったから…。

ヴェルくんを見送って私たちは入学式に試験があった闘技場に向かった。
今日は先生たちが昇組試験に行かなくてはいけないので、普通の生徒はお休みだ。
普通じゃない生徒というのは、試験の相手になる人たちだ。
私たちの組からは確か…クロくんとゴウくんとクレアちゃんだった気がする。

私たちは、前にママたちが座っていた観客席に座って、試験が始まるのを待つ。

「リン様はどっちが勝つと思いますか?」

「うーん…わかんない…」

レインの質問はほんとに私はわからなかった。
魔法のセンスは確実にクロくんのほうが上だ。入学当初よりも戦闘での魔法の使い方がクロくんはすごく上手になっている。
自分の得意な属性以外の魔法も使って、自分に有利な展開に運ぶのがうまいなって思う。

「クロくんが…あの魔法を…使うかに…よる」

「あぁ、『黒点』ね」

黒点はクロくんが最近、戦闘授業で使う闇魔法だ。
名の通り、地面に黒い点が出て、クロくん以外の人や物が吸い寄せられるのだ。
動きが鈍くなったところで、クロくんの魔法で狙い撃ちされる。
このパターンに持っていかれると今のヴェルくんじゃちょっと厳しいかもしれない。
ちなみに、名前は別に付けなくてもいいが、ママ曰く「自分のすぐに使いたい魔法や、得意な魔法に名前を付けると発動がちょっと速くなりますよ」だそうだ。

「ヴェルくんが…黒点を出すのを…止められるかどうか…だと思う」

「なるほどね。ゴウのほうは?」

「ゴウくんは…当たったら…勝ち…?」

「ぶふっ…た、たしかに…」

ハナちゃんは急にふきだしてぷるぷると笑いをこらえていた。

「クレアさんは…まぁ、気まぐれが起きなければ大丈夫でしょう…」

ルナちゃんの言うことはあってる…クレアちゃんにいたっては本気がわかんないし…。

「それで…なんであんたもいるの?」

「えぇ~いいじゃないですかぁ~未来のクラスメイトですしぃ~仲良くいたしましょ~?」

私の隣に座っていたリリスさんにハナちゃんが話しかけた。

「リリスさん…も、試験じゃ…ないの?」

リリスさんは確か、治癒魔法部門で試験があったと思うけど…。

「治癒魔法試験はぁ~戦闘部門の後だからぁ~皆さんと仲良くなりたいと思いましてぇ」

リリスさんはふふふとにこやかに笑っていたが、ハナちゃんとレインは顔をしかめた。

「あんた、うわさじゃ九花の一族なのよね?なんで2組にいたの?」

ハナちゃんの質問は私も思っていた。昨日ヴェルくんが傷だらけだったのに、今日はもう全快してるんだから、最初から1組でもいいと思う。

「それはぁ~ちょっと訳ありでしてぇ~」

「わけ?」

「はいぃ~私はぁ~光魔法の家系なのでぇ~治癒魔法しか教えてもらわなかったのですよぉ~。あの試験ってぇ~攻撃魔法がメインなのでぇ~毎年私達の一族はぁ~1組に昇組でいくしかないのですよぉ~」

なるほど…。確かにあの試験だとゴウくんの言葉を借りると派手な魔法なら評価が高そうなイメージがある。
そういう点では治癒魔法があまり評価につながるイメージがある。

「ですのでぇ~私はあなたのことを~とても尊敬しているのですよぉ~ハナ・フルーライトさん」

「え?私?」

リリスさんがハナちゃんの名前を出すと、ハナちゃんは予想より驚いていた。

「だってぇ~私と同じ白の属性でぇ~最初から1組入りをしているんですよぉ~?それはもう私の中ではヒーローなのですよぉ~」

「ヒーロー…そ、そんなことないけどねっ!」

ハナちゃんはまんざらでもなさそうだった。
まぁ、ハナちゃんと仲良くなれるなら、他の人とも仲良くなれると思う。

「あ、そろそろはじまるみたいですよ」

ルナちゃんがそういうと、私たちは闘技場へ目を向けた。
出口から出てきたのは2組の女の子と、クレアちゃんだった。


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