1 / 55
その1
しおりを挟む
「グラハム!早くこの馬車を止めてちょうだい!」
「お嬢様!しかしながら、馬が言うことを聞かないのでございます!!」
第一王子ツァイスとの会談を終えて、王宮を後にした令嬢エリーナの乗る馬車が暴走し始めたのは、ほんの五分も前のことだった。それまで、エリーナは側近のグラハムと車内で歓談していた。
「それにしてもお嬢様。この度、第一王子ツァイス様との婚約が成就いたしませば、我がリヒテル家にとって、これほど栄誉なことはございません!」
「グラハム、これもあなたの尽力の賜物です。私は、あなたに深く感謝しています」
「お嬢様!とんでもないお言葉です!」
エリーナは、先祖代々公爵の地位にあるリヒテル家の長女だった。エリーナの父に当たる、第14代リヒテル公爵は、今までの中で最も皇帝に近いポジションまで上り詰めた。この度の婚約は、そんな父、いや、リヒテル家にとって非常に栄誉なことだった。
「ツァイス様も非常に喜んでいらしたようですぞ!エリーナ様があまりにも美しいので、目を回してしまったのですな!」
「まあ、グラハム。冗談はよしてよ。私なんかより、王宮にいらした方々の方が、よっぽど魅力的だったわよ」
「エリーナ様。それはいけませんな。この世界において、近親婚は最も重大なタブーでございますからな。いくら、王家の方々が魅力的だとはいっても、ツァイス様と婚約することはできません!」
「ああ、そうだったわね!とすると、私は次にこの世界で美しい令嬢と言うことになるのかしら?」
話が盛り上がってきたところで、事件は起きた。馬車のスピードが急に速くなったのだ。グラハムは身を乗り出して、馬に鞭を打った。
「もう少しゆっくり走れ!」
ところが、馬はスピードを落とすことはなく、逆にどんどんどんどん速く走りだした。
「グラハム!どうしたのよ?」
「馬が言うことを聞かなんです!どんどんどんどん走るものだから、このままいくと、あの森に突っ込みますよ!」
あの森とは、王家が所有している別荘の入り口だった。森自体の出入りは自由だが、非常に広大であるため、無暗に足を踏み入れると、自分の居場所が分からなくなるので危険、と言われていた。
「突っ込みます!!!」
「いやああっ!!」
二人の意識は遠のいていった。しばらくして目を醒ますと、馬車は森の入り口で止まっていた。
「助かったのか……ああっ、お嬢様!」
先に目を醒ましたグラハムが、エリーナを介抱した。エリーナも少しして目を醒ました。
「グラハム……私たち、助かったの?」
「さようでございます!この通り、傷一つありません!」
「ああっ、良かった……」
エリーナはぼんやりとしていた。グラハムは立ち上がって、辺りを見回してみた。
「それにしても不思議だ。あれだけ暴れてた馬車が、どうして急に止まったんだろう?」
馬車は横倒しになっていた。そして、馬車の下に、誰か人がいることが分かった。
「おい!しっかりしてください!大丈夫ですか?」
グラハムは顔を真っ青にして、必死に馬車を引き起こそうとしたが、とても無理だった。
「いいんです……あなたたちに……怪我がなければそれで……」
か弱い女の声だった。
「しっかりしなさい!お嬢さん。今、助けを呼んできますから、もう少し頑張ってください!!」
グラハムは、助けを呼ぶため、辺りの町に駆け込んだ。
「お嬢様!しかしながら、馬が言うことを聞かないのでございます!!」
第一王子ツァイスとの会談を終えて、王宮を後にした令嬢エリーナの乗る馬車が暴走し始めたのは、ほんの五分も前のことだった。それまで、エリーナは側近のグラハムと車内で歓談していた。
「それにしてもお嬢様。この度、第一王子ツァイス様との婚約が成就いたしませば、我がリヒテル家にとって、これほど栄誉なことはございません!」
「グラハム、これもあなたの尽力の賜物です。私は、あなたに深く感謝しています」
「お嬢様!とんでもないお言葉です!」
エリーナは、先祖代々公爵の地位にあるリヒテル家の長女だった。エリーナの父に当たる、第14代リヒテル公爵は、今までの中で最も皇帝に近いポジションまで上り詰めた。この度の婚約は、そんな父、いや、リヒテル家にとって非常に栄誉なことだった。
「ツァイス様も非常に喜んでいらしたようですぞ!エリーナ様があまりにも美しいので、目を回してしまったのですな!」
「まあ、グラハム。冗談はよしてよ。私なんかより、王宮にいらした方々の方が、よっぽど魅力的だったわよ」
「エリーナ様。それはいけませんな。この世界において、近親婚は最も重大なタブーでございますからな。いくら、王家の方々が魅力的だとはいっても、ツァイス様と婚約することはできません!」
「ああ、そうだったわね!とすると、私は次にこの世界で美しい令嬢と言うことになるのかしら?」
話が盛り上がってきたところで、事件は起きた。馬車のスピードが急に速くなったのだ。グラハムは身を乗り出して、馬に鞭を打った。
「もう少しゆっくり走れ!」
ところが、馬はスピードを落とすことはなく、逆にどんどんどんどん速く走りだした。
「グラハム!どうしたのよ?」
「馬が言うことを聞かなんです!どんどんどんどん走るものだから、このままいくと、あの森に突っ込みますよ!」
あの森とは、王家が所有している別荘の入り口だった。森自体の出入りは自由だが、非常に広大であるため、無暗に足を踏み入れると、自分の居場所が分からなくなるので危険、と言われていた。
「突っ込みます!!!」
「いやああっ!!」
二人の意識は遠のいていった。しばらくして目を醒ますと、馬車は森の入り口で止まっていた。
「助かったのか……ああっ、お嬢様!」
先に目を醒ましたグラハムが、エリーナを介抱した。エリーナも少しして目を醒ました。
「グラハム……私たち、助かったの?」
「さようでございます!この通り、傷一つありません!」
「ああっ、良かった……」
エリーナはぼんやりとしていた。グラハムは立ち上がって、辺りを見回してみた。
「それにしても不思議だ。あれだけ暴れてた馬車が、どうして急に止まったんだろう?」
馬車は横倒しになっていた。そして、馬車の下に、誰か人がいることが分かった。
「おい!しっかりしてください!大丈夫ですか?」
グラハムは顔を真っ青にして、必死に馬車を引き起こそうとしたが、とても無理だった。
「いいんです……あなたたちに……怪我がなければそれで……」
か弱い女の声だった。
「しっかりしなさい!お嬢さん。今、助けを呼んできますから、もう少し頑張ってください!!」
グラハムは、助けを呼ぶため、辺りの町に駆け込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
2025/9/29
追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる