151 / 165
Case.9 笛吹き男
狙われる理由
しおりを挟む
僕は行方不明になった児童が通っている小学校に赴いていた。
先生方には事前に話を通した上で、同級生から被害児童に関する話を聞き出す。勿論、子供達に不審者と間違われないように警察手帳はしっかり提示して。
「すげー! 本物だ!」
まるで見せ物になったような好奇の視線に晒されながら、僕は子供達と目線を合わせて本題を切り出した。
「行方不明になった子を探してるんだ。君達はその子のこと知ってるかな」
「知ってるよー!」
溌剌と答える子供達。有り余る元気が羨ましい。
「あのね、あいつウソつきなんだ」
「ウソつき?」
おうむ返しに問う僕に、子供達は頷いて口々に答える。
「あいつ、お化けが見えるってウソ言うんだ」
「お化けなんていないのになー!」
「ああいうの、かまってちゃんって言うらしいよ!」
子供達はこの場にいない子を大声で嘲笑する。この様子だと、被害児童はあまり学校に馴染めていなかったようだ。
僕はその足で他の被害児童が在籍する学校も回ったが、得られた証言は全て同じ。
「行方不明になった子供達は皆霊感持ちだった、か」
特怪のオフィスにて。報告を受けた霧雨篠はすらりと長い脚を組んだ。彼女の導き出した結論通り、聞き込み捜査で浮かび上がった共通項とは、霊感があることを自称しており、クラスで浮いていた点。
「犯人は霊感を持っている子を狙ったんでしょうか」
でも、何のために? 考えられるのは、被害児童は周りに馴染めずに一人でいることが多く、そこを犯人に狙われた可能性。しかし、笛の証言を信用すると、被害者は自発的にどこかへ行ってしまっている。直前まで友人と一緒におり、一人になるまで犯人が待ち伏せしていたとは考え難い。だからこそ本部は笛の証言を子供の戯言と見做したのだろう。
「御子柴クン。キミは幽霊を視たことはあるか?」
霧雨篠の唐突な問いに、僕は首を横に振った。特怪に配属されるまで幽霊の存在は信じていなかったし、あらゆる陰法師を目の当たりにした今でも幽霊は見たことがない。
「幽霊とはエネルギーの小さな陰法師のことだ。何かしらの未練を残した死者の念は、実体を持たない幽霊というカタチでこの世に留まる。吸血鬼事件の被害者、小山華などがそうだね。彼らは先に述べた通り、自己を形成するエネルギーが少ないがために通常殆どの人に視認されない」
死者の未練――霧雨篠が例に挙げた小山華であれば、母親に謝罪できなかった後悔。そして母の凶行を止められなかった無念。それは個人が抱く感情であり、他者に影響を及ぼすほどのものではない。
「キミが今までに出会した陰法師達は莫大な負のエネルギー、つまりは強力な陰気を持っていたからこそ、キミでも視認できるようになっていたんだ。けれど、稀に小さなエネルギーをもキャッチできる人々がいる。彼らは感度の高いアンテナのようなものだ。陰法師を祓うことを生業とする陰陽師は修行して視認できる力を身につけるようだがね。さて、ここで一つ問題だ。幽霊と呼ばれる、微弱な陰気の陰法師が視えてしまうとどうなると思う?」
「それは――」被害児童達は同級生から散々に笑われていた。「他人には視えないものだから、気味悪がられて仲間外れにされる?」
「それもあるがね。寄ってくるのさ。誰にも見向きもされない中、視えると判った途端に陰法師は人に寄りつく。恐怖でも何でもいい。彼らは人の感情エネルギーを糧に大きくなるからだ。視認する力、霊感を持つ人々を媒介に、陰法師は力を増していく」
と、なると――僕は頭の中で、霧雨篠の話を必死に反芻する。
「行方不明の子供達は陰法師を視認でき、かつ引き寄せやすい体質だった。ということは、彼らは陰法師に攫われたのでしょうか? 彼らが聞いたという笛の音も、陰法師が霊感のある子供を引き寄せるために流していた……?」
「そのはずだが……」
断定せずに考え込む霧雨篠は珍しく煮え切らない。続けて呟かれた台詞が僕の耳に届くことはなかった。
「やり口があまりにも酷似している。まさか、アレの仕業なのか……?」
先生方には事前に話を通した上で、同級生から被害児童に関する話を聞き出す。勿論、子供達に不審者と間違われないように警察手帳はしっかり提示して。
「すげー! 本物だ!」
まるで見せ物になったような好奇の視線に晒されながら、僕は子供達と目線を合わせて本題を切り出した。
「行方不明になった子を探してるんだ。君達はその子のこと知ってるかな」
「知ってるよー!」
溌剌と答える子供達。有り余る元気が羨ましい。
「あのね、あいつウソつきなんだ」
「ウソつき?」
