陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき

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Case.4 切り裂きジャック

蠢影

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 最近、妙な視線を感じる。それは仕事をしている間、仇を探している間、累のご飯を調達している間。ずっと私を見ているようだった。監視されているようで、不快極まりない。
 もしや、“ヤツ”も私と累がいることに気がついて泳がせているのだろうか? 気が散って捜索が思うように捗らず、日に日に焦りが募っていった。
「いったい何だっていうんだ……」
 職場で一人、頭を抱えたその時。
「失礼します」
 控えめな声とともに、保健室の戸が開いた。入ってきたのは、ジャージ姿の女生徒二人。ちらりと時計を見る。今の時間帯は授業中のはずだから、体育の最中怪我をしたか、体調不良に見舞われたかどちらかだろう。支えらながらどうにか立っている片方の顔色はパッと見ても優れず、また目立った外傷も見当たらないことから、体調不良だと目星をつけた。
「すみません先生。彼女、少し具合悪いみたいで……」
 大人しそうなお下げ髪の女生徒が言った。クラス委員だろうか、真面目そうな女の子だ。
「いいよ、横になってな」
「ありがとうございます」
 派手ではなく、かと言って地味でもなく。ごく普通の女生徒は、消えそうな細い声で言う。お下げ髪の女生徒は、連れがベッドに横たわるまで介抱してやると、一礼して授業に戻っていった。
 私は体調不良に見舞われた女生徒が臥せったベッドの脇にキャスター付きの椅子を引き寄せると、そこに腰掛けた。
「さてと。どうした?」
 問診すると、女生徒の視線は俯き、あちこちに彷徨った。
「あの……先生。実は相談したいことがあって」
 意を決して口を開いたが、すぐにもじもじと言い淀んでしまう。続きを促すように、おうむ返しに訊ねる。
「相談したいこと?」
「私……その、妊娠してるんです」
 突然の告白に、私の心臓はドキリと高鳴った。
「――本当?」
 小さく頷いた彼女は、ポツポツと話し始めた。
「大学生の彼氏がいて、その……そういう行為もしていたんですけど、一度避妊を忘れたことがあって……でも、私も彼もまだ学生だし、親が厳しくて、とても言えなくて」
 そこまで言うと、わっ、と彼女は泣き出してしまった。ジャージの袖のラインの色から推察するに、二年生だろう。ということは、まだ16,7歳。保護者の同意さえあれば法律上は結婚できる年齢ではあるが、厳しい親ならば同意を得るのは難しいだろう。まして、未成年で妊娠となると、世間の目は冷たい。逆風に晒されることになる。デリケートな問題だ、あまり大事にはできない。
「あなた自身はどうしたい?」
「可哀想だし身勝手なのは承知だけど、堕すしかない……と思います」
 後ろめたさもあるのだろう。視線を俯けたまま、ボソボソと言う。私はそんな彼女を励ますように、華奢な両手を掌で包み込んだ。
「それなら先生に任せて。これは私とあなただけの秘密ね。お医者さんの知り合いがいるから、こっそり通える病院がないか当たってみるよ。先生も口添えして、なるべくあなたの心と身体が傷つかないようにするから」
「ありがとうございます……」
 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、彼女は手を握り返してくれた。
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