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Case.6 嘘吐き村
濱久里村・2
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「何にせよ、あのオッサンが何かを隠そうとしてるんなら、これ以上の収穫は望めないだろうな。どうせジミコシバクンは尋問も拷問もできないだろ?」
僕は閉口した。自慢ではないが、僕は取り調べが苦手だ。霧雨篠であれば有無を言わさぬ圧力をかけて聞き出すだろうが、僕にそんな芸当はできない。慣れないトレッキングをした僕の労力は、ただの徒労に終わるのか。
「そんな落ち込むなよ、せっかくなら観光でもすりゃいいじゃん。かぎろひ様とかいったっけ? ここの祭神を祀ってる社でも見学してこうぜ。あ、でもオレ本体じゃないんだった。っつーワケでオレの代わりに頼むわ、ジミコシバクン」
猫撫で声が白々しいことこの上ない。いつから僕はコイツのアッシーくんになったんだ? なんて文句を言ったところで、恐らく僕より若いであろうカゲリに死語は通じないだろう。思わぬ精神的ダメージを防ぐため、僕は黙するしかなかった。するとそこへ、
「御子柴様、お時間よろしいですか?」
部屋の外から不知火の声が呼びかけてきた。僕の心臓が跳ね上がる。まさか、カゲリとの会話を聞かれてはいないだろうか。独り言が大きい変な奴と思われてはいないだろうか。僕が抱く危惧など露知らず、不知火は扉越しに話を続ける。
「実は、先日から御子柴様のお知り合いが村を訪ねてまして。あなた様の来訪を聞きつけ、どうしてもお会いしたいと」
村を訪ねていた僕の知り合い? もしかして、それは……
「よぉ、御子柴! 元気そうだな、山登りは平気だったか?」
「沢村!」
戸の向こうから現れたのは、過日の思い詰めた様子とは正反対の、快活に笑う同級生だった。何てことはない、不知火は沢村から僕の来訪を聞いていたんだ。僕は安堵で胸を撫で下ろす。
「メールくらいすぐ返してくれよ、返事がなかなか来なくて心配したんだぞ」
「悪い悪い、ここって電波悪いからさ」
どうやら同窓会の後、彼はすぐに村に向かっていたらしい。基地局も遠い田舎の電波では地図を添付するのが精一杯だったのだろう。ポケットに突っ込んだ自分のスマートフォンを確認すると、やはり圏外となっていた。霧雨篠への報告は遅くなりそうだ。
「そうだ御子柴、かぎろひ様の御神体を見に行かないか? そこまで案内してやるよ。ここに来たってことは、それが目的だもんな」
「え?」
気前よく誘う沢村の口振りに、またしても違和感を覚えた。まさか、僕に捜査を頼んだことを忘れている? 酷く酔っていたとはいえ、そもそも僕を村に招いたのは沢村ではないか。それとも、不知火という第三者が近くにいることを考慮してあえて話題を振らなかったのか……。
「ありがとう、早速案内してくれ」
しかし口から零れたのは、全く意図していない台詞。もうすっかり慣れてしまったが、カゲリだ。アイツ、また勝手なことを……!
「おう。結構歩くけど、我慢しろよ」
「大丈夫だよ、警官だから山登りは慣れてるさ」
そんなこと言って、歩くのは僕なんだが!? 抗議も声に出せず、虚しさだけが募った。
僕は閉口した。自慢ではないが、僕は取り調べが苦手だ。霧雨篠であれば有無を言わさぬ圧力をかけて聞き出すだろうが、僕にそんな芸当はできない。慣れないトレッキングをした僕の労力は、ただの徒労に終わるのか。
「そんな落ち込むなよ、せっかくなら観光でもすりゃいいじゃん。かぎろひ様とかいったっけ? ここの祭神を祀ってる社でも見学してこうぜ。あ、でもオレ本体じゃないんだった。っつーワケでオレの代わりに頼むわ、ジミコシバクン」
猫撫で声が白々しいことこの上ない。いつから僕はコイツのアッシーくんになったんだ? なんて文句を言ったところで、恐らく僕より若いであろうカゲリに死語は通じないだろう。思わぬ精神的ダメージを防ぐため、僕は黙するしかなかった。するとそこへ、
「御子柴様、お時間よろしいですか?」
部屋の外から不知火の声が呼びかけてきた。僕の心臓が跳ね上がる。まさか、カゲリとの会話を聞かれてはいないだろうか。独り言が大きい変な奴と思われてはいないだろうか。僕が抱く危惧など露知らず、不知火は扉越しに話を続ける。
「実は、先日から御子柴様のお知り合いが村を訪ねてまして。あなた様の来訪を聞きつけ、どうしてもお会いしたいと」
村を訪ねていた僕の知り合い? もしかして、それは……
「よぉ、御子柴! 元気そうだな、山登りは平気だったか?」
「沢村!」
戸の向こうから現れたのは、過日の思い詰めた様子とは正反対の、快活に笑う同級生だった。何てことはない、不知火は沢村から僕の来訪を聞いていたんだ。僕は安堵で胸を撫で下ろす。
「メールくらいすぐ返してくれよ、返事がなかなか来なくて心配したんだぞ」
「悪い悪い、ここって電波悪いからさ」
どうやら同窓会の後、彼はすぐに村に向かっていたらしい。基地局も遠い田舎の電波では地図を添付するのが精一杯だったのだろう。ポケットに突っ込んだ自分のスマートフォンを確認すると、やはり圏外となっていた。霧雨篠への報告は遅くなりそうだ。
「そうだ御子柴、かぎろひ様の御神体を見に行かないか? そこまで案内してやるよ。ここに来たってことは、それが目的だもんな」
「え?」
気前よく誘う沢村の口振りに、またしても違和感を覚えた。まさか、僕に捜査を頼んだことを忘れている? 酷く酔っていたとはいえ、そもそも僕を村に招いたのは沢村ではないか。それとも、不知火という第三者が近くにいることを考慮してあえて話題を振らなかったのか……。
「ありがとう、早速案内してくれ」
しかし口から零れたのは、全く意図していない台詞。もうすっかり慣れてしまったが、カゲリだ。アイツ、また勝手なことを……!
「おう。結構歩くけど、我慢しろよ」
「大丈夫だよ、警官だから山登りは慣れてるさ」
そんなこと言って、歩くのは僕なんだが!? 抗議も声に出せず、虚しさだけが募った。
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