おうむ返しに問う僕に、子供達は頷いて口々に答える。
「あいつ、お化けが見えるってウソ言うんだ」
「お化けなんていないのになー!」
「ああいうの、かまってちゃんって言うらしいよ!」
子供達はこの場にいない子を大声で嘲笑する。この様子だと、被害児童はあまり学校に馴染めていなかったようだ。
僕はその足で他の被害児童が在籍する学校も回ったが、得られた証言は全て同じ。
「行方不明になった子供達は皆霊感持ちだった、か」
特怪のオフィスにて。報告を受けた霧雨篠はすらりと長い脚を組んだ。彼女の導き出した結論通り、聞き込み捜査で浮かび上がった共通項とは、霊感があることを自称しており、クラスで浮いていた点。
「犯人は霊感を持っている子を狙ったんでしょうか」
でも、何のために? 考えられるのは、被害児童は周りに馴染めずに一人でいることが多く、そこを犯人に狙われた可能性。しかし、笛の証言を信用すると、被害者は自発的にどこかへ行ってしまっている。直前まで友人と一緒におり、一人になるまで犯人が待ち伏せしていたとは考え難い。だからこそ本部は笛の証言を子供の戯言と見做したのだろう。
「御子柴クン。キミは幽霊を視たことはあるか?」
霧雨篠の唐突な問いに、僕は首を横に振った。特怪に配属されるまで幽霊の存在は信じていなかったし、あらゆる陰法師を目の当たりにした今でも幽霊は見たことがない。
「幽霊とはエネルギーの小さな陰法師のことだ。何かしらの未練を残した死者の念は、実体を持たない幽霊というカタチでこの世に留まる。吸血鬼事件の被害者、小山華などがそうだね。彼らは先に述べた通り、自己を形成するエネルギーが少ないがために通常殆どの人に視認されない」
死者の未練――霧雨篠が例に挙げた小山華であれば、母親に謝罪できなかった後悔。そして母の凶行を止められなかった無念。それは個人が抱く感情であり、他者に影響を及ぼすほどのものではない。
「キミが今までに出会した陰法師達は莫大な負のエネルギー、つまりは強力な陰気を持っていたからこそ、キミでも視認できるようになっていたんだ。けれど、稀に小さなエネルギーをもキャッチできる人々がいる。彼らは感度の高いアンテナのようなものだ。陰法師を祓うことを生業とする陰陽師は修行して視認できる力を身につけるようだがね。さて、ここで一つ問題だ。幽霊と呼ばれる、微弱な陰気の陰法師が視えてしまうとどうなると思う?」
「それは――」被害児童達は同級生から散々に笑われていた。「他人には視えないものだから、気味悪がられて仲間外れにされる?」
「それもあるがね。寄ってくるのさ。誰にも見向きもされない中、視えると判った途端に陰法師は人に寄りつく。恐怖でも何でもいい。彼らは人の感情エネルギーを糧に大きくなるからだ。視認する力、霊感を持つ人々を媒介に、陰法師は力を増していく」
と、なると――僕は頭の中で、霧雨篠の話を必死に反芻する。
「行方不明の子供達は陰法師を視認でき、かつ引き寄せやすい体質だった。ということは、彼らは陰法師に攫われたのでしょうか? 彼らが聞いたという笛の音も、陰法師が霊感のある子供を引き寄せるために流していた……?」
「そのはずだが……」
断定せずに考え込む霧雨篠は珍しく煮え切らない。続けて呟かれた台詞が僕の耳に届くことはなかった。
「やり口があまりにも酷似している。まさか、アレの仕業なのか……?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜
猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。
その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。
まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。
そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。
「陛下キョンシーを捕まえたいです」
「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」
幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。
だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。
皇帝夫婦×中華ミステリーです!
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる