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三〇七話
しおりを挟むしかし、いくら瓦礫を撤去するスペースを用意したからといって、穴を掘るだけではトンネルを開通させることは出来ない。
先にもいったが、瓦礫が土砂状となってしまっているため掘っても掘っても、掘った先から崩れてきてしまうからだ。
これでは、砂漠の砂で山を作り、そこにトンネルを掘る様なものである。
そこで次の手だ。
瓦礫を除去すると同時に、掘り起こしたその場所に百貫百足の頭を強引に押し込み、最低限の空間を確保する。
そして、その押し広げた壁面に向かい、百貫百足の頭部と胴体の継ぎ目付近に設置された装置から、速乾性の接着剤の様なものを散布し固めてしまうのだ。
これなら壁面が強化され、崩れ落ちてくる心配がなくなる。
この接着剤だが、元々は敵に投げ着け、関節などを固めることで行動を阻害する、“パテボム(速乾型)”というデバフアイテムを少し改造し流用したものだ。
簡単にいえば、粘着物質で相手を絡めとるトリモチの速乾パテ版の様なものである。
これは、昨日の時点でセレスから遺跡の詳しい状況を聞き、何か使えそうな物はないかとチェストボックスを漁っている時に、昔、大人買いして結局使わずじまいになっていた在庫を掘り起こしたものだった。
余談だが、このパテボム(速乾型)の大量在庫は昔のチャレンジの名残である。
というのも、一時期、『アンリミ』ではパテボム(速乾型)が猛威を振るっていた時代があった。
とにかくパテボム(速乾型)で敵を固めて、そのあとでボコにすればいい。
こんな単純な戦法で、ゴーストの様な非物理型モンスター以外の、中ボスクラス以下の敵なら余裕で完封出来てしまっていたからな。
しかも、NPCによる低品質な市販品でも十分な効果があり、おまけに価格も安いときた。
ならば、このビッグウェーブ乗るしかないっ! と、昔、大量購入していたのだ。
ちなみにだが、これがプレーヤーの制作物となればその性能は言わずもがなである。まぁ、その分、お値段は張るが。
勿論、自作すれば高品質で更に低価格で作れるには作れるが……
素材の採取と製作時間、そして手間。これらを天秤に掛けると、どうしても買った方が早いし楽、となってしまんだよなぁ……
で、だ。
そもそも、パテボム(速乾型)攻略法の強みは、複数人が一度にパテボム(速乾型)を投げつけるることで、対象モンスターの行動を一瞬で封じ込めてしまう点にあった。
しかし、だ。
生粋のボッチプレーヤーであった俺に取っては、その数を投げる、というのが一番のネックになってしまっていたわけだ。
勿論、黒騎士に投げさせる、ということは出来る。が、それだと量という意味ではどうしても足りないものがあった。
一度に投げられるとしても、右手と左手の二つまでなうえ、二つ同時投げではどうしても命中率に不安が残る。
なら、俺自身が一緒に投げる、という案も考えるには考えたが、即時却下した。
非力過ぎる俺が投げても、そもそも遠くまで飛ばないので無意味にも程があるからだ。
なにせ、ソフトボール投げ飛距離5メートル、みたいな状態だしな。小学生の女子だってもっと飛ぶぞ?
ましてや、それで黒騎士の操作が疎かになっては本末転倒も甚だしい。
結局、当たらなければ意味がないのである。
そこで、これらの問題を解決するために、黒騎士のサブ兵器としてこのパテボム(速乾型)用の連射型発射装置を内臓しようと計画していたことがあった。
これなら、パテボム(速乾型)をより速く、そして大量に投射することが出来るとそう考えのだ。
そして実際に作ったはいいのだが……
まぁ、結果だけをいえば上手くいかなかったわけだ。
というのも、射出時の衝撃でパテボム(速乾型)が射出機の内部で暴発する、という事故が頻発したのである。
そもそも、パテボム(速乾型)は人が投げて対象物にぶつけ、中身をぶちまけることが基本仕様となっていた。
その為、内容物を散布し易いよう、外装の耐久力が非常に低く設定されていたのだ。
当たったはいいが割れませんでした。では意味がない為、対象物に接触した時に簡単に割れるようにしておくのは、構造上、当然といえば当然の仕様である。
一説では、コンビニに置いてある防犯用カラーボールよりも割れやすい、という話しがあるほどだからな。相当に割れやすいのだろう。
まぁ、まず俺は防犯用カラーボールなんて触ったこともないので、どれくらい割れやすいのか知らんがな。
それはさておき。
が、これがまぁ俺にとっては厄介だったということだ。
勿論、上手くいく時もあった。
が、暴発率が七割くらいと圧倒的に高く、とてもではないがまともに運用出来る代物ではなかったのだ。
しかも、一度暴発すると速乾性のパテが射出機の内部にこびりついてしまう為、とんでもないことになってしまっていた。
しかも連射型であるため、うっかりすると射出機のみならず、黒騎士本体へも被害が出る大惨事となった。
で、そのあとメンテするのに地獄を見ることになるっていうね……
固まったパテを、カリカリ カリカリ 剝ぎ落すのにどれだけの時間を要したことか……
最悪、パーツとパーツが固着してしまい、解体が不可能となって丸々作り直したこともあったなぁ……
それでも何度か改良を繰り返してはみたのだが、結局上手く行かず。
そうこうしているうちに、『アンリミ』運営からパテボム(速乾型)の弱体化……主にボスには効かなくなるとか、固着時の耐久力の低下など……そして、そもそもゴースト系以外にも粘着系武器が利かないアンチモンスターの投入等により、パテボム(速乾型)攻略法の熱は急速に冷めていったわけだ。
こうなってしまうと、苦労してまで欲しい兵器か? と考えるようになり、別になぁ……ということでお蔵入りとなった訳あり品なのである。
ちなみにだが、射出機や百貫百足の外装はそのネバネバアンチモンスターの素材でコーティング済みだ。
これならうっかり自爆しても、簡単に剥がれるので問題なし。
過去の轍は踏まぬ。
むしろ、しっかり瓦礫を定着させるため、百貫百足の体を使ってパテを瓦礫に押し付けてさえいるからな。
なんて、昔を懐かしんでいる間に、はい、貫通。
瓦礫に埋もれている距離にしたら、10メートルちょっとくらいだっただろうか?
というわけで、出来たばかりのトンネルから、百貫百足をするすると這い出させる。
『思ったより短くて助かったな』
おかげで……といっていいのか、瓦礫の収容も頭部のみで済んだのはいい誤算だ。
第二節目の拡張空間を使うことになっていたら、維持コストの観点から一度、内容物を吐き出させるために地上に戻ることになってただろうからな。
一つまでならまだ許容内である。
『あの距離をそう思えるのはスグミだからよ……
実際に人が手で瓦礫を撤去しようとしたら、どれだけの時間が必要だと思っているの?』
特に考えもなしに口にした言葉に、セレスからそんな反論が飛んで来た。
言われてみれば、確かにな、と思う。
俺はトンネルを掘ってショートカットしたが、普通にあの通路を開通しようとするなら、あのとんでもない量の瓦礫をすべて撤去しなければ始まらない。
多分、数トン……いや、数十トンクラスの瓦礫を人力、それも通路内に入れる人数には限りがある為、どうしても少人数での撤去作業となることを考えると、気の遠くなる時間が必要になってくる。
まぁ、そんな大変な作業も、俺なら二〇分少々なんですけどねっ!
と、誰も褒めてくれないので自画自賛。
さて、ここからはセレスの記憶にも、地図としての記録にもない未踏領域である。
どの道が正解かなんて誰にもわからないので、取り敢えず手あり次第、ダンジョンのマップをすべて埋める勢いで兎にも角にも歩き回るだけだ。
とはいえ、ゲームで散々ダンジョンを歩き回って来た俺だが、モノホンの遺跡の調査など生まれて初めてである。
なので、トーシローが勘で歩くより、そこは専門家の勘に頼った方がいいだろうと、道はセレスに決めてもらうことにした。
『まぁ、そういうことなら任されたわ!』
と、本人もなかなかにやる気のようである。
というわけで、ここからが本格的な調査の開始となったのだった。
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