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Case.5 橋姫
現場百遍とんぼ返り・2
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そうこうしている内に、現場に辿り着く。オートロックのマンションだが、合鍵があるので問題ない。共有のエントランスを抜けてエレベーターに乗り込み、瑠璃が借りてる四階の角部屋へ。
扉を前に、オレは大きく深呼吸した。ピンポーン……念のため、呼び鈴を鳴らす。待っても返事がないことは解っているので、いつもの癖で合鍵を取り出して鍵穴に挿し込む。鍵を捻ると、ガチャリと鍵が開いた。
「あれ?」
もしかして、閉まってたのか? 恐る恐るドアノブに手を掛けると、重たい鉄の扉がギィと開いたではないか。違和感が頭をもたげる。オレは現場をそのままに――そう、鍵も掛けずに飛び出してきたはずだ。だったら、どうしてオレが開けるまで鍵が閉まっていたんだ?
「何?」
カゲリの怪訝な視線が突き刺さる。オレ自身も状況が掴めず、しどろもどろになりながら感じた違和感を説明した。
「いや……オレ、瑠璃の部屋から鍵掛けないで飛び出した記憶があるんスけど、なんか鍵掛かってて……ヘンだなって」
『ふむ、確かに妙だね。志津川クンが鍵を掛けずに現場を飛び出したなら、内側、あるいは外から誰が何のために鍵を掛けたんだろうね? まるで密室じゃないか。キミが動転して鍵を掛けたことを忘れていた場合を除いて、だけれど』
霧雨篠はやはりオレを小馬鹿にしている。オレとドS女との相性はとことん最悪なのだと思い知らされた。
「お邪魔しまーす……」
細く開いた鉄扉の隙間から、暗い室内をそうっと覗き込む。電気は点いておらず、人の気配らしきものは感じられない。
部屋に上がるのを躊躇っていると、カゲリが遠慮なく入って行く。オレは慌ててその後を追った。
現場は玄関から続く短い廊下の先にある、六畳間のリビングだ。一週間前、互いの不貞行為を責め合った末、瑠璃を突き飛ばして殺害してしまった現場。
意を決してリビングを覗き込んだ。そこはカーテンが閉まったままになっており、闇に包まれている。壁に設置されている照明のスイッチをなんとか探し当て、それを押した。
「うおっ」
パッ、とにわかに明るくなる室内。暗闇に慣れていた目に人工の灯りは眩しく突き刺さり、思わず腕で顔を覆う。網膜に焼きついた光が徐々に薄れていき、明るさに慣れてきたところで薄らと目を開く。そして、目の前に広がる光景に愕然とした。
「いない――?」
揉み合った痕跡こそ残っているが、床に伏した瑠璃の姿は忽然と消えていたのだ。
『いないだって? 彼女は本当に死んでいたのかい? 気絶していただけじゃなくて?』
「だったら連絡くらいするだろ……」
瑠璃はオレがやらかすと、こっちが根負けして電話に出るまでしつこくコールを鳴らしてくる女だ。生きていたなら鬼のように電話を鳴らしてメッセージを送って寄越すだろう。だが、引きこもっていた一週間、瑠璃からの連絡は一度もなかった。
心臓がドクドクと早鐘を打ち、言い表しようのない不安に襲われる。嫌な予感がじわじわと這い上がる背筋が薄ら寒い。自然と呼吸が浅くなる。
これはいったい、どういうことなんだ――?
扉を前に、オレは大きく深呼吸した。ピンポーン……念のため、呼び鈴を鳴らす。待っても返事がないことは解っているので、いつもの癖で合鍵を取り出して鍵穴に挿し込む。鍵を捻ると、ガチャリと鍵が開いた。
「あれ?」
もしかして、閉まってたのか? 恐る恐るドアノブに手を掛けると、重たい鉄の扉がギィと開いたではないか。違和感が頭をもたげる。オレは現場をそのままに――そう、鍵も掛けずに飛び出してきたはずだ。だったら、どうしてオレが開けるまで鍵が閉まっていたんだ?
「何?」
カゲリの怪訝な視線が突き刺さる。オレ自身も状況が掴めず、しどろもどろになりながら感じた違和感を説明した。
「いや……オレ、瑠璃の部屋から鍵掛けないで飛び出した記憶があるんスけど、なんか鍵掛かってて……ヘンだなって」
『ふむ、確かに妙だね。志津川クンが鍵を掛けずに現場を飛び出したなら、内側、あるいは外から誰が何のために鍵を掛けたんだろうね? まるで密室じゃないか。キミが動転して鍵を掛けたことを忘れていた場合を除いて、だけれど』
霧雨篠はやはりオレを小馬鹿にしている。オレとドS女との相性はとことん最悪なのだと思い知らされた。
「お邪魔しまーす……」
細く開いた鉄扉の隙間から、暗い室内をそうっと覗き込む。電気は点いておらず、人の気配らしきものは感じられない。
部屋に上がるのを躊躇っていると、カゲリが遠慮なく入って行く。オレは慌ててその後を追った。
現場は玄関から続く短い廊下の先にある、六畳間のリビングだ。一週間前、互いの不貞行為を責め合った末、瑠璃を突き飛ばして殺害してしまった現場。
意を決してリビングを覗き込んだ。そこはカーテンが閉まったままになっており、闇に包まれている。壁に設置されている照明のスイッチをなんとか探し当て、それを押した。
「うおっ」
パッ、とにわかに明るくなる室内。暗闇に慣れていた目に人工の灯りは眩しく突き刺さり、思わず腕で顔を覆う。網膜に焼きついた光が徐々に薄れていき、明るさに慣れてきたところで薄らと目を開く。そして、目の前に広がる光景に愕然とした。
「いない――?」
揉み合った痕跡こそ残っているが、床に伏した瑠璃の姿は忽然と消えていたのだ。
『いないだって? 彼女は本当に死んでいたのかい? 気絶していただけじゃなくて?』
「だったら連絡くらいするだろ……」
瑠璃はオレがやらかすと、こっちが根負けして電話に出るまでしつこくコールを鳴らしてくる女だ。生きていたなら鬼のように電話を鳴らしてメッセージを送って寄越すだろう。だが、引きこもっていた一週間、瑠璃からの連絡は一度もなかった。
心臓がドクドクと早鐘を打ち、言い表しようのない不安に襲われる。嫌な予感がじわじわと這い上がる背筋が薄ら寒い。自然と呼吸が浅くなる。
これはいったい、どういうことなんだ――?
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