陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき

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Case.10 白面金毛

雨後・2

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 行方不明になっていた子供達が戻ってきた。彼らは神隠しの被害者同様に、姿を眩ませていた間の記憶を失っていた。
 彼らを攫ったのはいったい誰だったのか。行方不明の間、彼らに何があったのか。上司と議論を交わそうにも、今度は霧雨篠が僕の前から姿を消した。何も言わぬまま、ぱたりとオフィスに出勤してこなくなったのだ。
 霧雨篠が姿を眩ませた同時期に、特怪の後ろ盾である安倍霖雨長官が長官職を突如辞任。パトロンを失った特怪も解体される運びとなり、所属部署がなくなって宙に浮いた僕に古巣の御崎署への辞令が出された。御崎署でも少し前に欠員が出たため、僕が穴を埋める形となった。
「お偉いさん方のアレコレがボクらに影響することはない思うてたけど、まさかモロに食らうとはなぁ。大変やなー御子柴ちゃんも」
 通り魔事件で負った怪我から復職した神崎先輩は、どこか憑き物が落ちたように見える。胡散臭い関西弁は相変わらずだったが。
 陰法師が関わる関わらないに限らず、大小様々な事件は毎日のように起こる。職務を全うし忙しなく過ごしていると、特怪で過ごした日々は薄いヴェールに覆われた夢の中の出来事だったのでは、と思えてくる。それほど現実味がなかった。
 そうして数年が経ったある日。僕に本庁への辞令が下された。
「やー、栄転やないの! おめでとさん」
 神崎先輩はケラケラと笑う。どこか既視感デジャヴを覚えながら辞令通りに本庁に赴くと、ロビーに佇む人影が僕を待ち構えていた。
「アンタが御子柴って人?」
 白のパーカーのフードを目深に被った、歳若い男。ともすると、まだ十代の少年かもしれない。かつて特怪で捜査を共にした影のような男が脳裏を過ぎるが、彼ほど陰鬱な気配は感じられない。
「そうですが、あの、あなたは?」
「おれのことはいい。ついてきて」
 有無を言わさずに先導されて辿り着いたのは、数年前まで通い慣れた倉庫。僕の心臓が早鐘を打つ。まさか。
「連れて来たよ」
 パーカーの少年が戸を開けた先で出迎えたのはかつての上司の霧雨篠ではなく、黒髪の見知らぬ男性。僕を一目見るなり、男はフランクに声をかけてきた。
「よお、ジミコシバクン」
「か、カゲリ……!?」
 僕は目を白黒させた。人を小馬鹿にした口調は記憶にあるカゲリその人だ。
「カゲリか、随分と懐かしい名前だな。けどもう使っちゃいない。俺は霞。。新しく特怪の班長になった」
「特怪って、何年も前になくなったんじゃ……」
「俺達で復活させたんだよ。特怪を再建させるの大変だったんだぜ。わざわざ警察官にまでなってさ」
「人が負の感情を抱く以上、陰法師が原因の犯罪は後を絶たない。警察側からも取り締まる組織がほしい。だから特怪は必要なんだ」
 パーカーの少年が続ける。阿吽の呼吸とも呼べるほど息の合った二人は、いったいどういう関係なんだろうか。
「おれは雫。特怪に協力する陰陽師。これからよろしくね、御子柴さん」
 雫と名乗った少年は手を差し出してくる。かつてのカゲリよりもよっぽどフレンドリーだ。僕も同じように手を出し、握った。横からカゲリ――否、霞が口を挟む。
「ちなみに俺、キャリア組だから。ジミコシバクンより役職上な」
「えっ」
 その時、ノックの音が響いた。どうぞ、と促すと扉が開いて一人の女性が飛び込む勢いで入室した。
「すみません、遅くなりました! 今日から特殊怪奇捜査班に配属された、木下コノシタユウです……って、御門くん!?」
 大きな瞳を見開いて驚愕する木下憂に、霞は僅かに相好を崩した笑みを見せた。
「よ、久しぶり。木下さん」
 どうやら、新たな特怪での日々も賑やかになりそうだ。
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