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帰宅 その2

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つまり、少女はある程度ピストルの使い方に慣れていると思えた。ただ、暴発する可能性もあり、そうだとすれば、最悪の場合、少女が命を落としてしまう。クリスは、ピストルを取り上げようと、少女の元に駆け寄った。

「危ないから!さあ、こっちに渡して!」

「いやだ!そんなことしたら、本当に私……殺されちゃう……」

少女はこの時、クリスのただならぬオーラを感じ取ったのかもしれない。照準をせっかく合わせていたのに、彼女は身体を小刻みに震わせて、今にも泣き出しそうだった。

「さあ、いい子だから、こっちに渡しなさい」

「いやだって言ってるでしょう!!」

少女は、とうとうピストルの引き金を引いてしまった。照準はあっていなかったが、一発がクリスの額をかすめた。

「わあっ……本当に当たっちゃった……」

少女は驚きを隠せなかった。恐らく、始めて使ったのだろう。クリスは、即座に傷を修復した。

「あれっ……治ってる?」

少女は、この不思議な現象に気がついて、驚いた。

「さあ、こっちに渡して?大丈夫、私は誘拐犯じゃないから。事情は良く分からないけれど、私はここの住人だったのよ。だから、安心して?」

茫然と立ち尽くす少女の手に握られたピストルを、クリスはそっと掴んだ。

「あなたのような可愛い女の子が使うには、まだ早すぎたわね」

そう言って、元あった机の引き出しにしまった。

「うそ……それじゃ、あなたは何をしに来たって言うの?ねえ、全然わからないよう……」

少女は混乱して泣き出してしまった。クリスは、またもや、この少女をマリアと重ねた。思えば、幼いころのマリアは、クリスの元を離れることなんてなかった。それが、いつの間にか、姉の元から旅立ち、時には、劣等感を抱き、姉が手に入れたものを奪うという、歪んだ考えを持つようになってしまった……。

「大丈夫。あなたは何も考えなくていいの。少し世界がおかしくなってしまったようね。ほら、私のところに来てごらんなさい。ぎゅって抱きしめてあげるから……」

クリスは未だにお姉ちゃん風をふかすのが得意だった。自分が一体何をしているのか、そんなことを考える前に、身体が自然と動いた。
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