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二一五話
しおりを挟む「スグミ殿が迷惑でなければ、このままここに置いて頂けないでしょうか?」
そう言って切り出したの、セレスだった。
ただ、さっきまでは、スグミ、と呼び捨てにしていたくせに、今は女王陛下の前だからと“殿”呼びに戻っていたがな。ネコを被りやがってからに……
「別に邪魔ってことはないが……危険かもしれないのに何でまた?」
そう言うセレスに、俺は至極当然な疑問を口にする。
「私が何で貴方に着いて来たのか、その理由を忘れてしまったのかしら?」
と、やれやれとでも言いたげな声で、そう言い返されてしまった。
「それは見つけた魔獣やらを、ベルへモスかどうか判定してもらうため、だろ?」
「確かにそれもあるけれど、私としては未知の生物の生態を調査するため、という意味合いの方が強いのよ。
危険極まりないユグル大森林の奥地まで来ることなんて、普通に考えたらあり得ないことだし、現に目の前には図鑑にも載っていない生物がいるわ。
しかも、間近にね。こんな貴重な機会、今を逃したら多分二度と得られないもの。
それをみすみす見逃すなんて、それこそなんのためにここまで来たのか分からなくなるわ」
と、やや興奮気味な口調でセレスがそう捲し立てる。
つまり、研究者としての血が騒いだから、ということらしい。
そういえば、確かにそんなことを言ってたな、と昨日の会議の時のことを思い出す。
「それに、危険とはいうけれど、貴方の最終的な目的って自分の国に帰ることでしょ?
だったら、別にここであのバケモノを必ず倒す必要はないわけで、ましてやこの国の為に命を掛けてまで戦う義理なんてもっとない。
となれば、少しでも劣勢と判断した時点で撤退する、というのが一般論ではないかしら?」
「そりゃ……まぁな……」
そもそも、そこまで窮地に立たされとは思っていないが、仮にそうなったとした場合、セレスの言う通り迷わず一時撤退するのは間違いないだろう。
セレスも言っていたことだが、別に俺がノールデン王国にそこまで義理立てする必要もないわけだからな。
この場で無理をするより、一度撤退してから別の対策を考えた方が、俺にとってもこの国にとっても建設的な話しだ。
何事も、命あっての物種である。
「ただ、戦闘状態になったら今では比べ物にならないくらい、かなり激しく揺れぞ? あとで泣き言を言っても降ろしたり出来ないからな? 覚悟は出来てるんだろうな?」
「当然よ!」
と、勢い込んで同意するセレスだが、果たしてどれだけ持つことか……
正直、『アンリミ』でマキナバハムートを使った全力戦闘はエースでコンバットするみたいになっていたからな……
「それじゃあ、降りるのはセリカだけってことで……」
「ちょっと待て、何時私が降りると言った?」
そう、確認の為に問いかけたら、こちらからも降機拒否されてしまった。
「セリカまで残るつもりなのか?」
そう、一応尋ねると「当然だ」ときっぱり答えが返って来た。
「……一応、理由を聞いても?」
セレスが残ると言った以上、今更一人が二人になったところで変りなどないのだが、取り敢えず聞くだけ聞いておく。
「私は見届け人としてこの場に居る。ならば、最後まで見届けるのが騎士の責務というものだ。
多少危険になったからと、放棄など出来るか」
そんな俺の問いに、フンスっ、とセリカが鼻息も荒く豪語する。
『スグミ様。アンジーは一度言い出したら聞かない子なので、お邪魔でないようでしたらそのまま置いておいてくださいませ』
で、共振リング越しに、プレセアが呆れ交じりにそう言う声が聞こえて来た。
確かに。セリカにはそういうところあるよな。思い立ったら一直線というか、猪突猛進というか……
と、現状に至るラルグスさんとの議論の風景や、出会った頃のことを思い出す。
「おい、プレセア。私の方が年上なのに“子”とはなんだ“子”とは」
年下に子ども扱いされたのが不満だったのか、やや棘のある声でセリカが言い返す。
『実際その通りではないですか?
