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聖女クリス
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聖女クリスは、王国の中でも絶大な権力を持つミズーリ公爵の元に生まれた。
ミズーリ公爵は、クリスを大切に育て、後には王家の人間と婚約させることを画策していた。だが、その画策がもはや不要であることを知ったのは、クリスがちょうど10歳の誕生日を迎えた日のことだった。
いつものように、家族でくつろいでいたときのこと。ミズーリ公爵邸宅に招かれざる客がやって来た。それは、ミズーリ公爵の命を狙うロンベル公爵の刺客たちだった。ロンベル公爵は、ミズーリ公爵の側近として仕えていた。特段と対立があったわけではない。その原因は全て、ロンベル公爵の思い上がりだった。
「ミズーリ公爵とお見受けいたします。お命を頂戴いたします」
刺客たちは、ミズーリ公爵と妻、そして、クリス、クリスの妹であるマリアを全員拘束した。
「私の命はどうなっても構わない。だから、女たちは生かしてくれ!」
しかし、刺客たちはミズーリ公爵の訴えに聞く耳を持たなかった。
「あのお方は、ミズーリ公爵一家全員の抹殺を指示されました。ですから……誰も助けるつもりはございません!」
刺客はまず、子供たちを殺そうとした。剣の切先をクリスとマリアに向けた。
「お父様!!!」
泣き叫ぶマリアに対し、クリスは妙に冷静だった。
「大丈夫だ。一瞬で終わるから。この家に生まれてきたことを後悔するんだね」
マリアとクリス、同時に切先が刻まれようとした瞬間、クリスがぱっと目を見開いて、刺客を睨み付けた。
「後悔するのは……どうやらあなたたちみたいですよ!!!」
「何だって?」
クリスは、刺客たちの拘束を振りほどいて、地面から少し浮いたところに立ち尽くした。そして、マリアに向けられた剣を、視線だけで粉々に粉砕した。
「おいっ!何が起きたんだ!」
「分からない!剣が勝手に壊れたんだ!」
刺客たちは慌てだした。人間業とは思えないクリスの振る舞いに、刺客たちは困惑した。
「とりあえず、公爵の命を奪うんだ!!!」
刺客は、まだ無事だった剣を公爵の胸に刻もうとした。公爵は静かに目を閉じた。
「下がりなさい!」
クリスが再び視線を傾けて、剣が砕けた。
「どうしたんだ!」
「この女の仕業じゃないのか?いや……こいつは化け物だ!」
刺客たちは、クリスを取り囲んで、思い思いに殴りまくった。しかし、当のクリスには、傷一つつかなかった。
「温情の余地はありませんね!刑を執行します!」
クリスは天を見上げ、そのまま身体に宿った神聖なる剣を振り回した。刺客たちの周りに大きな渦ができて、彼らは皆、飲み込まれていった。
事件が片付いて、クリスの人間離れした神業の由縁が明らかになった。それは、クリスが人間ではなく、神と人間の狭間に位置する聖女であることを示していた。
「そうか……私たちは聖女を産んだわけか?素晴らしいことだ……」
ミズーリ公爵は喜んだ。聖女は、神の使いと信仰されてきた。王国の主である皇帝陛下すらも、この信仰を守り続けた。つまり、聖女は皇帝陛下よりも高い序列に位置する存在であるため、婚約相手については、心配する必要が無くなったのだ。
ミズーリ公爵は、この件について、直ちに皇帝陛下へ報告した。すると、皇帝陛下は大勢の侍従たちを従えて、聖女クリスに謁見するため、ミズーリ公爵邸宅にやって来た。
聖女クリスは、政治について当時全く知らなかった。皇帝陛下が、どれほど頭を下げて、自分に対する敬意の弁を述べたところで、その本質を理解することはできなかった。
ただ、一つだけ理解できたことがあって、それは、10年後、つまり、クリスが20歳の誕生日を迎えた日に、皇帝陛下の第一子である、王子ハマーと婚約する未来だった。
「謹んでお受けいたします」
クリスは、ハマーとの将来の婚約に合意した。皇帝陛下、ミズーリ公爵は大いに喜んだ。王家の人間と、聖女が手を取り合って国を支えていくことが、最も重要なことだと、言い伝えられてきた。その言い伝え通りに、物事が進もうとしていたからである。
全てが歴史のように。誰もがそう思っていた。そんな安寧を密かに脅かそうと画策する者が現れた。それは、嘗て聖女クリスが守り抜いた、ミズーリ公爵もう一人の娘である、マリアだった。
ミズーリ公爵は、クリスを大切に育て、後には王家の人間と婚約させることを画策していた。だが、その画策がもはや不要であることを知ったのは、クリスがちょうど10歳の誕生日を迎えた日のことだった。
いつものように、家族でくつろいでいたときのこと。ミズーリ公爵邸宅に招かれざる客がやって来た。それは、ミズーリ公爵の命を狙うロンベル公爵の刺客たちだった。ロンベル公爵は、ミズーリ公爵の側近として仕えていた。特段と対立があったわけではない。その原因は全て、ロンベル公爵の思い上がりだった。
「ミズーリ公爵とお見受けいたします。お命を頂戴いたします」
刺客たちは、ミズーリ公爵と妻、そして、クリス、クリスの妹であるマリアを全員拘束した。
「私の命はどうなっても構わない。だから、女たちは生かしてくれ!」
しかし、刺客たちはミズーリ公爵の訴えに聞く耳を持たなかった。
「あのお方は、ミズーリ公爵一家全員の抹殺を指示されました。ですから……誰も助けるつもりはございません!」
刺客はまず、子供たちを殺そうとした。剣の切先をクリスとマリアに向けた。
「お父様!!!」
泣き叫ぶマリアに対し、クリスは妙に冷静だった。
「大丈夫だ。一瞬で終わるから。この家に生まれてきたことを後悔するんだね」
マリアとクリス、同時に切先が刻まれようとした瞬間、クリスがぱっと目を見開いて、刺客を睨み付けた。
「後悔するのは……どうやらあなたたちみたいですよ!!!」
「何だって?」
クリスは、刺客たちの拘束を振りほどいて、地面から少し浮いたところに立ち尽くした。そして、マリアに向けられた剣を、視線だけで粉々に粉砕した。
「おいっ!何が起きたんだ!」
「分からない!剣が勝手に壊れたんだ!」
刺客たちは慌てだした。人間業とは思えないクリスの振る舞いに、刺客たちは困惑した。
「とりあえず、公爵の命を奪うんだ!!!」
刺客は、まだ無事だった剣を公爵の胸に刻もうとした。公爵は静かに目を閉じた。
「下がりなさい!」
クリスが再び視線を傾けて、剣が砕けた。
「どうしたんだ!」
「この女の仕業じゃないのか?いや……こいつは化け物だ!」
刺客たちは、クリスを取り囲んで、思い思いに殴りまくった。しかし、当のクリスには、傷一つつかなかった。
「温情の余地はありませんね!刑を執行します!」
クリスは天を見上げ、そのまま身体に宿った神聖なる剣を振り回した。刺客たちの周りに大きな渦ができて、彼らは皆、飲み込まれていった。
事件が片付いて、クリスの人間離れした神業の由縁が明らかになった。それは、クリスが人間ではなく、神と人間の狭間に位置する聖女であることを示していた。
「そうか……私たちは聖女を産んだわけか?素晴らしいことだ……」
ミズーリ公爵は喜んだ。聖女は、神の使いと信仰されてきた。王国の主である皇帝陛下すらも、この信仰を守り続けた。つまり、聖女は皇帝陛下よりも高い序列に位置する存在であるため、婚約相手については、心配する必要が無くなったのだ。
ミズーリ公爵は、この件について、直ちに皇帝陛下へ報告した。すると、皇帝陛下は大勢の侍従たちを従えて、聖女クリスに謁見するため、ミズーリ公爵邸宅にやって来た。
聖女クリスは、政治について当時全く知らなかった。皇帝陛下が、どれほど頭を下げて、自分に対する敬意の弁を述べたところで、その本質を理解することはできなかった。
ただ、一つだけ理解できたことがあって、それは、10年後、つまり、クリスが20歳の誕生日を迎えた日に、皇帝陛下の第一子である、王子ハマーと婚約する未来だった。
「謹んでお受けいたします」
クリスは、ハマーとの将来の婚約に合意した。皇帝陛下、ミズーリ公爵は大いに喜んだ。王家の人間と、聖女が手を取り合って国を支えていくことが、最も重要なことだと、言い伝えられてきた。その言い伝え通りに、物事が進もうとしていたからである。
全てが歴史のように。誰もがそう思っていた。そんな安寧を密かに脅かそうと画策する者が現れた。それは、嘗て聖女クリスが守り抜いた、ミズーリ公爵もう一人の娘である、マリアだった。
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