ミスティツインズ 神秘の国の対の魔法使い

レエ

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少年期2 - 万能の双子 -

大会の後

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「うう……」
 中等部三年生の廊下をクリフは歩いていた。
 彼の蜂蜜色の髪には、それより少し明るい色の猫耳がのっている。
 罰ゲームの猫耳だ。

「クリフくん、かわいいー」
「あは、は……」
 人気者のクリフに、生徒達は好意的に話しかける。
 しかし、
「お祭りならともかく、普通の日に一人だけって恥ずかしい……」
 クリフはこそこそと廊下の隅を歩いた。

「こーら、堂々と歩け」
「わっ」
 廊下の窓の外。
 この罰ゲームを決めた十賢ガッドが、外壁に足を掛けて覗きこんでいる。
 神出鬼没な人だ。





「アリエル様ー、クリフ見にいこ!」
「ふふ、いこ」

 アッシュの希望に付き合って、二人は手を繋いで三年生の廊下を歩く。
「いた」
 クリフを見つけた。
 なぜかガッドもいて、話をしているようだ。

「マスターガッド。クナイが見当たらないんですけど」
「ちゃんとあいつも登校しているし、猫耳も着けているぞ」
「そう、なんですか」
 もう昼休みだが、クリフのクラスメイト達から目撃情報を得られないでいる。
「ただあいつは気配を消すのが上手い。着けているかは、私が責任を持って情報部に見張らせているから安心しろ」
「情報部にしか見つけられないって、実質、罰ゲーム俺だけでは」
 クナイは本気で隠れているようだ。

「クナイ先輩、ちゃんと罰ゲーム受けてるよ。フーシーも見掛けたって言ってたから」
 アッシュが声を掛けた。
 クリフがこちらに気づく。
「フーシーも特化型じゃん……」
 しょげるクリフ。どういう仕掛けか、猫耳も垂れる。

 アッシュは目を弧にして笑った。
「敗者の姿を見るのは気分がいいなあ」
 悪い顔だ。可愛い。

「僕達は豪華温泉旅行だもんねっ、アリエル様」
 アリエルに振り向くアッシュ。
 楽しみでほくほくしたピュアな笑顔。とっても可愛い。

(でもクラッセン商会のクリフ先輩にとって、豪華なものってあるのかなあ)
 アリエルはそう思いつつ、
「うん。楽しみだね」
 と笑顔で答えた。

「じゃあ旅行までに、ふわふわのクマ耳帽子作るね。冬の旅行だから温かくしなきゃ」
「うん。アッシュはお裁縫も得意だよね。楽しみ」
「結局二人もクマ耳、着けるの!?」

 その日、大会優勝者のクリフの猫耳姿を、学校中の生徒が楽しんだ。





 魔法学園中央棟、議場。
 厳かなその場所に居並ぶのは、マスターの称号を持つ魔法使い達。
 立て掛けられた鏡を通して、遠隔で参加している者もいる。

「では今後アリエル・ハロウへの協力依頼は、学園局録司室が取り次ぐ」
 白髭の議長が告げる。
 フォーマルな服装の若い男が前に出る。
「私、エドが取りまとめいたします。一両日中に公報を出させていただきますので、ご依頼はそれ以後に」
「それでは皆様、良き学びを。解散」



 定例のマスター会議が終了し、ダリアは学長室へ移動した。
 室内には秘書がいる。
 そして護衛役もスッと部屋に入った。感知魔法のできるダリアにだけ分かる程度の気配を発している。

 しばらくして、録司室のエドが訪ねてきた。
「呼び出して悪かったわね」
「いえ、私もお時間をいただきたかったので。あの場で明かせないこともありましょう」

 学園局録司室は、魔法研究を利用するためのマネジメントをしている。
 アリエルの知識は、いままでの魔法体系を揺るがすものだ。学園としては録司室を通して、アリエルの動向を常に把握するつもりだ。

「ようやく万能適性について知れます」
 エドの言葉にダリアは頷く。
(エドはこれといった派閥に所属していない中立派。穏便に、かつ適切に間を取り持ってくれるでしょう)
 今日のマスター会議でも、エドが担当者になることに反論はなかった。
「【魔素】。一体あの子の目には何が見えているのかしら」


「はい。……それにしても、マスターゴーリーは随分とあっさり、アリエルを手放しましたね」
「そうね。代わりに、この前の国議会で希望を通していたけど」
「地方の防護結界の大改修や、河川や道路整備ですね」

 議会の賛成票を、別件との取引に使うのは褒められたものではない。
 しかし完全に防止するのは難しい。
 この件でゴーリーは、
「大改修が始まれば、アリエルに関わっている時間がなくなるかもしれません」
 と発言し、取引を匂わせただけ。
 他のマスター達がそれに勝手になびいただけだ。

「結界や河川。国の役に立つものなのは間違いないのですが。なぜ急に……」
「次の布石として、評判を上げているのではないかしら。ゴーリーはそういうところがあるもの」
「それにしては評価が分かれる内容でした。かつてないほどの大予算で、執政官が苦い顔をしていた」

 リリアンク国の政治を実行するのは、執政官を頂点とした内務局や他の執政機関だ。
 しかしマスター達が団結したならば、執政機関に決定権はない。最高議会は、過半数がマスターで構成されているためだ。執政機関は議会の決定に従い、あくまで手足として動くしかない。
 魔法使いの国――それがリリアンクだ。


「ゴーリーのことは別の者に任せましょう。エド。あなたにはアリエルに集中してもらいます」
「はい」
「まずは【魔素】の全貌を把握しなくては。それと……」
「あの魔石の活性化状態を保つ技術ですね」
「ええ」

 エドが重く口を開く。
「――アリエルが【魔素迷路】と呼んだ技術は、【方占魔法】と同じものなのでしょうか」
「……分かりません。それについてはあなたに研究チームを預けます」
 ダリアは学長室の壁に顔を向ける。
「ダンテ」
 ダリアが呼ぶと、フッと人が現れた。ダリアの護衛の男だ。
「指示は彼に」
 エドが黙礼すると、ダンテも小さく応えた。

「ミスティア王国の【方占魔法】。魔族さえも退ける究極の魔法だけれども、本学園の研究者が偶然その名を知って以来、何の情報も得られなかった」
「威力だけではありません。『魔法の才能は遺伝しない』――その法則に反して、ミスティア王家は長きに渡り、同じ魔法を継承していました」
「魔法使い自身の力ではなく、外的な要因で魔法を継承していた。そういうことかしらね」
「儀式――」
「まだ分からないわ」
「……そうですね」





 魔法研究者達に、アリエルへの接触が解禁された。

「魔素というのは常に見えているのかい?」
「魔力や大気との違いは?」
「場所によって魔素の構成が違うというのは?」
 アリエルは案内された研究室のマスターや研究員に囲まれて、たくさんの質問が投げかけられる。

「えっと、あの……」
 目を爛々とさせた大人が身を乗りだしてくる。
 アリエルはたじたじだ。

「近づき過ぎです」
 アッシュが厳として言うと、
「あ、そうだよね……。ごめん」
 研究者達は我に返って、適切な距離をとる。

(アッシュ、かっこいい……)
 頼りになる親友に、アリエルの胸はときめいた。



 今日予定していた面会は終わった。
「疲れたー」
「お疲れ様です。今日は二時間かかりましたが、もう少し短くした方がいいですか」
 学園局録司室から派遣されたエドが気遣ってくれた。
 表情に乏しくて近寄りがたい雰囲気だけど、親切な人なのかもしれない。

「大丈夫です。皆さん、楽しくお話してくれました。……ところで、エドさんってもしかして、ミスティアの僕の家に来たことありますか」
 学園でも見掛けたけど、それ以前にもやはり見覚えがある。
「はい。マスターハニアスタのご長男の家のことでしたら。ハニアスタさんの幽閉の後、彼の研究物を回収しに。たしかにお孫さんとすれ違った記憶がありますが、君達だったんですね」
「はい」

 あの時、ハニアスタの魔法道具が回収された。
 アッシュが落ち込んでしまったので、アリエルは付与魔法や解析魔法を覚えて、魔法道具をプレゼントしたのだ。

「あの、おじい様の魔法道具って返してもらえないのでしょうか。特にボードゲームがあると嬉しいのですけど」
 アッシュのお気に入りだった玩具だ。
 アリエルがそう言うと、隣にいたアッシュは嬉しそうにはにかんだ。

「そうですね……。返却できるものは、ハニアスタさんが希望するものは幽閉空間に送られ、残りはマスターゴーリーが持っていきました。おそらく彼が持っているのではないでしょうか」
「ゴーリーさんが?」
「ゴーリー氏とハニアスタさんはご友人なんですよ。学生の時は寮で同室だったそうです」
「同室っ!?」
「その後も交流が深かったようですよ」
「そうなんですか……。知らなかったです」
 アリエルは目をくりくりさせて驚いた。
「……ゴーリー氏はそういう方です。アリエル君より、あの人の方がハニアスタさんと一緒に暮らした時間は長かったでしょうに、平気で他人の振りをしたのでしょう」
 エドの口調は、少しゴーリーに批判的に感じる。
「そ、そんなこと」
 ゴーリーさんはいい人だ。たまたま言う機会がなかったんじゃないかなあ。





 リリアンク市の南方。
 リリアンク国の第二の都市である臨海都市へ向かう街道があり、人や物の往来で賑わっている。

 そこに、大きな軍事施設があった。
 ――中央武槍兵団。
 フラドが所属する中央魔法兵団とは違い、魔法使いでない者が集まった兵団である。

 リリアンクの兵団は中央、東方、西方という三つの領域に分かれて守っている。中央とつく兵団はリリアンク市周辺の防衛に加えて、東方西方にも派兵されて国全体の防衛を担う。

「ギース隊長。中等部の魔法大会、見応えありましたよ」
 細身の男が、弾む声で話題を振った。
「へえ……」
 もう一人の男は、がっしりした体を安物のソファに横たえて、気のない返事をした。

「決勝は去年の二人が戦って、クリフが勝ちました」
「予想通りじゃねえか」
「そのあと! 急遽エキシビションマッチが行われて、神秘の双子のタッグとクリフとあともう一人クナイって子が戦って、双子が勝ったんですよ!」
「ああ? クリフが負けたのか」
「ええ。あ、隊長はクリフに何度か指導していますから、残念でしたね」
「…………」
「んじゃ、これ頼まれていた資料です」
 細身の男は書類を置くと出ていった。
 ギース隊長と呼ばれた男は身を起こした。頭を手で押さえ、
「アリエル・ハロウ。――ハロウ……」
 人相の悪い顔の眉間の皺をさらに深くした。
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