前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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25話 説得

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 で、翌日……

 授業後、俺たちは村長の家を訪れていた。
 “たち”とは、俺以外に神父様にも同行してもらっているからだ。

「……ってーと、ロディフィス、お前はまたあの“洗濯場”みたいなもんを……お前さんの言葉を借りるなら“セントー”とかってヤツを村の中に造りたいって事か?」
「そういうこったな」

 当初の計画では、もう少し時間を掛けて推し進める予定だったのだが、嬉しい誤算と言うか思った以上の速度で風呂の存在が広まり、それなりの好評を博した。
 正直、これ以上昨日のような状態が続くとなると、俺自身が入れない。それは困る。
 そこで、一足飛びではあったが、早速村長にこの話を持ちかける事にしたのだ。
 とは言え、いきなり“銭湯を建てます”とは行かないので、俺の計画案を聞いてもらってその上でまずは村長としての判断を聞こうってことだな。
 ちなみに、何故神父様が同席しているのかと言えば、個別に説明するのが面倒だった事と、神父様からも何かしらのアドバイスがもらえれば、と思っての事だ。
 と、言う訳で俺はそのまま本計画プロジェクトの概要を村長と神父様に説明する事にした。

 銭湯を造るにあたって、まず、問題になるのは土地の確保だった。
 この問題が解決しなければ、この計画は先には進まない。
 少なくとも30人は軽く入る事が出来る浴槽を、最低でも2つ(男湯と女湯の分だな)は用意しなくてはならないからだ。
 俺的には混浴でも全然OKなのだが、そんな事をすると女性陣から苦情が来るの目に見えてるしなぁ……
 そんな訳で、体を洗う洗い場、着替えるための脱衣所なんかもそれぞれ2つずつ用意する必要があった。
 それにはどうしても、一定以上の広さの土地が必要となった。
 しかも、できる限り水源の近くで、と言う条件は絶対に外せない。
 広さだけなら条件に合致する場所がいくつかあったのだが、どれもこれも川からはかなり遠かった。
 川から離れた所に造っては、水路を引くだけで一大工事になっちまうからな。
 だから、川の近くで……となると、雑木林や傾斜の激しい地面の所為で、大掛かりな建物を建てるには不向きな土地ばかりだった。
 村の木を切り倒して空き地を作ろうにも、村の木は領主の持ち物であり商品であるため、勝手に切り倒す訳には行かず、かと言って傾斜をならして整地するには圧倒的に人手が足りなかった。
 そこで登場するのが、前回ソロバンを売って得た大金である。
 つまり……
 無いのなら、この金に物を言わせて買ってしまえばいいのだっ!
 木が邪魔をしていると言うのなら、その木を買って切ってしまえばいい。
 人手が足りないのなら、労働力を買えばいい(あっ、別に奴隷を買うとかそう言う物騒な意味じゃないよ? 労働者を雇用しよってことな?)。
 今の我が村には、それだけのかねがあるのだからなぁっ!
 ついでに、建築資材も全て購入だ。
 建材となる木材は、邪魔な木を切り倒した分だけでは到底足りない。
 それに浴槽に使用するレンガ……勿論、ボイラー部分となる魔術陣の刻印された物だけは村生産になるが……自前で用意するのには時間がかかり過ぎる。
 そう言った物などは全部買ってしまえばいい。
 つてはあるしな。
 ソロバンの売り上げは、まだ1回目の支払い終わっただけで生産は現在進行形で続いてる。
 イスュの見立てでは、2回目、3回目とロットを重ねて行く毎に、販売価格は徐々に低下し、支払金もそれにつられて下がって行くだろう、との事だったが……
 まぁ、時間が経てばソロバンをマネたパチもん商品が出てくるだろうからな。
 価格競争が起きて値下げは必至だ。
 イスュに言わせれば、“それを見込んでの高額スタート”な訳だけど……
 それでもまとまった収入が、少なくともあと3回は残っている事になる。
 それだけの金があれば、足りない……と言う事にはならないだろう。
 ……たぶん。
 こうして、外部から必要な物を調達する事が出来れば、村人への負担を減らす事ができる。
 しかも、前回、大衆洗濯場を造った時は村人の善意の協力だったが、今回は、村からの協力者にも労働に見合った賃金を供与する方向で考えている。
 勿論、やるべき事を疎かにしない範囲での協力に限るけどな。
 村での作業を優先するために、イスュからのリバーシの生産を断っておいて、その村人たちが銭湯を造っていたのでは本末転倒だ。
 と、言うような内容の事を村長たちに話した所……