スグミ様のように戦える力を持っているわけでもなく、ましてやセレス様のように何か学識があるわけでもない。
なら、そんな貴女はそこで何が出来るというのですか?』
「うっ……」
ド正論をド突かれて、セリカが言葉を詰まらせる。
「私は見届け人として……」
『正直。それもこの“遠見の魔道具”があれば、事足りるのではないですか?』
「うぐっ……」
実は、その点に関しては昨日ラルグスさんとベルへモス捜索会議をしていた時に、同様の指摘を受けていたことだった。
遠方の出来事が分かるなら、実際に二人が行く必要はないのでは、と。
セリカ、セレス両名の同行が決定していた後に、俺が真虚二枚の鏡について話したものだから、同行に関しては、一度はなしという方向に話しが流れたのだが……
しかし、セレスは鏡越しではない現物を直に見ることが大切なのだ、と同行することに学術的意味があると、そう強く力説し同行が継続されることに。
で、セリカはというと、魔道具が不調を来した場合など、不測の事態に備えて見届ける人間はいた方がいいと、そう無理やりな理由をこじ付け、現場に居ることに意味があるのだと結局譲らず、そのまま同行することになったのだった。
「それに、だ。もし、この人形が打ち破られるようなことがあれば、モヤシなスグミと、学者肌のセレス殿だけでは、この魔境を生きて出られないかもしれないではないか。
やはり、安全の為にも一人くらいまともに戦える者が同行するべきだと思うのだっ!」
セリカから、うんうん、と自分で自分の説明に納得している雰囲気が伝わって来た。
のだが……
「なぁ、セレス。今、俺達軽くディスられなかったか?」
今、セリカの奴、俺のこと迷わずモヤシって言ったからな。まぁ、俺に関しては間違いではないが……
セレスに至っては、学者だからひ弱だろう、みたいなニュアンスも感じられた。
てか、モヤシってこの世界にもあるのだろうか?
「そうね。確かに私は学者だけど、神秘学研究は他の学問と違って割とフィールドワークが多いから、体力や生存術にはそれなりに自信があるのだけれど……」
と、そんな俺の言葉にセレスが不服そうにそう零す。
確かに、セレスのじいちゃんの話しを聞く限りじゃ、遺跡に潜ったり、未踏の地で異種族の文化を調べたりと、やってることはインディーなジョーンズかドゥームなレイダーか、みたいな感じだからな。
まぁ、セレスのじいちゃんだけが特殊だった、という可能性もあるが……
ちなみに、マキナバハムートには緊急時にコクピットブロックごと脱出するシステムが施されているので、大破即死亡ということにはならない。
また、仮にマキナバハムートが大破したとしても、俺にはまだまだ他の人形があるので、森に取り残されても十分生存は可能であり、また帰ることもそう難しい話しではなかった。
勿論、俺だけでなく、セリカやセレスも含めてだ。
まぁ、敢えてこちらからそれを言ったりはしないがな。
『と、こんな感じですので、説得するよりはそのまま連れていた方が早いかと存じます』
「……了解した」
プレセアの説得力のある言葉に、俺も同意する。
「……むぅ、何だその間は?」
「いや……別に他意はない、ぞ?」
「もしや、私のことを“面倒くさい女”だと思ったのではないだろうな?」
……大変、勘がおよろしいようで。
だが、素直にゲロると怒られるだけなので、適当に誤魔化しておくことにした。
「いやいや、そんなことはないぞ? うん。ないない」
「何か怪しいな……」
「さてっ! んじゃ、話しがまとまったところで、サクっとアレを討伐しましょうかねっ!」
これ以上追及されると、精神的にも物理的にも逃げ場が無くなりそうなので、強引なまでに話題転換を図る。
昔の偉い人も言っていた。こういう時は、逃げるに限る、だ。
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