ケダモノ狂想曲ーキマイラの旋律ー

東雲一

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月の光

04_邪悪な気配

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「起きろ、ガキ!人間に助けられるとは、みっともないぞ!」

 狼男アウルフの荒々しい声が、眠りについていた頭に響き渡り、僕は目を覚ました。目をこすって、周囲を見渡すと、そこはタイムベルの地下室だった。確か、喫茶店に居たはずだ。何が起こったのか全く見当がつかない。

「どうして、僕はここに?」

「そこの彼女が、気を失ったあなたをわざわざここまで運んできてくれたのよ」

 蛇女ムグリの視線の先には、心配そうに僕を見つめるジーナがいた。

「ジーナが、この場所に運んできてくれたのか。ありがとう。助かったよ」

 ジーナには、半獣の彼らの話もしていた。タイムベルにいる彼らが、人間ではなく、人肉を食らう半獣であることを知っている。危険を顧みず、僕を助けるために、このタイムベルまで運んできてくれた。

「うん、無事で良かった。私が鬼山くんを運んできたのを気づくと、すぐに彼らが助けてくれたの。みんな、親切な人たちだから、怖くはなかったわ」

「そうか、ジーナは肝が据わっているな」

 僕は、ジーナの勇敢さに感心した。僕が最初に、半獣の彼らを見た時、恐ろしさのあまり体が震えてしまっていたというのに。

「それにしても良かったな。小僧。この女性がいなければ、どうなっていたか分からなかったぞ」

 象男ファントムは、壁にもたれかかりながら言った。ファントムの言うように、彼女がいなければ、どうなっていたか分からない。ジーナの勇気ある行動に感謝しかない。

「ええ、ジーナがいなければ、大変なことになっていたと思います。最悪、死んでいたかもしれません。ところで、僕は、どれくらい気を失っていたんですか?」

 かなり、気を失っていた気がする。体感的に数分程度の話ではなさそうだ。

「彼女の話によれば、6時間くらいは、気を失っているだろう」

 6時間も、気を失っているとは想定外だった。タイムベルの中にいるから外の様子は分からないが、おそらく、日が沈んで暗闇に包まれている頃だろう。

 今まで、めまいがすることがあっても、少しすれば消えていた。今回のように意識を失うところまではいかなかった。

 確かに、めまいがひどくなり、意識が朦朧とする頻度が増えていた。まさか、気を失うところまで、追い込まれているとは。自分が思っている以上に、僕の身体は限界に近づいているのかもしれない。否が応でも、血肉を食って行かなければ、空腹に耐えられず死んでしまう運命なのだろうか。

「ライアン、険しい顔をして、どうしたの?」

 蛇女ムグリが、ライオン男ライアンの異変に気がついた。ライアンは、今まで見たこともないくらいの険しい顔をしていた。どこか、遠くを見つめているようにも感じた。

 彼のただならぬ雰囲気に、何かとてつもなく、よくないことが起こるのではないかと、直感した。

「邪悪な気配を感じる。ここに、何体か来る」

 ライアンがそう言った直後、上の方で、タイムベルの教会のステンドグラスが、激しく割れる音がした。

(なんだ、全身を這うような嫌な予感は......)

 ライアンの言っていた邪悪な気配の意味が分かった。上の方から、頭がくらくらするような邪気を持った何かが、蠢いているのを感じた。

「小僧、今から、ここは、戦場になる。小僧たちを守ってやれないかもしれない。できるだけ、奥の部屋まで逃げろ!」

 象男ファントムは、象の姿に変貌し、僕たちに叫んだ。

 僕は、まだ、意識が朦朧としていた。身体にうまく力が入らない。半獣の身体とはいえ、こんな状態では、まともに侵入してきた何かと戦えない。

 不安な顔をしたジーナを見た。

 僕には、守るべきものができた。彼女は、傷つけさせない。もう、誰も失いたくない。彼女を守るために、戦わなければならないのなら、僕は化け物にでもなってやる。

「分かりました。行こう。ジーナ」

 ジーナの手を握り、急いで奥の部屋に向かおうとした時だった。階段から、凄まじい速度で何かが、下りてくる音がした。

 人間でも、半獣でもない。全く異質な気配。しかも一体じゃない......少なくとも十体はいる。
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