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タイムベル編
09_友の闇
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アルバートは、ゆっくりと、タイムベルの地下に通じる階段を下り、地下にいる半獣たちのところに向かっていた。僕は、アルバートに気づかれないように、足音をたてず、物陰に隠れながら、慎重にあとを追う。
階段を下りる途中、再び、蛇女ムグリのピアノの旋律が響き渡っていた。僕たちが、去った後も、彼女は、ピアノの練習をしているようだった。相変わらず、身を委ねたくなるような、繊細で美しい音色だ。
もう二度と来ることはないと思っていた地下空間に、再び、足を踏み入れた。アルバートは、すでに、ピアノを弾く蛇女ムグリの近くまで行っていた。僕は、長椅子の影に隠れ、アルバートの様子を見守る。
「また、ピアノの練習とは熱心だな」
ムグリは、先ほど去ったはずのアルバートが突然、話しかけても驚く素振り一つ見せず、ピアノを叩く手を止めた。
「あら、どうしたのかしら。お友達と二人で、家に帰るんじゃなかったの?」
アルバートは、冷静に辺りを見渡し、ムグリに問いかけた。
「ちょっと、お前たちと話したいことがあってな。見たところ、他のメンバーがいないみたいだが、どこにいったんだ?」
確かに、ムグリ以外の姿が見えない。先ほどまで、狼男、像男、ライオン男がこの舞台にいたはずだ。
「私以外のメンバーは、舞台裏の小部屋にいるわ」
蛇女ムグリは、舞台裏を見つめ、答えると、アルバートは、にやりと笑みを浮かべた。
「そうか。それは、都合がいい。あの狼男がいると、話がややこしくなりそうだからな」
「狼男って、アウルフのことね。それで、私たちに話したいことって何なのかしら?」
今度は、ムグリが、アルバートに問いかけた。僕も、アルバートが何を目的でここに来て、何を彼らに話そうとしているのか気になっていた。
アルバートは、ムグリの問いかけに、平然と答えた。
「お前は、人間を半獣にできると言っていたな。俺を半獣にしてくれないか?」
僕は、あまりに突拍子のないアルバートの発言を聞いて、両手の拳を強く握りしめた。思わず彼に向かって「何を言ってるんだ!」と叫んでしまいそうになって、あわてて自分の口を両手でふさいだ。
蛇女ムグリも、さすがに今のアルバートの発言には少し驚いたようだった。
「あら、意外ね。あなたから、そんなことを言い出すなんて。どうして、半獣になりたいのかしら?」
「力がほしい。何者にも、虐げられない圧倒的な力を」
アルバートは、落ち着きのなかに、どこか狂気を孕んだ口調でムガルに言った。落ちついているように見えるが、彼からは、心の中で煮えたぎる底知れない怒りを感じた。いつも見ているアルバートの姿ではない。今まで見せなかった彼の一面だ。
「何故、あなたはそこまで力を求めるの?」
そう問いかける蛇女ムグリは、アルバートが抱く怒りの根源を理解しようとしてくれているように感じた。
「俺には、親父がいる。だけど、母親はいない。母親は、幼い頃に、殺人鬼に惨たらしく殺された。今も、その殺人鬼は捕まっていない。親父は、家で以前から暴力を働いていた。いわゆる、DVという奴だ。母親が生きている時は、母親が俺を守ってくれた。だが、母親が殺されてからは、親父は俺に毎日のように暴力を奮うようになった。親父が憎い!憎くて憎くて仕方がない!俺には、力がない。親父に立ち向かえるほどの力が......だから、ほしいんだよ。半獣の力を」
普段、アルバートの冷静沈着な一面しか見ていないので、感情的になって話す様子は、衝撃的だった。彼は、隠し事をせずに何でも話す性格だと思っていたが、こんな家庭の事情を胸に秘めていたなんて思いもしなかった。
もっと早くに、僕が、アルバートの悲しみや怒りに気づいてあげられたら良かったと後悔した。