「……お前のやりたい事は理解した。
 が、村の外から人を入れる事には、賛成できんな」

 と、言われてしまった……
 “そうですね……”と神父様も渋い顔で全面同意のようだった。
 うぉ……いきなりダメ出しをされてしまった……
 まぁ、小さな村がよそ者を嫌うなんて、よくある話だろう。
 このラッセ村も、例外ではなかった、と言う事だな。
 だが、一応、直接村長にダメな理由を聞いてみると、思っていたのとは多少違った答えが返ってきた。
 村長曰く……
 村に外部の者が大勢入る事で、村人に不安が広がる事への懸念がまず一つ。
 そして、その外部の者たちが村の中で、狼藉ろうぜきを働く危険性がまた一つ。
 これは、まぁ予想の範囲内の答えだった。
 勿論、人材の選定には最大限の配慮を払うつもりではいたが、それでも所詮他人は他人だ。
 やはり自分たちの領域に“見ず知らずの他人”がいると言うのは、それだけで恐怖の対象となってしまうのかも知れないな。
 生前、エアコンの設置やケーブルTVの配線等で、住んでいたアパートに業者の人を入れた事があるが、まったく知らない人間が自分の部屋にいる、長い時間でもないのに妙に落ち着かない気持ちにさせられたものだ。
 だから、村長の言っている事も分からなくはなかった。
 そして、次の理由こそが最も大きな理由なのだが……
 これは、俺も完全に失念してた。
 その理由というのが、“それだけ大勢の寝床と食事を用意する事ができない”だった……
 この村は、一番近くの町や村からでも馬車(馬っぽい生き物が引く乗り物)で一日ほど離れた所にある。
 そのため、その日の作業が終わったら“今日の作業は終わったので帰って下さい”とは行かないのだ。
 となれば、当然作業員は当面の間、村で生活する事になる。
 最悪、食事に関してはイスュから買うと言う事も出来たが、寝床……寝泊りする場所に関しては、村に宿屋のような宿泊施設がまったくない以上、どうする事も出来なかった。
 では、村人に見ず知らずの他人を泊めてくれるように頼むか? と、言う案も無くは無いが、そんなの誰も引き受けてはくれないだろう。俺だって嫌だ。
 自分が嫌な事を人に押し付けるなんて、筋が通らない。
 ……こりゃ、まいったなぁ……まさか“そこら辺で寝てろ”とも言えないし……どうしたものか。
 現状の村の人手では外部からの労働力が無ければ、とてもではないが作業は出来ない。
 収穫期を過ぎれば冬になり、農作業は基本出来なくなるので人手も確保できるが……それまで待つか? 俺の感覚で二ヶ月以上先の話だけどな……
 う~む……どうしようか?
 俺が腕を組んでう~んう~んと、唸っていると神父様となにやら相談していた村長が声を掛けてきた。

「……で、これは俺から提案なんだがよ、代わりに村から出て行った連中に声をかけるってのはどうよ?
 そうすりゃ、メシの問題は……まぁ、変わらないが、少なくとも寝泊りする場所の問題はなくなるだろ?」

