特技泥棒、異世界に行くと最強スキルになりまして

初昔 茶ノ介

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第1章:別れと出会い

27.実験の成果/気がついた価値

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「うーん、なかなかうまくいかないね」

 森の家で薬草栽培を始めてから1ヶ月。
 家では周りを動物が侵入してこないように柵が建てられていて、内側で野菜なんかを育てている。
 その隣にとってきた薬草を植えて一緒に育ててみたが、成果はあまり芳しくはなかった。
 薬草畑で俺とロネット、トニーとルッテの4人で首を捻る。

「そもそも薬草ってどうやって増えるんだ? 種ができている雰囲気はないんだが……」

「え? シノ兄知らないのか?」

「知らないって何が?」

「薬草の増える条件は不明で、資料なんかは一般に出回っているものは一切ないそうです」

「そうなのか!? いや、そもそもなんでみんなそんなこと知ってるんだ?」

「この家に来る前のお勉強でミラ先生に習ったんだよ」

 なんでも、薬草に関する事業を行うからとミラさんが気を利かせて薬草の知識を子供達に教えてくれていたようだ。

「てっきりシノお兄ちゃんも知ってるのかと……」

「いや、俺は基本的なことなんて何も。ただ、あの洞窟近くでは薬草を大きく育てることができたから増やすのもそのうちできるかなって」

「大きく育てられたって、どうやったんだ?」

「水をあげる前に薬草に他の薬草で抽出したポーションを一滴落とすんだ。何か変化があるかなと思って。そしたらいつもよりも大きくなるのがあったんだ」

「へぇ、何か効果があったのかな?」

「よし、それを試してみようぜ。こっちとそっちで半分に分けて、こっちはシノ兄の方法、そっちは普通の方法で」

 トニーが地面に線を引いて、目印をつけた。
 俺はトニーの言った方の薬草にカバンから薬草を取り出して抽出で一滴ずつポーションを落としていく。

「これで何か変わるといいけど……」

「まぁ、こればっかりは願うしかないな」

 それから2週間後。

「お兄ちゃん! 大変!」

 俺がちょうど目を覚ましたところで、ロネットが部屋の扉を勢いよく開けて入ってきた。

「どうしたんだ、そんなに慌てて」

「早く薬草畑に来て!」

 それだけ言い残してロネットは部屋を飛び出していく。
 とりあえず俺は着替えもせずロネットの後を追って薬草畑に向かう。

「お兄ちゃん、見て!」

 俺に気がついたロネットは実験でポーションをあげている薬草を指す。
 すると、昨日まで全然変化がなかった薬草が通常の育て方をしている薬草が倍に近い大きさになっていた。







 確かあの娘はロネットとか言ったか。
 所詮は貧民だ。時間を持て余しているし、小銭をちらつかせれば再び薬草を採ってくるだろう。
 そう思って来たくもない北通りにきたが、いつもの教会跡地にロネットを含め子供が一人もいなかった。

「どう言うことだ……一人二人いないだけなら不思議なことではないが……全員というのはおかしい」

 不思議がっていると、奥の扉が開いてボロボロの服を着た男がやってきた。

「だ、誰だあんた。ここはもう俺が使わせてもらってるんだ。あのガキどもがいなくなったからな」

「ここに住み着いていたガキがどこに行ったか知っているのか?」

 どうやらこの教会にいた子供がいなくなった後に住み着いた人間のようだ。
 本来ならこんな汚らわしいやつと話などしたくはないが、なりふりなど構っていられない。

「知ってたらなんだってんだ」

「教えてくれ。奴らはどこに行った」

「すー……人にものを尋ねるときは、やり方ってのがあんだろ?」

 男はにちゃぁっと気味の悪い笑みを浮かべて私に遠回しに要求してきた。
 くっ……貧民の分際で意地汚いことこの上ない。背に腹はかえられないと私は今出せる金を地面に投げた。
 男が私の落とした金が入った袋を拾って中を確認したらコソコソと自分の懐にしまった。

「へへへ、毎度あり。あのガキどもはどうやら最近、ある商会に引き取られたようだ。紋章がついた服を着た女に連れて行かれるのを見た」

「ある商会? どこの商会だ」

「さぁ、そこまではわかんないね。あれは獅子と天秤だった」

「獅子と天秤……まさか……」

 まごうことなき国一の商会、フェルネス商会の代表が三男坊に商会を与えたと聞いた。獅子はフェルネス商会の紋章で、その傘下の商会には獅子と別のものを入れた紋章をつけると聞いたことがある。
 私はそこでしまったと思った。おそらく私がロネットとやりとりしていた時に注意して来たのはフェルネス商会の三男坊、リオネルだったんだろう。
 もしかするとリオネルもロネットの価値に気がついたのかもしれない。
 私は慌てて教会跡地を飛び出した。

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