アルバートには、半獣になんかなってほしくない。どうにかして、アルバートを止める。今なら、まだ間に合うはずだ。怖いし、今すぐにも、逃げ出したいけれど、勇気を振り搾って恐怖と立ち向かわなければ、きっと一生、後悔する。
僕は、覚悟を決めた。
階段を下りる途中、再び、蛇女ムグリのピアノの旋律が響き渡っていた。僕たちが、去った後も、彼女は、ピアノの練習をしているようだった。相変わらず、身を委ねたくなるような、繊細で美しい音色だ。
もう二度と来ることはないと思っていた地下空間に、再び、足を踏み入れた。アルバートは、すでに、ピアノを弾く蛇女ムグリの近くまで行っていた。僕は、長椅子の影に隠れ、アルバートの様子を見守る。
「また、ピアノの練習とは熱心だな」
ムグリは、先ほど去ったはずのアルバートが突然、話しかけても驚く素振り一つ見せず、ピアノを叩く手を止めた。
「あら、どうしたのかしら。お友達と二人で、家に帰るんじゃなかったの?」
アルバートは、冷静に辺りを見渡し、ムグリに問いかけた。
「ちょっと、お前たちと話したいことがあってな。見たところ、他のメンバーがいないみたいだが、どこにいったんだ?」
確かに、ムグリ以外の姿が見えない。先ほどまで、狼男、像男、ライオン男がこの舞台にいたはずだ。
「私以外のメンバーは、舞台裏の小部屋にいるわ」
蛇女ムグリは、舞台裏を見つめ、答えると、アルバートは、にやりと笑みを浮かべた。
「そうか。それは、都合がいい。あの狼男がいると、話がややこしくなりそうだからな」
「狼男って、アウルフのことね。それで、私たちに話したいことって何なのかしら?」
今度は、ムグリが、アルバートに問いかけた。僕も、アルバートが何を目的でここに来て、何を彼らに話そうとしているのか気になっていた。
アルバートは、ムグリの問いかけに、平然と答えた。
「お前は、人間を半獣にできると言っていたな。俺を半獣にしてくれないか?」
僕は、あまりに突拍子のないアルバートの発言を聞いて、両手の拳を強く握りしめた。思わず彼に向かって「何を言ってるんだ!」と叫んでしまいそうになって、あわてて自分の口を両手でふさいだ。
蛇女ムグリも、さすがに今のアルバートの発言には少し驚いたようだった。
「あら、意外ね。あなたから、そんなことを言い出すなんて。どうして、半獣になりたいのかしら?」
「力がほしい。何者にも、虐げられない圧倒的な力を」
アルバートは、落ち着きのなかに、どこか狂気を孕んだ口調でムガルに言った。落ちついているように見えるが、彼からは、心の中で煮えたぎる底知れない怒りを感じた。いつも見ているアルバートの姿ではない。今まで見せなかった彼の一面だ。
「何故、あなたはそこまで力を求めるの?」
そう問いかける蛇女ムグリは、アルバートが抱く怒りの根源を理解しようとしてくれているように感じた。
「俺には、親父がいる。だけど、母親はいない。母親は、幼い頃に、殺人鬼に惨たらしく殺された。今も、その殺人鬼は捕まっていない。親父は、家で以前から暴力を働いていた。いわゆる、DVという奴だ。母親が生きている時は、母親が俺を守ってくれた。だが、母親が殺されてからは、親父は俺に毎日のように暴力を奮うようになった。親父が憎い!憎くて憎くて仕方がない!俺には、力がない。親父に立ち向かえるほどの力が......だから、ほしいんだよ。半獣の力を」
普段、アルバートの冷静沈着な一面しか見ていないので、感情的になって話す様子は、衝撃的だった。彼は、隠し事をせずに何でも話す性格だと思っていたが、こんな家庭の事情を胸に秘めていたなんて思いもしなかった。
もっと早くに、僕が、アルバートの悲しみや怒りに気づいてあげられたら良かったと後悔した。
アルバートには、半獣になんかなってほしくない。どうにかして、アルバートを止める。今なら、まだ間に合うはずだ。怖いし、今すぐにも、逃げ出したいけれど、勇気を振り搾って恐怖と立ち向かわなければ、きっと一生、後悔する。
僕は、覚悟を決めた。
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