聖女様を事故死させてしまったので、即刻悪役令嬢認定されて、婚約破棄されました

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その3

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第一王子のツァイスは、王宮の間に祀られている神への祈りを捧げていた。幼い頃に母親を亡くし、悲しみに暮れていた少年に、生きる灯を与えてくれたのが、神への祈りだった。空耳かもしれないが、深く目を瞑って、神に祈ると、慰めの言葉が聞こえてきた。

「お母さんは遠くの天国で、君のことを見守っている。何も心配することはない。それよりも、たくさん活躍して、お母さんを喜ばしてあげるんだ……」

こんな具合に、聞こえた。ツァイスは、神の言葉を忠実に守った。皇帝の子息はツァイスを含めて四人いる。その中で、最も信頼されているのが、他ならぬツァイスである。次に皇帝になるのは、ツァイスであると目されていた。

「私は神が統治する帝国を守るため、自身を犠牲にしてまでも尽くす覚悟であります」

最近では、こんなことを誓うようになった。すると、

「よろしく頼むぞ」

と返事が聞こえた。

そんな神の伝令者に、ツァイスは時折想いを寄せることがあった。王宮の間の壁画には、尊大なる神と、その子孫たちの楽園が描かれている。その中に一人、女の子がいる。名はクロルと言うそうだ。この世に災いが起こる時、その身を犠牲にして人間を守る聖女として、様々な伝説が語り継がれている。中でも一番有名なのが、暴走した馬車を止める聖女クロルの物語だ。突如暴れ出した馬車の乗員を命懸けで救った。しかしながら、聖女クロルは、馬車の下敷きになって死んでしまい、天に帰ったという。その後、聖女クロルのご加護を受けることができなくなった世界には、様々な災いが起きたそうだ。かれこれ、五百年も前の話ではあるが。

そんな聖女クロルを、ツァイスは自身の姿と重ねていた。決して誰からも祝ってもらえない、孤独な存在。ツァイスは時折、聖女クロルの声も聞くことがあった。

「ツァイス。婚約おめでとう」

令嬢エリーナとの婚約が決まった日、神にそのことを報告すると、女の子の声で、一瞬聞こえたのだ。

「あなたは、ひょっとすると、聖女クロルですか?」

この質問に返事はなかった。でも、ツァイスは確信していた。

「ありがとうございます。聖女クロル、あなたにも素敵な春がやってきますように……」

「ありがとう」

ツァイスは誰よりも、聖女クロールの幸せを願っていた……。
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