追放されたランクSの精霊使いは、奴隷王女たちを服従させ、王国に伝わる最強の精霊を支配して、復讐を成し遂げる。

和泉鷹央

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プロローグ

優しい王国騎士

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 アミアは優しかった。
 衛士たちも、優しかった。
 王宮をでて、衛士から衛兵へと。
 近衛騎士から、王国騎士へと。
 部署が変わり、人が変わり、命令も変わる。

 くるときは四頭建ての立派な馬車だったのに。
 戻るときは、一頭建ての質素な辻馬車だった。
 二人乗りで隣には王国騎士が座っている。
 罪人が逃げないように監視しているのだ。

 本当なら罪人として、手を前でしばられて、屋敷に戻され、軟禁となるところだった。
 ところが、同行した王国騎士は、父親の元部下だったらしい。
 ルークの名前を聞くと、眉をしかめそれからついて来いと言い、縄をかけることもせずに、ルークを王宮から連れ出した。

 城の第一の壁を抜けて街に足をふみいれたら、街角で、辻馬車を拾ってくれた。

 父親と同じように黒髪を短く刈り込んだ彼はまだ若く二十代。
 最初は寡黙でとても怖かったけれど、馬車に乗り込んでからはそうでもなかった。

「お前、伯爵様の息子か」

 そう訊かれた。
 衛士たちに殴られた跡が痛くて、頷くしかできない。
 彼はそれを少年が悲しみに暮れて返事ができないのだと受け取ったようだった。

 王国騎士といっても鎧を着込んでいるわけではない。
 それは戦争の最中か、訓練中に着込むだけで、この平和な王都ではたいした装備もつけないのが普通だと、ルークは父親から聞かされて知っていた。

 王国騎士の正装である白地に斜めに青の太い線が入ったローブ。
 その裾に手を入れて、彼は何やら取り出すとルークに渡してくる。
 なんだろうと思って受け取ったら、それは紙につつまれた焼き菓子だった。

「食べるか?」
「……なぜ?」

 素直な疑問が口をついて出る。

 自分は罪人なのに。
 もしくは、その息子なのに。
 ついさっき捕られようとしていたのに。
 どうしてこんなことをする。

 理解ができなかった。

「子供はそういうの、好きだろ。それとも、嫌いか?」 

 嫌いじゃない。
 首を振る、強く振る。
 真横に、左右に、強く振る。

「それなら食べるといい。俺はあまり甘いものが好きじゃない」
「でも」
「いいんだ。悪いのは伯爵様でおまえじゃない。これくらい誰も文句を言わないさ」

 父親の名前が出て初めて、ある疑問が心に飛び出してくる。
 何をした?
 王女たちの前で、あの隊長はこういったはずだった。

(伯爵は裏切り者だったのです。先ほど、王弟殿下がそれを明らかにしました。こいつは裏切り者の息子です)

 あの言葉が脳裏にこびりついて離れない。

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