2 / 51
タイムベル編
02_タイムベル
しおりを挟む
漆黒の空にぽつんと浮かぶ赤銅色の三日月が怪しげに微笑んでいる今宵。皆既月食で、月のほとんどが、地球の影に隠れて見えなくなっていた。何百年に一回しか見れない、貴重な月夜だ。そんな夜に、親友アルバートとともに、白い大蛇が出るというタイムベルに行くことになっていた。
僕は、玄関の扉を開けて顔を上げると母親に言った。
「じゃあ、行ってくるよ」
「最近できたお友達と遊びに行くのね。イギリスに来てから、友達がなかなかできないって言ってたから、聖に一緒に遊びに行くような友達ができて嬉しいわ」
母親は、優しく微笑んでいた。
以前、両親にイギリスに来てから、なかなか学校生活に馴染めないことを話したことがあった。それから、両親は学校生活を気にかけてくれていた。
「うん、アルバートっていうんだ。僕も嬉しいよ。友達といえる友達ができたから......」
「アルバートっていうのね。大切にするのよ。友達って、意外とすぐに縁がきれて会わなくなってしまうものだから」
「うん、大切にするよ。アルバートは、イギリスに来て、初めてできた友達なんだ。それじゃあ、お母さん、行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい。気を付けてね」
僕は、母親に見送られながら、家を出て、アルバートと約束したタイムベルに向かった。
タイムベルは、教会と隣り合わせになった時計台で、都市部から離れた山の中にあった。今は、門が閉ざされ、誰も利用していない。だけど、ネットの噂では、時々、タイムベルから、鐘の音が聞こえることがあるとかないとか。
真っ暗な山道を懐中電灯で、照らしながら、恐る恐るゆっくりと進んでいく。山道を照らすのは、懐中電灯のみだ。懐中電灯を失えば、たちどころに何がどこにあるのか分からなくなって闇の深淵に飲まれてしまう。
ここが、タイムベルなのか......。
不気味な山道を抜け、なんとかタイムベルの門まで来た。鉄格子の門は錆び付いていて、触れると、手が鉄の錆で黒くなった。
門をまじまじと見ていると、後ろから何者かの気配を感じた。聞き耳を立て、周囲の音を拾う。
足音だ。
徐々に大きくなっている。僕の背後に誰かが、近づいてくる。
アルバートなのか......。
緊迫した状況に、一瞬、体が硬直してしまったが、勇気を振り絞ってゆっくりと後ろを見た。
誰もいない。
振り向いた先には、誰もいなかった。ただ、真っ暗な山道が続いているだけだ。
おかしいな、足音が聞こえたはずなんだけどな。
「よお、来たか!鬼山」
緊張が高まっていたところにアルバートの声が響き、心臓が口から飛び出そうになった。
「ア、アルバート!」
アルバートは、タイムベルを囲う周囲の壁に沿って、こちらに向かって歩いていた。
「なんだ、鬼山。ビビってるのか。そんな状態でよくここに来ようと思ったな」
アルバートは、あきれた様子で、僕を見ていた。
「ビビってるよ。ほんと死ぬかと思った。足音が聞こえたんだよ、さっき!ちょうど、僕の背後から」
背後の聞こえた足音は、アルバートでないことは確かだ。アルバートは壁沿いを歩いてきたのだ。足音は、彼の来た方向からは、違った所から聞こえてきた。
「ふーん、足音だって......奇妙だな、それはそうと、ビビるのはまだ早いぜ。これから、俺たちは、このタイムベルに、入るんだからな」
「ここが、タイムベルか。初めて見たよ」
僕たちは鉄格子の門の隙間からタイムベルを見た。所々、老朽化が進んでいるものの、当初の原形は残っており、芸術的で、美しい建築物だった。細部までつくりこまれており、ステンドグラスがいくつかはめ込まれ、幾何学的な紋様が施されていた。
「ああ、俺も初めて見た。だが、どうやって、中に入ろうか」
タイムベルは、周囲に壁が張り巡らされており、唯一の入り口である門も施錠されていた。壁の上には、侵入防止のため、針が設置されおり、壁をよじ登って、中に入ることもできなかった。
「これだけ、侵入を拒まれていたら、入るに入れなさそうだね。どうする。今日は諦める?」
タイムベルが侵入が難しいというだけなく、この場所の放つ、禍禍しく異様な雰囲気を肌で感じ、入ることを僕は躊躇っていた。本能が、入るなと言ってくるような感覚だ。
「鬼山。俺は、諦めないぜ。白い大蛇がいるか確かめるまではな」
確かに、ここまで来て、白い大蛇の真偽を確かめずに終わるのも、心残りだ。僕も、アルバート同様、本当に存在するのではないかと内心、わくわくする気持ちはあった。
アルバートは、近くに転がっていた、少し大きめの石を持ち上げて、門の施錠を破壊し始めた。
「もしかして施錠を破壊するの。そんなことして大丈夫なのかな。やめておいた方がいいと思うよ」
石で門の施錠を破壊しようとする、アルバートを見て、あわてて言った。だけど、時はすでに遅く、くだけ散る音がすると、地面に施錠が落ちた。どうやら、施錠もまた錆びついていて、かなり脆くなっていたようだった。
「残念。もう、壊しちまった。見ていた鬼山も、これで同罪だな」
そう言うと、アルバートは、門に巻き付いた鎖を取り外した。
「そんな......僕は、ちゃんと止めたのに!」
「まあ、そう嘆くなよ。周りに、監視カメラはないし、こんなところ誰も見てねーよ。それよりも、入ろうぜ」
アルバートは、いつの間にか、鎖をすべて取り外し、門を開けた。門先を見ると、タイムベルへと通じる薄暗い小道が続いていた。
「はー、分かったよ。僕も、白い大蛇を見てみたいからね」
「そうか、なら、さっそく中に入ろうぜ」
アルバートは、まっ先に門に入ると薄暗い小道を歩き始めた。僕も、離れないように彼の後ろにぴたりとついて歩く。
このタイムベルには、きっとなにかある。僕らの想像すらつかない恐ろしいなにかが......。
タイムベルの薄気味悪い雰囲気に不安を抱きながら、僕はちょっとしたスリルと興奮を感じていた。
僕は、玄関の扉を開けて顔を上げると母親に言った。
「じゃあ、行ってくるよ」
「最近できたお友達と遊びに行くのね。イギリスに来てから、友達がなかなかできないって言ってたから、聖に一緒に遊びに行くような友達ができて嬉しいわ」
母親は、優しく微笑んでいた。
以前、両親にイギリスに来てから、なかなか学校生活に馴染めないことを話したことがあった。それから、両親は学校生活を気にかけてくれていた。
「うん、アルバートっていうんだ。僕も嬉しいよ。友達といえる友達ができたから......」
「アルバートっていうのね。大切にするのよ。友達って、意外とすぐに縁がきれて会わなくなってしまうものだから」
「うん、大切にするよ。アルバートは、イギリスに来て、初めてできた友達なんだ。それじゃあ、お母さん、行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい。気を付けてね」
僕は、母親に見送られながら、家を出て、アルバートと約束したタイムベルに向かった。
タイムベルは、教会と隣り合わせになった時計台で、都市部から離れた山の中にあった。今は、門が閉ざされ、誰も利用していない。だけど、ネットの噂では、時々、タイムベルから、鐘の音が聞こえることがあるとかないとか。
真っ暗な山道を懐中電灯で、照らしながら、恐る恐るゆっくりと進んでいく。山道を照らすのは、懐中電灯のみだ。懐中電灯を失えば、たちどころに何がどこにあるのか分からなくなって闇の深淵に飲まれてしまう。
ここが、タイムベルなのか......。
不気味な山道を抜け、なんとかタイムベルの門まで来た。鉄格子の門は錆び付いていて、触れると、手が鉄の錆で黒くなった。
門をまじまじと見ていると、後ろから何者かの気配を感じた。聞き耳を立て、周囲の音を拾う。
足音だ。
徐々に大きくなっている。僕の背後に誰かが、近づいてくる。
アルバートなのか......。
緊迫した状況に、一瞬、体が硬直してしまったが、勇気を振り絞ってゆっくりと後ろを見た。
誰もいない。
振り向いた先には、誰もいなかった。ただ、真っ暗な山道が続いているだけだ。
おかしいな、足音が聞こえたはずなんだけどな。
「よお、来たか!鬼山」
緊張が高まっていたところにアルバートの声が響き、心臓が口から飛び出そうになった。
「ア、アルバート!」
アルバートは、タイムベルを囲う周囲の壁に沿って、こちらに向かって歩いていた。
「なんだ、鬼山。ビビってるのか。そんな状態でよくここに来ようと思ったな」
アルバートは、あきれた様子で、僕を見ていた。
「ビビってるよ。ほんと死ぬかと思った。足音が聞こえたんだよ、さっき!ちょうど、僕の背後から」
背後の聞こえた足音は、アルバートでないことは確かだ。アルバートは壁沿いを歩いてきたのだ。足音は、彼の来た方向からは、違った所から聞こえてきた。
「ふーん、足音だって......奇妙だな、それはそうと、ビビるのはまだ早いぜ。これから、俺たちは、このタイムベルに、入るんだからな」
「ここが、タイムベルか。初めて見たよ」
僕たちは鉄格子の門の隙間からタイムベルを見た。所々、老朽化が進んでいるものの、当初の原形は残っており、芸術的で、美しい建築物だった。細部までつくりこまれており、ステンドグラスがいくつかはめ込まれ、幾何学的な紋様が施されていた。
「ああ、俺も初めて見た。だが、どうやって、中に入ろうか」
タイムベルは、周囲に壁が張り巡らされており、唯一の入り口である門も施錠されていた。壁の上には、侵入防止のため、針が設置されおり、壁をよじ登って、中に入ることもできなかった。
「これだけ、侵入を拒まれていたら、入るに入れなさそうだね。どうする。今日は諦める?」
タイムベルが侵入が難しいというだけなく、この場所の放つ、禍禍しく異様な雰囲気を肌で感じ、入ることを僕は躊躇っていた。本能が、入るなと言ってくるような感覚だ。
「鬼山。俺は、諦めないぜ。白い大蛇がいるか確かめるまではな」
確かに、ここまで来て、白い大蛇の真偽を確かめずに終わるのも、心残りだ。僕も、アルバート同様、本当に存在するのではないかと内心、わくわくする気持ちはあった。
アルバートは、近くに転がっていた、少し大きめの石を持ち上げて、門の施錠を破壊し始めた。
「もしかして施錠を破壊するの。そんなことして大丈夫なのかな。やめておいた方がいいと思うよ」
石で門の施錠を破壊しようとする、アルバートを見て、あわてて言った。だけど、時はすでに遅く、くだけ散る音がすると、地面に施錠が落ちた。どうやら、施錠もまた錆びついていて、かなり脆くなっていたようだった。
「残念。もう、壊しちまった。見ていた鬼山も、これで同罪だな」
そう言うと、アルバートは、門に巻き付いた鎖を取り外した。
「そんな......僕は、ちゃんと止めたのに!」
「まあ、そう嘆くなよ。周りに、監視カメラはないし、こんなところ誰も見てねーよ。それよりも、入ろうぜ」
アルバートは、いつの間にか、鎖をすべて取り外し、門を開けた。門先を見ると、タイムベルへと通じる薄暗い小道が続いていた。
「はー、分かったよ。僕も、白い大蛇を見てみたいからね」
「そうか、なら、さっそく中に入ろうぜ」
アルバートは、まっ先に門に入ると薄暗い小道を歩き始めた。僕も、離れないように彼の後ろにぴたりとついて歩く。
このタイムベルには、きっとなにかある。僕らの想像すらつかない恐ろしいなにかが......。
タイムベルの薄気味悪い雰囲気に不安を抱きながら、僕はちょっとしたスリルと興奮を感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ガチャから始まる錬金ライフ
あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる