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帰宅 その1

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「さて……聖女なのに、傷物になっちゃった……。とりあえず、家に帰ろうか……」

クリスは、一度、実家であるミズーリ公爵邸宅に帰ろうと思った。別に実家に帰ったから、何かが変わるということは、多分なかった。ただ、このまま流れ者として生き続けるくらいなら、俗世間を離れて、自宅に籠るのも悪くはないと思った。

「ただいま帰りました……お父様、お母様はいらっしゃいますか?」

誰も出てこなかった。考えてみれば当たり前のことだ。同じタイミングで、自分たちのもう一人に娘がロイヤルウェディングの華となっているのだ。家族がパーティーに出席することはないが、少なくとも城の中の控室かどこかで待機しているはずだった。

「ああっ、誰か相手をしてくれると思ったのに……残念ね……」

クリスは二階に上がって、かつての自室に足を踏み入れた。そして、そこに見知らない少女が自分のおもちゃで遊んでいる姿を見かけた。

「近所の子供かしら……あの……こんにちは」

クリスが声をかけると、少女はものすごく驚いて、ベッドに隠れてしまった。

「来ないで!あなた……私のことを襲おうとしているんでしょ!!!」

喋り方が、どことなく妹のマリアに似ていると感じた。もし仮に、この少女の姉なる者がいたとすれば、彼女もまた、この少女の手を焼くことになるはずだ、と思った。

「襲う?私が?そんなふうに見えるのかしら?」

「だって……私のことを睨んでいるんだもの!お父様やお母様たちとは違う目をしているの!」

違う目……クリスは戸惑った。目の色のことを言っているのだろうか、それとも……考えてもよく分からなかった。

「私は別にあなたを襲いに来たわけじゃないのよ?ただ……ここは私の部屋だから、ちょっと休むだけよ……」

「そんなわけないもん!ここは私の部屋なんだから!!!」

家を留守にして一か月も経っていないというのに、妙だった。クリスは、自分が入る家を間違えたのか、と考えた。でも、そんなはずはなかった。部屋の雰囲気は、全くもってそっくりだった。

「怪しい!!!早くこの部屋から出て行って!!!そうじゃないと……」

少女は、立ち上がって、机の引き出しからピストルを持ち出した。

「早くして!撃つよ!」

銃の構え方がきちんとできていた。でも、クリスは自分の身よりも、少女のことを心配した。
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