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その4

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翌日の会議で、例の事件が話題に上がった。上位の貴族や王家に由緒のある貴族が何か事件に関わった場合、会議が開かれる。第一王子ツァイスは、眠たげな瞳を擦りながら、資料に目を通した。

「……以上の理由より、公爵令嬢マリー氏が、夫であるシュメール伯爵を撲殺致しました……王子、この件はいかがいたしましょうか?」

貴族の処分は、ツァイスが最終的に判断することになっていた。

「まあ、夫にも理由があったわけだろう。だから……令嬢だけ責めるのは可哀想だな。本来ならば死刑だが、今回は諸般の事情を考慮して、流刑にしよう」

「ははっ、畏まりました!」

近頃、夫の不倫に腹を立てた令嬢が夫を殺す事件が増えている。面倒くさいから、全員流刑でいいと思った。

「で、次の件は?」

「資料の7ページをご参照ください。第一王子婚約者である令嬢エリーナ様が関わっておられる件です……」

「エリーナだと?」

ツァイスは耳を疑った。

「エリーナが何かしたのか?」

「いいえ、エリーナ様が事故に巻き込まれたのです」

「事故に巻き込まれた、だと?私には何も連絡が来ていないが?」

「無用の心配はなさりませんように……エリーナ様からの言伝でございます」

「そうか……」

調査に当たった警察の説明を聞いて、ツァイスは大いに驚いた。と言うのも、事件の内容が、あの聖女クロルの伝説にそっくりだったからである。

「ちょっと待て!その時の写真とか、死んだ少女の写真はあるか?」

「ありますが、御覧になりますか?」

「是非とも見せてくれ!」

ツァイスは躍起になっていた。自分の想像が本当に当たっているのか、そうだとしたら、どうすればいいのか、頭の中はすっかりゴチャゴチャになっていた。でも、真実が知りたかった。

「やっぱり、クロルじゃないか……」

ツァイスがいつも眺めている壁画の少女にそっくりだった。

「王子様、少女の名をご存じで?」

「いや……何でもない。これは私の戯言だ。すまない……」

聖女クロルが、事故にあった令嬢エリーナを救うために、命を落とした。

クロル、君の幸せと言うのは、人を救うことなのかい?自分の命はどうでもいいのかい?

どうして、エリーナは笑っているんだ?

自分が助かったからか?のこのことよく生きていられるものだな……。

クロル……私は君のことが愛しくて仕方がない。

次に生き返るのはいつなんだろう?僕は君のことを待てるだろうか?


ツァイスはエリーナの召喚を求めることにした。



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