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影の存在

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それは、王子ハマーがマリアと一夜を共にしてしまった次の日のことだった。マリアにすっかり魅了されてしまったハマーは、聖女クリスがやってくることなどうわの空だった。

ハマーは、美意識の塊であるマリアの裸体を隅々まで味わい尽くした。これ以上どうしようもないほどに、味わい尽くした。マリアが我を忘れるほどの衝撃だった。女を知らない若気の至りだろうか。ハマーばマリアと体を重ねて、離れなかった。

「聖女様がいらっしゃいました!」

侍従たちが、忙しそうにやってきた。

「聖女様?ああ、対応しなければいけないのか?面倒臭いな……居留守は使えないだろうか?」

「居留守ですと?一体どうしたというのですか?それに……そちらの女性はどなたですか?」

侍従たちは、マリアのことを詳しく知らなかった。

「どなたでもいいだろう。君たちには関係のないことだ。プライベートをいちいちすべて報告しなければならないのかね?そんな決まりはどこにもないと思うが。まあ、いいや。私の古い友達だよ。名前はマリア。どうだ、聖女様に匹敵するレベルの美しさだろう?」

「ハマー様!婚約者でもない女性を部屋に連れ込む事は、固く禁じられているはずですぞ!」

「そんな固い話はどうだっていいじゃないか。私は今をエンジョイしたいだけなんだ。分かるだろう?聖女様と婚約した暁に、私がどういう運命をたどることになるか?」

「それは……それが第一王子たるハマー様の役割と存じます!」

「なるほど。君は皇帝陛下譲りの頑固さだね。まあ、いいや。下がりたまえ。聖女様に会う気分じゃないんだ。頼むよ。そうだな……執務が立て込んでいて、今日は無理だと伝えてくれないかな?」

ハマーは、なんとかクリスを騙せるだろうと思った。しかしながら、侍従たちの背後には、聖女クリスの姿があった。

「なるほど、そういうことでしたか。ハマー様」

聞き覚えのある声……それが聖女クリスだと気がついたハマーは、マリアを蹴飛ばした。

「これはこれは!聖女様!いらっしゃっていたのですね?申し訳ございません!さあさあ、おくつろぎなさってください!」

「あら、先客がいらっしゃったねのではなくて?」

クリスは全てお見通しだった。しかし、敢えてマリアのことを口にしなかった。

「いえいえ、決してそのようなことはございませんよ。今日は、今後の婚約について大切な話し合いをする日でございますから、あなた様以外の方をお招きするなどと、そのようなことは決してございません」

「そうですか……」

クリスは影にマリアが隠れていることに気がついていた。マリアは、少し困惑したクリスの顔を見るのが面白くて仕方がなかった。


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