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その2

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グラハムが馬車の現場に戻った時、エリーナは既に意識をはっきりと取り戻していた。

「グラハム!これは一体どういうことなの!!」

エリーナはグラハムに縋りついた。

「こんなこと……ツァイス様の耳に届いたら、私の婚約はどうなるのかしら……」

エリーナは自身の心配をしていた。しかしながら、グラハムは、馬車の下に埋まっている人間の救出だけを考えていた。しばらくすると、男手が集まって、なんとか馬車を持ち上げることができた。するとそこには、既に息絶えた少女の姿があった。

「グラハム!これから一体どうすればいいの!!!」

事故を起こし、その上、少女の命を奪った……ただでは済まない。確かに、エリーナは何も悪くない。しかしながら、世間は甘くない。このままだと、エリーナの評判は下がる。場合によっては、この度の婚約が破談になる可能性だってある。あるいは、家名を汚すことにもつながりかねない。

「お嬢様!」

グラハムは、泣き続けているエリーナに語りだした。

「この度の件は全て、私が起こしました事故、ということにいたしましょう!お嬢様へのダメージを減らすためには、それしかございません!!」

「本当なの!」

エリーナは一度喜んだ。破談リスクが大幅に回避できると思ったからだ。しかしながら、冷静に考えると、それは非常に罪深きことだと思った。

「グラハム!あなたに罪はないはずよ!それを背負い込むつもりなの?そんなことをしたって、私はちっとも嬉しくないわ!」

「しかしながら、こうするより他に方法がないのです!」

今度はグラハムが瞳に涙を浮かべ始めた。

「あーあ……グラハム、しっかりしてちょうだい!」

エリーナはグラハムを抱き寄せた。

「もう暫くしたら、警察がやって来るわ。そこで正直に話しましょうよ。私たちは何も悪くないのよ。馬たちが急に暴れ出して、それで、偶然そこにいたお嬢さんを巻き込んでしまった……そういうことよね?」

グラハムは三度頷いた。

「もう泣かないで。ほら、自信を持って答えなさい。大丈夫、何も心配することはないんだから!」

エリーナはグラハムを励まし続けた。警察がやって来て事情聴取が始まると、グラハムは正直に一部始終を語った。エリーナが公爵令嬢であり、その側近が証言したことについて、彼らは疑いを持たなかった。

結局、事故として処理されることになり、エリーナとグラハムはお咎めなし、ということで一件落着した……はずだった。
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