 どうにも話の要領を得なかったので詳しく聞いてみると、どうやらこの村で生まれた者の多くは成人すると近くの町や、ここより大きな村に出て行ってしまうらしい。
 別に“こんな村いやだぁ~こんな村いやだぁ~”と、都会に憧れて上京……と言うのとは少し違うようだった。
 中にはそう言う理由で村を出る奴もいるだろうが、それが全てではないと言うことだ。
 この村の主産業は農業だ。
 小麦を作ってそれを税金として、領主に収めている。
 支払う小麦の量は、畑の大きさを元に割合で決まっていた。
 つまり、畑の大きさが変わらない限り、支払う小麦の量は常に一定だと言う事だ。
 それはたとえ、豊作や凶作であったとしても変わらない。
 そして、税金として収めた残りが村人たちの手取りとなる。
 豊作であるなら村人たちの手元に残る量が増えそうな物だが、豊作なら豊作で役人たちに難癖をつけられて結局は多く持って行かれるので、村人にとっては手放しに喜べないのが現状だった。
 勿論、凶作よりかは豊作の方がいいに決まってはいるがな。
 で、この村は子沢山な家庭が実に多い。
 ウチだって俺以外にレティとアーリーがいるし、ガゼインおじさんのとこもミーシャとグライブで二人だ。
 子どもが三人、四人なんてのはこの村じゃ別に珍しくもなんとも無いのだ。
 小さいうちこそ労働力として必要になる子どもたちだが、大きくなり食事の量が増えれば今度は家計を圧迫するようになる。
 畑を広げて収入を増やそうとしても、広げた分だけ税金は増えるし、そもそもこの村の土地自体が畑には適さない土地だった。
 くわを入れると直ぐに、大小様々な石がゴロゴロ出てくる。
 現代日本なら、重機を使ってあっと言う間に開墾かいこんする事もできるのだろうが、この村ではそうはいかないのだ。
 畑を広げても、その土地柄直ぐには農地としては使えない。
 収穫も見込めない土地なのに、役人からは“農地”として扱われ税金だけはきっちり取られる……
 畑を広げようと思ったら、収穫が可能になるまでずっと無駄に税金を払い続けなければならないと言うことだった。
 これでは、畑を広げようにもとてもじゃないが広げられるものではない。
 今の農地は、じいさんのじいさんたちがこつこつと少しずつ広げた賜物なのだ。
 現状では、税金が軽くでもならない限り、もしくは収穫高から税金を支払うシステムにならない限り増収は見込めそうも無いのが現実だった。
 となれば……
 皆が皆、この村に残る訳にも行かず、多くの者たちは成人すると共に、村を出て行くしかなかったのだ。
 村長にも、三人の子どもがいるらしいが、村に残っているのは長男夫婦だけらしい。
 次男と三男は今は、近くの町で暮らしているとかなんとか……ここ数年はまともに顔を見ていないと言う。
 ウチの両親は、共にこの村では珍しい一人っ子だったので、親戚の話なんて出た事が無いが、ミーシャの父親のガゼインおじさんの兄弟は、近くの村に住んでいるなんて話は聞いた事があった。
 なるほど、そんな理由から村を出て行った人たちがいたとは、全然知らなかった。
 となると、何時かは俺もこの村を出なければいけない日が来るのだろうか?
 長男だから別にいいのか?
 そうなると、レティかアーリーが出て行く事になるのだろうか?
 それはヤだなぁ……レティもアーリーもずっとにーちゃんと一緒に暮らすのだっ!
 誰が嫁になどやるかっ!
 ……と、いう話はさて置き、村長はそうして止むを得ず村を出た者たちを、一時的にでも呼び戻してはどうか? と提案してきたのだ。
 そうすれば、“身内”の所に泊めさせてもらえばいいだけの話だから、宿泊先の問題は無くなる。
 で、“少しだけでもいいから、報酬を増やしてやって欲しい”との事だった。
 なるほど……おいしい話は、なるべく身内で回したい。
 そう言う事なのだろう。
 そんな村出身者へは、村長が連絡を取ってくれると言う。
 ぶっちゃけ、作業ができれば外部の人間だろうが身内だろうが俺はどっちだっていいのだ。
 特に問題があるわけでもないので、人手に関する話はこれで一応まとまった。
 話はまとまったが、これで決定と言う訳ではない。
 あくまで、村長が同意してくれたに過ぎないのだ。
 次に、村の重役(?)たちを相手にプレゼンをしなければいけないのだが、それは村長が買って出てくれたので、おまかせにする事にした。
 建設資材の調達にどれほどの金額がかかるのか、現状では分からないのが問題だったが、分からない事を議論しても仕方がないと、決められる所を先に決めて金銭に関する問題は次にイスュが村にやってきた時に相談を持ち込む事にした。
 最悪、提示される金額如何では計画そのものの中止もありえたが、その時はその時だ。
 無理な時は計画を先送りにするだけだ。
 先送りにするだけで、勿論、諦めるつもりなど毛頭ないがなっ!
 そのあと、いくつかの案件を話し合って、俺たちは解散する運びとなった。
 そして、帰り際……

