陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき

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Case.6 嘘吐き村

レッツトレッキング!

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 僕は額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。目的地の濱久里はまくり村まであと少しの道程だ。ふぅ、と息を吐いて呼吸を整える。
「ほらほら、息上がってんぞ~。もっと踏ん張れよ、ジミコシバクン!」
 山道に伸びた影からは、調子のいい声援――もとい嘲笑が聞こえる。カゲリめ、自分は歩かないからって……!
 何故、僕が汗をかきながら山登りをしているのか。話は数日前まで遡る。
 事の発端となったのは、数日前の高校の同窓会。久々に再会した級友達と酒を酌み交わしながら、近況報告に花を咲かせていた。
 僕こと御子柴ミコシバサトルは警察学校を卒業し、現在は警察官として日々働いている。すると物珍しさから同級生達の注目を一身に浴びてしまった。まさかデジタル化が進んだ昨今、霊的アプローチから事件を捜査する部署に所属しているなど口が裂けても言えない。
 今までどんな事件を解決してきたのか、どんな凶悪犯と対峙してきたかなど、刑事ドラマに夢を見ている級友達の質問攻めを曖昧にやり過ごしている中。
「なあ、御子柴。刑事なら不審死の捜査はしてくれるよな?」
 僕に問い掛けた男は、グラスを片手にやけに思い詰めた表情をしていた。彼は確か……二年の時に同じクラスだった、沢村サワムラ辰巳タツミだ。僕は頷いた。
「事件性があれば、だけれど」
「じゃあ、俺の彼女がどうして死んだのか調べてくれないか。あんな死に方、絶対に事故なんかじゃないんだ……!」
 テーブルを叩いて嘆いた彼は、かなり酔っていた。
 沢村は現在、大学院で民俗学の研究をしているそうだ。そこで出会った同じ民俗学の徒、蓬莱ホウライたまきと恋人となるが、彼女は帰省先で謎の死を遂げた。獣に喰い荒らされたとしか形容できないほど酷い有り様だったと言う。想像しただけで胃の辺りから酸っぱいものが込み上げてくる。
「もしかして、熊とかに……」
 人間を無惨に喰い殺す獣といえば、真っ先に思い浮かぶのは熊だろう。三毛別の事件は生々しく記録に残っている。
「いや、違う。彼女の故郷では、これまで一度も獣害はなかったんだよ」
 力説する沢村には悪いけれど、今まで被害が出ていなかっただけで、運悪く彼女さんが第一号になってしまった可能性だってある。
 沢村はもう一度「違う」と力強く首を横に振り、断言した。
「だって、彼女の村は。熊が入り込むなんて、絶対にあり得るものか」
「え――?」
 どういうことだ……?
 しかし、その場でそれ以上詳しく聞くことは叶わなかった。沢村が酔い潰れてしまったためだ。タイミング悪く同窓会もお開きとなり、頭に浮かんだ疑問は宙ぶらりんのまま帰路につく他なかった。
 後日改めて――潰れる前に連絡先を交換していた――沢村とコンタクトを取ろうとしたが、連絡がつかなかった。彼も研究で忙しいのだろうか。
 しかし、酔っていたとしても相談したことを忘れるだろうか? あれだけ深刻に悩んでいたのだ、どうにも釈然としない。そこで僕が頼みの綱としたのは、直属の上司だった。
「濱久里村? いや、聞いたことがないな」
 我らが〈特殊怪奇捜査班〉班長・霧雨キリサメシノは首を傾げた。彼女ならば不可解な変死事件、かつ神に守られた村の噂は知っているかと期待したが、霧雨篠の地獄耳にも届いていないとは。
「謎の神に守られたはずの村で見つかった、人の仕業とは到底思えない惨殺体か……安価なミステリらしくていいじゃないか」
 クツクツと喉を鳴らす霧雨篠。やはりこの人、人の不幸を娯楽と間違えていやしないか?
「有給扱いにしてあげるから、気が済むまで確かめておいで。お土産は報告書でよろしく」
 幸いにも霧雨篠は気前よく僕を送り出してくれた。いや……彼女のことだ。山奥まで出掛ける手間を惜しんで、下っ端の僕に現地調査を押しつけたに違いない。そりゃあ確かに、沢村から捜査を頼まれたのは僕だけれども。
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