Melting Dead 最弱の科学者が紡ぐ世界

tartan321

文字の大きさ
6 / 16

2081年 12月31日 その3

しおりを挟む
「正。少し質問いいか」
 遊びというのは、正の造語であり、実際は勉強会である。元々、ある程度成績がいい、というくらいの認識でしかなかったので、正に質問する同級生は多くなかった。精々3人集まれば上出来と言った具合だろうか。科学哲学や数学に関する議論の戦場だった。正はこれを、と名付けた。

 ところが、先ほどの、相川と正のやり取りを耳にした者たちは、残された三か月を有意義なものにするため、正を取り囲んだ。

 一年前ならともかく、三か月で何ができると言うんだ……。


 しかしながら、正は丁寧に答えた。

 二十九人の学生から最低一つずつ、多ければ四つの質問。それも全て似た内容。本当は、先生に尋ねたほうが良いのだろう。最も、相川に訊くのは無理か……。

 真摯に答え、納得した学生は、少なからず、感謝を示してくれる。悪い気はしない。むしろ嬉しい。だからこそ、力が入る。二十九番目の学生が教室を後にしたのは、八時を過ぎた頃だった。教室を見回し、誰もいないことを確認する。

「本当にいないね」
 反応はなかった。正は教室の照明を全て落とした。廊下は基本的に明るいが、所々暗い。電球が切れているせいだろう。加えて人気が一切ない。唯一、窓越しに職員室の明かりを捉えることが出来る。距離的には大部遠い。まるで二つの空間が存在するみたいだ。

 昇降口、校庭、校門まで特に問題はなかった。通学路も、やはり電球の切れている箇所はあるが、大したことなく過ぎ去った。結局のところ、家に着くまでの道のりは、時間を除き、全く同じだった。

「ただいま……」
 言い終わらないうちにすぐさま、
「おかえり!」
 と返事が聞こえる。リビングのドアを勢いよく開けて、やんちゃなお姫様は、今にも飛びかかろうとしている。足を挫いては困るので、そのまま胸で受け止める。
「未だ食べていないのか」
「お兄ちゃんが帰ってくるまで待ってたの!」

 あぁ、妹を嫁にすることは出来ないのか。遺伝子操作の技術は進歩している。血縁の奇形がどうとか、そんな議論はもはや存在しないだろう。はぁ……。

 晴海は正と五つ違いの妹。正との大きな違いは、その整った容姿である。限りなく白に近い肌色の輪郭、肉付きのいい頬、ぱっちりと見開いた目、そして、申し訳なさそうに縮こまる鼻。まるで、職人が幾年もかけて作りあげた彫刻品のよう。すらっとした身体の曲線は、幾分かあどけなさを残している。発育途上と言えば間違いではないが、これはこれで悪くない。

 これほど可憐な少女に、恋話は付き物である。しかしながら、晴海の場合は少しばかり事情が異なる。兄である正にべったり。無論、正は素直に受け入れる。これは自らの邪な意志ではなく、純粋な妹の意志である、と常に言い聞かせる。

 かつて、
「そろそろ兄離れしてボーイフレンドでも作った方がいいんじゃないか」
 と、冗談交じりに言ったことがあった。すると晴海は、人形の表情を終えて、途端に涙を流し始めた。
「私のこと、嫌いになっちゃったの……」
 正は、必死に晴海をなだめようとした。何よりも泣き顔を見続けるのが怖かった。いつものように笑っていてほしい。切なる想いだった。
「分かった。悪かったよ。ごめんね。晴海のこと、嫌いになるわけないだろう」
「本当に?」
「そうだとも。ほら、これ以上涙を見せないでくれよ。晴海の辛い姿を見たくないんだ、って本当に何言ってるんだろうな。原因を作ったのは、僕なのに。まるで、晴海が悪いみたいだね……。なんだろう。本当に。僕は不器用だな……」
「そんなことない!お兄ちゃんはいつも晴海のことを一番大事に思ってくれる。だから……、そんな顔しないで」
「そうだな。ごめん、僕は晴海の兄ちゃんだ。いや、ごめん」
 正は一つ咳払いをした。
「こんなことを言っていいのか分からないけれど……。いや、もう嘘をつくのは止めよう。僕は晴海が好きだ」

 晴海の動揺する表情、あるいは、何かしらの言葉があったのかもしれない。しかしながら、正はすぐさま自室へ向かって駈け出した。無心に走った。一生のうちに得る物と失う物、その全てがこの一夜に詰め込まれた心地だった。

 その日から増々、晴海は正との距離を縮めていった。正は女心に疎い。しかしながら、晴海が自分のことを必要としている内は、一生懸命尽くしてあげようと想った。兄の責務、ということもあるが、かけがえのない人生の宝物が輝き続けるために、とでも言った方がさまになるだろうか。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その神示を纏めた書類です。  私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 願うのみ 神のつたへし 愛善の道』  歌人 蔵屋日唱

処理中です...