「手間のかかる教え子を持つと苦労するなヨシュア」
「いえいえ、彼がいると実に楽しいですよ。
 それに、事ある毎に難題を持ち込まれる貴方よりはずっと気楽なものですよバル」
「ちげーねぇ……」

 なんて事を、村長と神父様は笑いながら話していた。
 おい、その“手間のかかる教え子”ってのは俺の事か村長よ?
 よし、分かった。そっちがその気なら、俺にも考えがある。
 次にリバーシで対局するときはフルボッコにしてやんよっ! 覚えとけっ!
 神父様も神父様で、難題ばっかり持ち込む問題児みたいに言うのやめてくれますか?
 これでも村のためを思っていろいろ考えてるのよ俺?

 その日の夜。
 村長の非常招集によって村の重役(?)たちが集められ、銭湯建設計画が村長の口から説明されることになった。
 一応、俺と神父様も同席していたが、今回はあくまで聴衆側としてだった。
 話し合いは満場一致で賛成、とは流石にいかなかったが、概ね賛成多数という事で計画案は可決されることになった。
 勿論、賛成する者の中にもいくつかの条件を出すものが少なくなかった。
 金銭的な問題に、呼び戻すと言っても戻ってくる者たちが実際どれくらいいるのか……等々。
 実際に蓋を開けて見なければ分からない事が、主な問題点として挙げられていたのだ。
 彼らは、それらの問題が解決できるのであるなら賛成という立場だった。
 逆を言えば、何か問題があれば即反対、と言う立場でもあると言えた。
 その日の会合は、玉虫色の合意を持って終了となった。
 そして、翌日。
 村長は早速数人の連絡員を、居所が確定している村出身者の下へと向かわせた。
 連絡員たちが、彼ら村出身者の参加の是非を聞いて戻ってくるのは数日後となる。
 自動車なら直ぐ着くよう距離でも、この世界ではそうはいかない。
 俺の感覚で距離的に近いとは言っても、移動手段が限られている以上やはり時間も労力もかかってしまうのだ。
 だから、村を出て行った者たちも気軽に里帰りなんてできる訳も無く、中には村を出てから数十年間一度も戻ってきていない者もいるのだとか……
 もしかしたら村長は、そう言った人たちに帰省の切っ掛けを与えたかったのだろうか? と、ふと思ったりもした。
 作業に参加すれば給料はもらえるし、家族親類に会う事だってできる。
 悪い話じゃないだろう。
 どんなに遠く離れていても、電話やメールで一瞬にしてパパッと連絡が取れた生前が懐かしいものだ……
 で、俺はその間何をするのかと言うと……
 ぶっちゃけ、イスュが村に来るまではすることも無いので、通常運転だ。
 魔術陣の研究と実験をして、ガキんちょに算数を教えて、下手な剣術の訓練をして、ミーシャたちと遊んで、妹の世話をして、ソロバンを作るのを手伝って、農作業を手伝って……
 あれ? なんか俺ってば、それなりに忙しくない?
 まぁ、別に気にしてないからいいけど……
 と、そんなこんなで数日が経って行ったのだった……
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