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Case.10 白面金毛
狗の話
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私は生まれた時から安倍に尽くしてきました。正確には、安倍の嫡男として生を受けた霖雨兄様のためだけに人生を捧げてきました。私は女で、分家の血筋ですから、逆らうことなどできなかった。
霖雨兄様との間に子供も作らされました。というより、私はそのために存在していたのでしょう。霖雨兄様の世継ぎを産むだけの道具。恋をすることも、好きな人と一緒になることも許されない。私は安倍の、霖雨兄様の奴隷でした。
それでも私はひたすらに霖雨兄様に尽くしました。それしか生き方を知らないから。私はきっと、ずっと前から壊れていたのです。
兄様との間に生まれた上の子は霞、下の子は雫と名づけられました。子供達は生まれてすぐに私から取り上げられ、兄様の後継として教育を施されたために、私は母親として彼らと対面することはできませんでした。けれど、腹を痛めて産んだ我が子達には罪はありません。たとえ母として子に接することはできずとも、私はあの子達の成長を影ながら見守ってきました。
でも、狂ってしまったのは私だけではなかった。兄様は落ち目となってしまった安倍の繁栄のために禁忌を犯しました。無関係の人々を攫った憑き物実験。自分自身が何かに憑かれたように、兄様は人道を外れていきました。私は、そんな兄様を見ていられなかった。救いたいと思った。
兄様を止めるため、私は狗神を造りました。表向きは兄様に従い、安倍の繁栄のために。けれどその実、安倍を、霖雨兄様を滅ぼすよう呪を込めて。体を地中に埋められ、目の前に餌があるにも関わらず身動きを取れずに怨みを募らせていく狗神は、どこか私と似ていました。私は狗神に情を寄せながら、その首を落としました。
けれど、嗚呼。運命は残酷でした。まさか、狗神が兄様ではなく、まだ幼い子供達に牙を剥くなんて! 私の呪のかけ方が悪かったのか。狗神は命令に忠実に、いずれ安倍を継ぐであろう子供達を狙ったのか。今となっては解りません。解るのは、狗神を造り出した責任者である私の末路だけ。
後継ぎを傷つけられた兄様は大層ご立腹です。私はすぐに始末されるでしょう。その前に命を断ちます。私自身を呪の道具として。安倍に呪いあれ。霖雨兄様に、子供達に救いあれ――
「――ごめんね、霧雨」
狗の最期に思いを馳せながら、狐は呟く。
「私とキミは似た者同士だった。だから私はキミの呼びかけに応じたのだろう」
子を愛する母として、通じるものがあった。だからこそ狐は、狗の身に宿りながら子供達に愛を注いだ。彼女が成せなかった分、母親としての愛を。かなり歪だったけれど、それは確かに母の情だった。
「私はキミの望みを叶えられない。放っておいても霖雨はいずれ滅びるだろうし、後のことは全て、あの子達に託す。安倍を生かすも滅ぼすも、あの子達次第だ。未来は子供達が切り拓くものだから」
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けれど、嗚呼。運命は残酷でした。まさか、狗神が兄様ではなく、まだ幼い子供達に牙を剥くなんて! 私の呪のかけ方が悪かったのか。狗神は命令に忠実に、いずれ安倍を継ぐであろう子供達を狙ったのか。今となっては解りません。解るのは、狗神を造り出した責任者である私の末路だけ。
後継ぎを傷つけられた兄様は大層ご立腹です。私はすぐに始末されるでしょう。その前に命を断ちます。私自身を呪の道具として。安倍に呪いあれ。霖雨兄様に、子供達に救いあれ――
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「私はキミの望みを叶えられない。放っておいても霖雨はいずれ滅びるだろうし、後のことは全て、あの子達に託す。安倍を生かすも滅ぼすも、あの子達次第だ。未来は子供達が切り拓くものだから」
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