12 / 51
新たな日常編
01_奇怪な夜を越えて
しおりを挟む
気づけば、僕は、異様な雰囲気を放つタイムベルの門の前に再び立っていた。上空には、見慣れた漆黒の夜空ではなく、真っ赤な血で染め上げられたような紅い夜空が、どこまでも広がっている。その紅い夜空を黒く長細い雲が怪しげに悠々と流れていた。暗闇に染まった地上を照らすのは、ぽつりと浮かぶ月の光だけだ。
確か、家に帰り、ベッドの上に、倒れ込むように、眠りについたはずだ。なぜ、僕は、再び、タイムベルの近くにいるのだろうか。
何かがおかしい......。
早く、帰ろう。ここに、これ以上、いれば、正気ではいられなくなってしまう。正直、今にもチビりそうだ。
暗闇の中を、空から降り注ぐ月光だけを頼りに山道をなぞりながら進んでいく。道を挟む鬱蒼と繁った木々は、吹き付ける風に揺られ、不気味な笑い声を上げる。
暗いな。この中を、進んで行かないといけないのか。
徐々に、暗闇の深淵に飲まれ、不安が頭を蝕んで行く。周囲を何度も見渡しながら、何かが襲ってこないか警戒する。
ポキッ、ポキポキ。
踏みしめた地面から、奇妙な音がいきなりして、僕はモブキャラのような叫び声を響かせた。
「ヒィ、ヒィィィ!!!」
恐る恐る、ゆっくりと下を見ると、情けないことに、小さな木の枝を踏みつけただけだ。極限の緊迫状態になっている僕は、ほんのちょっとしたことでも反応してしまうほど異常に敏感になっていた。無事に帰れるような気がしない。
何も起きないでくれよ......頼むよ......。
両手を合わせ、天の神に祈る。
だけど、その神の祈りも虚しく、さっそく聞き覚えのある足音が、後ろから鳴り響き、不安な心を遠慮なく揺さぶってきた。迫り来る足音は、初めてタイムベルに来た時に聞いた足音に似ている。あの時は、振り向いた先に誰もいなかったが、今回はどうだろうか。
足音は、僕のちょうど真後ろで止まった。
何で、いちいち、後ろに回り込んで近づいてくるんだよ......。
心の中で不満を漏らす。全身を這う恐怖が極限に達し、なかなか後ろを向く勇気が出なかった。というより、まるで体が金縛りにあったように痺れて動けない。
なんだ、何が起こってるんだ。体が動かせない。しかも、声すら出せない。
長細い白い胴体が、動けなくなった僕の体を許可なく勝手に巻き付いていく。この白い胴体は、間違いない。白い大蛇だ。
身動きがとれなくなった体では、抵抗すらできない。いつの間にか、首から下は、大蛇の胴体に覆われていた。そして、僕の目の前に、大蛇の頭が、現れる。しきりに、舌を出し入れし、鋭利な牙を覗かせた。
こ、こんにちは......。
直後、白い大蛇は、僕の顔に瞬く間も与えずかぶりついた。引き裂かれた頸動脈から勢いよく血液が周囲に舞い散る。
ーーー
「うああああああ!!!!」
白い大蛇にかぶりつかれた衝撃で、思わず、絶叫し、夢からベッドの上で目を覚ます。即座に、首に手をやり、かみちぎられたりしていないか確認する。
大丈夫だ。何もない。
実は少し予感はしていたが、先ほどまでの身が凍りつくような出来事は、夢だったようだ。
すでに夜は明け、温かな朝日がカーテンの隙間から漏れ出ていた。ベッドのすぐ近くには、机が置かれていて、その上には、本が何冊か並んでいた。机の隣には、普段が入った棚が置いてある。
「聖!ご飯できたわよ!」
下の階にあるリビングから、母親の声がした。
いつもと変わらない部屋に、いつもと変わらない母親の声。僕は、あの奇怪な夜を越えて、日常に帰ってきたんだ。
「今、いくよ!」
そう母親に返すと、ベッドから、立ち上がる。そして、歩き出そうとした瞬間。急に目眩がして気分が悪くなり、危うく床に転びかける。
なんだろう。昨日の疲れが残っているのかな。
とりあえず、いつも通り洗面所に向かい、蛇口をひねり、水を出すと、顔をざばっと洗った。そのお陰で、悪かった気分が少しすっきりした。
ふと、洗面所にとりつけられた鏡を見ると、違和感を覚えた。
いつもより、この鏡、くっきりと映ってるな。いつの間にか、新しい鏡に変えた?
