49 / 165
Case.3 形代
思ひ出
しおりを挟む
幼い頃、人形作家である祖母にもらった小さな日本人形が、一人っ子だった私の唯一の友達だった。
今になって思い出すと、かなり不気味な人形だったと思う。妙に精巧な造りで、あれなら夜中に動いたとか、髪の毛が伸びたとか、怪談じみた噂が立ってもおかしくない。
しかしまだ何も知らない当時の私は、大好きなおばあちゃんからのプレゼントを大いに喜んだ。『瑠美』という名前までつけて大層可愛がった。どこに行くにも一緒で、本当の友達のように扱った。
後で聞いた話によると、祖母は業界ではかなり腕利きの作家だったようだ。「人形に魂を吹き込める」などと称賛されていたという。今でもマニアの間では、祖母が作った日本人形が高値で取引されているのだとかなんとか。
そんな祖母もじわじわと病に蝕まれ、私が中学に上がる頃に亡くなった。家族全員で看取ったのだが、今際の際、瑠美に関して妙なことを言った。
『麻実ちゃん、あのお人形さんはね、麻実ちゃんの形代なのさ。何かあったらおばあちゃんの代わりにね、必ず麻実ちゃんを守ってくれる凄いお人形さんなんだよ。だから、大事になさい』
カタシロとか意味は解らなかったけれど、大好きなおばあちゃんの最期の言いつけだったから忠実に守った。そのおかげか、これまで大病を患ったことも、大きな事件や事故に巻き込まれたこともなく、平穏無事に過ごしてきた。きっと、おばあちゃんと瑠美が私を守ってくれたのだ。
それから十年の月日が経ち大人になった今。瑠美は表に出すことすらなくなったけれど、時折箱から出して手入れしながら押入れに仕舞っている。
今になって思い出すと、かなり不気味な人形だったと思う。妙に精巧な造りで、あれなら夜中に動いたとか、髪の毛が伸びたとか、怪談じみた噂が立ってもおかしくない。
しかしまだ何も知らない当時の私は、大好きなおばあちゃんからのプレゼントを大いに喜んだ。『瑠美』という名前までつけて大層可愛がった。どこに行くにも一緒で、本当の友達のように扱った。
後で聞いた話によると、祖母は業界ではかなり腕利きの作家だったようだ。「人形に魂を吹き込める」などと称賛されていたという。今でもマニアの間では、祖母が作った日本人形が高値で取引されているのだとかなんとか。
そんな祖母もじわじわと病に蝕まれ、私が中学に上がる頃に亡くなった。家族全員で看取ったのだが、今際の際、瑠美に関して妙なことを言った。
『麻実ちゃん、あのお人形さんはね、麻実ちゃんの形代なのさ。何かあったらおばあちゃんの代わりにね、必ず麻実ちゃんを守ってくれる凄いお人形さんなんだよ。だから、大事になさい』
カタシロとか意味は解らなかったけれど、大好きなおばあちゃんの最期の言いつけだったから忠実に守った。そのおかげか、これまで大病を患ったことも、大きな事件や事故に巻き込まれたこともなく、平穏無事に過ごしてきた。きっと、おばあちゃんと瑠美が私を守ってくれたのだ。
それから十年の月日が経ち大人になった今。瑠美は表に出すことすらなくなったけれど、時折箱から出して手入れしながら押入れに仕舞っている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜
猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。
その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。
まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。
そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。
「陛下キョンシーを捕まえたいです」
「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」
幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。
だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。
皇帝夫婦×中華ミステリーです!
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる