陰法師 －捻くれ陰陽師の事件帖－

Case.7 神隠し

デート作戦再び・２

　フェアリーランドは写真映えスポットだけでなく、本格的なアトラクションも売りにしている。幾つかのアトラクションを二人で見て回った。お化け屋敷にジェットコースターといった絶叫系に御門くんが動じた様子はない。とはいえ、わたしも散々本物を見てきているので、今更作り物で怖がることはない。ジェットコースターで感じるスリルも、命に関わるものではないので安心して楽しめた。つくづく“普通”とは程遠いんだな、と苦笑いしてしまう。
　しかし、あちこち回ったにも関わらず、妙な気配はどこからも感じられない。次はどの辺りを探ろうか、マップを見ながら作戦を立てることにした。小休止も兼ねてベンチに腰を下ろす。
「わたしは今のところ何も感じないんだけど、御門くんはどう？」
「俺も特には。カゲリも反応しないし、篠が適当言ってたのかも……」
　辺りを見渡していた、御門くんの顔が強張った。視線の先を辿ると、そこには並んで歩く二つの人影があった。
　中学生くらいのカップルだろうか。ポニーテールの活発な女の子と、幼さが残った顔立ちの男の子。仏頂面の男の子が笑顔の女の子に振り回されているように見える。ひと目見ただけで二人の力関係は歴然だ。微笑ましい二人組なんだけれど、男の子の顔に見覚えがある。誰かと似ているんだ。でも、誰だろう？　内心首を傾げていると。
「アイツ、何でここに……」
　呟き、御門くんは立ち上がる。パーカーのフードを深く被りながら、早口で告げる。
「ごめん木下さん、急用できたからここで待ってて。すぐ戻る」
「ちょっと、御門くん！」
　引き止める間もなく、御門くんの気配が隣から掻き消えた。周囲を見回すも、それらしい人影は見当たらない。一瞬で姿を見失ってしまい、わたしは一人、ベンチに取り残される。どうしようかと手持ち無沙汰のまま考えていると、背筋を刃物で撫でられたようなひやりとした悪寒に襲われた。先ほどまでは感じなかったが、今は何かが、いる。
「きみ、一人かい？」
　フランクな声に振り向くと、ここのマスコットキャラクターであるフェアりん……の着ぐるみがいた。羽根の生えたうさぎのような見た目をしている。詳しく知らないけどこのキャラクター、喋るんだ。
「一人……っていうか、連れがどこか行っちゃって」
　いや、違う。このキャラクターが喋る設定なんかじゃない。これは着ぐるみじゃない。禍々しい負のオーラを纏った陰法師だ！
「せっかくぼくらの国にいるのに一人じゃ寂しいでしょ？　ぼくについてきてよ。楽しい場所に案内してあげる！」
　有無を言わさずにフェアりんはわたしの腕を握った。どこに力があるのか、ぴくりとも振りほどけない。しまった、これでは十握剣おまもりを取り出せない――！
　刹那、周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。