僕はあまり、目のいい方ではなく、最近、本を読むことが多かったので、視力がだいぶ低下していた。鏡で自分の顔を見ると、ぼんやりして見えた。そろそろ、メガネをつけた方がよいかと思っていた時だった。
不思議なことに、今日は、いつものぼんやりが消え、とてもくっきり見えた。
「いたっ!?」
僕は、右腕に、強烈な痛みを感じ、上着の袖を慌てて捲り上げる。
な、なんだよ、これ......気持ち悪い。
右腕には、赤々と膨れ上がった出来ものが二つあり、肌は黒く汚染されていた。
確か、家に帰り、ベッドの上に、倒れ込むように、眠りについたはずだ。なぜ、僕は、再び、タイムベルの近くにいるのだろうか。
何かがおかしい......。
早く、帰ろう。ここに、これ以上、いれば、正気ではいられなくなってしまう。正直、今にもチビりそうだ。
暗闇の中を、空から降り注ぐ月光だけを頼りに山道をなぞりながら進んでいく。道を挟む鬱蒼と繁った木々は、吹き付ける風に揺られ、不気味な笑い声を上げる。
暗いな。この中を、進んで行かないといけないのか。
徐々に、暗闇の深淵に飲まれ、不安が頭を蝕んで行く。周囲を何度も見渡しながら、何かが襲ってこないか警戒する。
ポキッ、ポキポキ。
踏みしめた地面から、奇妙な音がいきなりして、僕はモブキャラのような叫び声を響かせた。
「ヒィ、ヒィィィ!!!」
恐る恐る、ゆっくりと下を見ると、情けないことに、小さな木の枝を踏みつけただけだ。極限の緊迫状態になっている僕は、ほんのちょっとしたことでも反応してしまうほど異常に敏感になっていた。無事に帰れるような気がしない。
何も起きないでくれよ......頼むよ......。
両手を合わせ、天の神に祈る。
だけど、その神の祈りも虚しく、さっそく聞き覚えのある足音が、後ろから鳴り響き、不安な心を遠慮なく揺さぶってきた。迫り来る足音は、初めてタイムベルに来た時に聞いた足音に似ている。あの時は、振り向いた先に誰もいなかったが、今回はどうだろうか。
足音は、僕のちょうど真後ろで止まった。
何で、いちいち、後ろに回り込んで近づいてくるんだよ......。
心の中で不満を漏らす。全身を這う恐怖が極限に達し、なかなか後ろを向く勇気が出なかった。というより、まるで体が金縛りにあったように痺れて動けない。
なんだ、何が起こってるんだ。体が動かせない。しかも、声すら出せない。
長細い白い胴体が、動けなくなった僕の体を許可なく勝手に巻き付いていく。この白い胴体は、間違いない。白い大蛇だ。
身動きがとれなくなった体では、抵抗すらできない。いつの間にか、首から下は、大蛇の胴体に覆われていた。そして、僕の目の前に、大蛇の頭が、現れる。しきりに、舌を出し入れし、鋭利な牙を覗かせた。
こ、こんにちは......。
直後、白い大蛇は、僕の顔に瞬く間も与えずかぶりついた。引き裂かれた頸動脈から勢いよく血液が周囲に舞い散る。
ーーー
「うああああああ!!!!」
白い大蛇にかぶりつかれた衝撃で、思わず、絶叫し、夢からベッドの上で目を覚ます。即座に、首に手をやり、かみちぎられたりしていないか確認する。
大丈夫だ。何もない。
実は少し予感はしていたが、先ほどまでの身が凍りつくような出来事は、夢だったようだ。
すでに夜は明け、温かな朝日がカーテンの隙間から漏れ出ていた。ベッドのすぐ近くには、机が置かれていて、その上には、本が何冊か並んでいた。机の隣には、普段が入った棚が置いてある。
「聖!ご飯できたわよ!」
下の階にあるリビングから、母親の声がした。
いつもと変わらない部屋に、いつもと変わらない母親の声。僕は、あの奇怪な夜を越えて、日常に帰ってきたんだ。
「今、いくよ!」
そう母親に返すと、ベッドから、立ち上がる。そして、歩き出そうとした瞬間。急に目眩がして気分が悪くなり、危うく床に転びかける。
なんだろう。昨日の疲れが残っているのかな。
とりあえず、いつも通り洗面所に向かい、蛇口をひねり、水を出すと、顔をざばっと洗った。そのお陰で、悪かった気分が少しすっきりした。
ふと、洗面所にとりつけられた鏡を見ると、違和感を覚えた。
いつもより、この鏡、くっきりと映ってるな。いつの間にか、新しい鏡に変えた?
僕はあまり、目のいい方ではなく、最近、本を読むことが多かったので、視力がだいぶ低下していた。鏡で自分の顔を見ると、ぼんやりして見えた。そろそろ、メガネをつけた方がよいかと思っていた時だった。
不思議なことに、今日は、いつものぼんやりが消え、とてもくっきり見えた。
「いたっ!?」
僕は、右腕に、強烈な痛みを感じ、上着の袖を慌てて捲り上げる。
な、なんだよ、これ......気持ち悪い。
右腕には、赤々と膨れ上がった出来ものが二つあり、肌は黒く汚染されていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ガチャから始まる錬金ライフ
あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる