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一六二話
しおりを挟む翌日。
宿で朝食を食べて、自室でまったり過ごし、正午近くになったので昨日の約束通り王城へと向かう。
で、王城前にて。
「どもども。昨日、学術庁の方との面会を希望した者ですが」
そう、城門前に立つ門番へと声を掛ける。
「ああ、覚えている」
と、そう答えたこの門番。確かに昨日見た顔だな。
「で、どうなりました?」
「面会されるそうだ。なんでも、神秘学研究会の学部長が、直々に面会して下さるそうだぞ」
お? 随分とお偉い方が出て来たな。これもブルックの手紙効果だろうか?
「それは有難い話しですな。で? 俺はどうすれば?」
「来たら学部長室に通すようお達しが来ている。
おいっ、お前! 先触れと案内役の侍女を連れて来いっ!」
「はっ! 了解しましたっ!」
俺と話していた門番が、もう一人の門番にそう命令すると、命令された方の門番は敬礼一つ、その場から駆け去って行った。
まぁ、何となく感じてはいたが、こっちの俺と話している門番の方が立場が上のようだな。
「というわけだ。案内が来るまで暫し待たれよ」
それから、特に会話らしい会話もないまま時間だけが過ぎて行き、それから一〇分ほどして案内役だというメイドさんらしき女性がやって来た。
「お話は伺っております。どうぞ、こちらへ」
と、そう言うメイドさんの後に付いて、俺は王城へと入って行くことに。
しかし……
「持ち物チェックとか、そういうのしなくてよかったんですか?」
俺が言うのもアレだが、ここは王城というように王族も住んでいるような場所だ。
そんな場所に俺のような、ぶっちゃけ何処の誰とも分からない奴が、ノーチェックで入ったりして、セキュリティーはそれでいいのだろうか?
しかも、案内についているのはこのメイドの女性だけ。
ここで俺が、無体狼藉を働いてこのメイドさんを害し、果ては王侯貴族関係者に危害を加えたらどうするつもりなのだろうか?
と、部外者である俺の方が少し不安になってきた。
なので、そのことについて少し聞いてみると、メイドさん曰く。
ブルックからの直接の紹介である以上、俺に必要以上なチェックは出来ないのだとそう丁寧に説明してくれた。
なんでも、ブルックの紹介である俺を疑うことは、転じてブルック自身をも疑うという行為に当たり、それはとても失礼な行いなのだそうだ。
貴族の紹介などを無碍にした場合、最悪、不敬罪すら適応されることもあるのだという。
また逆に、紹介者が不埒な行いをした場合、その責任は紹介者にもあるとされ、同様の罰を受けることになる、とのことだった。
つまり、俺がここで悪さをすめと、その責任はブルックも問われ、同様の罰を受けることになる、と。
なるへそ。ここではそういう理屈になるのか……よしっ! 大人しく良い子にしていよう。
まぁ、そういうルールが無かったとしても、暴れるつもりなんてまったくないけどな。
というか、それだけ俺を信用して手紙を書いてくれたブルックには、本当に感謝である。
などなど、案内してくれたメイドさんとあれこれ話しをながら、王城内を歩くこと数分……
ってか、王城広っ! 中、滅茶苦茶広っ!
その規模を喩えるなら、東京ドーム数個分くらいはありそうだった(当社比。まぁ、東京ドームの正確な大きさなんて正直よく知らんけど)。
それで、歩いていて分かったことだが、どうやら王城というものは特定の一つの建物を指した言葉ではないようだ。
どういうことかというと、まんま日本でいう“城”と殆ど同義だ、というこだ。
そもそも城とは塀や堀などで囲まれた施設全体を指す言葉で、一般に城と呼ばれている建物は正確には天守閣という建造物である。
簡単にいえば、天守閣は城の一部であって、城そのものではない、ということだ。
それと同じように、王城とは王族が住んでいる……かどうかは分からないが、所謂、天守閣を始め、行政などに携わる建物や軍事に携わる建物など、様々な建物が一つの施設の中に納まり、王城という施設を形成しているようだった。
例えるなら、皇居の中に国会議事堂と各種庁舎、ついでに自衛隊の基地を全部まとめてぶち込んだような感じだろうか。
その所為で働いている人が非常に多く、道を行き交う人のその様子たるや、ちょっとした街のそれである。
てか、この道を行き交う人全員がお役人なのか? 流石は一国の趨勢を担う場所だけのことはある、ということだな。
で。
歩けども歩けども、全然目的地に着かず、そろそろ疲労すら感じ始めた頃。
「こちらになります」
と、ようやく目的の建物へと辿り着くことが出来た。
いや~、長かった。
天守閣からかなり離れた場所に立っているこの建物が、学術庁神秘学研究会の研究棟であるらしい。
外見は石造りのおそらく三階構造の建物で、大きさは一般的な一軒家二、三軒分といったくらいか。
結構な大きさだな。
俺が外観の観察をしているうちに、メイドさんが入り口へと近づくと、徐に吊るされていた一本のロープを引いて見せた。
と、同時にリンゴーンリンゴーンと、鐘の音が響く。
どうやら、ロープの先端が鐘に繋がっていて、呼び鈴として使われているみたいだな。
ここからではロープの先は見えないので、何に使うロープなのかと思ったらこういうことだったのか。
それから少しもしないうちに職員、いや研究員か? らしき男性が出て来て、メイドさんと二、三会話を交わす。
と、メイドさんは「それでは失礼します」と俺に告げ、この場から立ち去ってしまった。
代わりに「話は伺っています。こちらへ」と、ここからはこの男性研究員の案内となった。
施設に入り、サクサクと階段を上り三階へ。
そして一番奥の大扉の前まで案内されると、男性研究員が扉を数度ノックする。
「学部長。件のお客様を案内しました」
「分かったわ。通してちょうだい」
と、中から声が返って来たのだが……
声の感じから察するに、どうやら神秘学研究会の学部長様は女性の様だ。それもかなり若い感じの。
学部長、というくらいだから勝手に髭モジャのおじいちゃんを想像していたよ。
男性研究員が「どうぞ」と扉を開けてくれたので、一言礼を言って中に入る。
俺が扉を潜ると、男性研究員が一礼しすぐに扉を閉めてしまった。
で、俺が視線を前方に向けると……
そこには、大きな執務机に頭だけ出した、一人の少女が座っていたのだった。
年齢にしたら、おそらく十代前半から中盤といったところか。
「始めまして。スグミ殿、でよかったかしら?」
そう言うと、少女は椅子からピョンと降り、俺へと向かってテコテコと歩いて来た。
身長は俺の胸よりやや低いといった感じか。これは、宿屋のミラちゃんといい勝負だな。
長い紫紺のストレートの髪を左右に揺らし、見た目に反し、その白衣姿は妙に板に付いてる感じがした。
「私が学術庁、神秘学研究会の学部長を務めているセレスよ。よろしく」
セレスと、そう名乗った少女学部長は俺に向かって、にゅっとその小さな手を差し出す。
ここでトーシローなら「何で子どもが?」、なんて口走るのだろうが、生憎俺は訓練されたオタクなので、こんな程度では動じない。
ここはエルフも居るような異世界だ。
ならば、この目の前の少女が、本当に見た目通りの少女であるといえるであろうか? いやないっ!
おそらく、この一見少女はドワーフとかハーフリングといった感じの、小柄な種族の成人女性、といったところではないだろうか?
この世界に来て、それなりの時間を過ごした俺の観察眼は節穴ではないのだっ!
つまり、ここで下手に「何で子どもが?」などと言えば「子供じゃないわよ! 失礼ねっ!」という鉄板の流れになるに決まっているのであるっ!
この流れ、読み切った!(天地明察)
ならば俺がここで取る行動は一つ。
この見た目少女を子どもとしてではなく、一人のレディとして対応する、ということだ。
なので、俺は何も言わずその手を取ることにした。
が……ちっさっ! 手、メッチャちっさ!
「スグミだ。手紙に何処まで書いてあったかは知らないが、一応、銀級の自由騎士をしている。こちらこそよろしく」
「えっ……あっ、ええ、よろしく……
それじゃあ早速話を聞きたのだけど……取り敢えずそこのソファーにでも座ってもらえるかしら?」
「ああ、分かったよ」
と、勧められるままに、俺は近くのソファーへと腰を下ろし、その対面にセレスが腰かけた。
そして、手紙に書かれていた内容を確認しつつ、手紙には書かれていなかった詳細部分を補足したりして、俺が古代遺跡について知りたい事情をセレスへと説明したのだった。
勿論、俺が異世界から来た、という点は伏せてな。
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