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プロローグ
第2話 破滅を呼ぶギフト
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ギフト。
それは神様からの贈り物。
誰にも等しく与えられる能力の総称。
能力はスキルとも呼ばれ、それぞれ様々な属性に大別される。
属性は光、闇、炎、氷、水、風、大地、時空の八つ大別されるといわれてる。
しかし、属性は変化するから最近では、なになに属性だから、この属性とは相性が悪い、みたいなことは叫ばれなくなった。
だって、土属性の溶岩は火の属性と水の属性のそれぞれを併せもつのに、火と土、土と水、水と火の相性が悪いなんて、ナンセンスだからだ。
属性はあくまでスキルの分類に過ぎない。
そんな属性にも忌み嫌われるものがあり、真逆に素晴らしいと讃えられるものもある。
誰にでも等しく与えられるから、誰にでも等しく成功と不幸が訪れる。
俺の得たギフト【消去者】はそんな忌み嫌われる側の、闇属性のスキルだった。
* * *
ペイパルスト王国の王都イザニアに住む十二歳の俺が、スキルを覚醒させる授与式に参与したのは夏のある日だった。
その日の王都には海からの涼やかな風が吹き抜けていて、無限に続く可能性を感じさせてくれた。
授与式は神々の王ダーシェの神殿で行われる。
それは特別なものかというとそうでもなくて。
人だけでなく、獣人のような亜種族も、エルフのような妖精も、魔族のような異種族も等しくギフトを持って生まれてくる。
人間の場合は十二歳になったらそこに行き神官から覚醒の儀式を施してもらうことになる。
ほぼいつもやっているようなものだから、神官たちにとっては、平常化された業務の様な物らしい。神殿の中で感慨深いものを感じているのは親と、その対象者である子供だけだ。
俺は周りの空気を読みながら、そんなことを頭の片隅で考えていた。
その時の意識は順番待ちの自分ではなく、幼なじみのとある少女に向いていた。
エルメス・スレイズホルム。
王国宰相を代々輩出してきた、名家スレイズホルム侯爵家の跡取り娘にして、俺の一番気になる美少女。
それが、白銀の髪と真紅の瞳を持つ‥‥‥十二歳にしては外観のふくらみが豊かで、もっと年長の少女たちのように立派に成長している少女。それがエルメスの印象だった。
その美しさに憧れながら、俺は我が身を顧みる。
鏡のように磨き抜かれた足元の黒い大理石をじっと見つめた。
目の前に垂れ下がった水色の髪、黒の瞳に、ぼさーっとしたこれといって特徴のない顔立ち。
兄たちは王国騎士団でそれぞれ騎士や騎士長を勤めていたり、聖騎士になっているというのに、俺の全身には騎士になれる素養ともいえるべき、筋肉というものがない。
どれほどトレーニングを積んでも、なぜか筋肉がつかないのだ。
おかげで家人たちからは貧弱な坊ちゃんと悲しまれ、兄弟姉妹からは将来を案じられる始末。
両親に至っては「おまえには期待していないから、それなりのギフトを戴いてこい」とハッパをかけられた。
そんなことを思い出しつつぼーっと、エルメスの可憐さに見入ってしまう。
これから先の人生に、もしも彼女がいてくれたらなあ、なんて子供心に憧れてしまう。
もっとも当時の俺に、エルメスに声をかけるなんて度胸はまったくなかった。
エルメスとは同じ学院に通う幼なじみだ。
それも縁の薄いもので、六歳に同時に入学した時から、彼女とときたま仲良くしてもらったり、食事をするグループにひっそりと混じっているだけの目立たない陰キャだった。
エルメスたちのグループは学院でもトップクラスに成績の良い生徒たちの集まりで。
そこに混じれることを自分の才覚だと勘違いすることはなく、逆に兄たちの名声と功績の尻馬に乗っているだけだという申し訳なさがいつも心に渦巻いていた。
だから密やかに願ったのだ。
せめて、エルメスの隣に行ける程に。
憧れの女性の側でともに歩けるようなスキルを与えて下さい、神々の王ダーシェよ、と。
なんて考え事をしていたら、エルメスの順番がやってきた。
スキル覚醒の儀式はそんなに難しいものではなくて、神様が宿るとされた子供の頭大の水晶に手をかざすだけ。
それだけでよかった。
結果は大々的に発表されることはほとんどなく、各自の親には伝えらえるらしい。
ついでに神殿が発行する属性とスキル名を明記した証明書が授与される。
もしそれが家柄を大事にする貴族の体面を汚さない内容なら、後日、神殿を通じて大々的に知られて、その子供は晴れて社交界デビュー。
王宮に上がり役人として生きることの人生を約束される。
相応しくない内容なら、それぞれの貴族が持つ領地に送られ、男は領地の管理をするし、女は結婚することになる。
平民や商人の場合はスキルがなくても生きていくことが出来るから、大して問題視はされない。
算額や国語、読み書きといったものは六歳から十二歳まで通う学院で誰しもが習うからだ。
その恩恵を享受できないのは、奴隷の子供くらいである。
そんなわけで、俺もぬくぬくと育ち、ぬくぬくと適当な人生を送るはずだった。
多分、エルメスもそうだろう‥‥‥。もしくは彼女なら、王国でも数人しかいない女宰相になるかも?
そうなったら追いつくのは無理だな。なんてぼんやりと彼女の儀式を眺めていたら、急に「えええっ!」と狂気めいた悲鳴がそこから立ち昇った。
何事か、とみんなの視線が彼女に集中する。
エルメスは呆然とした顔をして、真紅の瞳に大粒の涙を浮かべていた。
彼女に付き添ってきていた同じ髪色の女性――母親だろう人は、呆然自失としてぽかんと口を開いたまま、その場に立ち尽くしていた。
宰相の侯爵はさすがにここにはこられなかったのだろう。
部下の騎士と思しき男性数名が、「奥様!」とか「姫様、お気を確かに!」とか叫んでいた。
「……何があったんだろ」
ざわつく神殿の大広間を、侯爵家一同は騎士と神殿関係者に連行されるようにして、奥へと消えていく。
子供心によくない事があったんだ、とだけは理解できた。
彼らの背中を追いかけていたら、自分の背を押されて順番が回ってきたことを知る。
今度は、俺が授与されたスキルを覚醒する番だった。
父親たちの期待していない顔が脳裏をよぎった。家人までもが同じ顔をしていた。
とはいえ、嫌われているわけでもなく。
「いいか、イニス。人には相応の分というものがある。お前がもし騎士に向かないのであれば、文官として生きればそれでいい」
父親はそんな希望とも慰めともつかない言葉を投げかけて屋敷から俺を送り出した。
代々、王国騎士団長を輩出してきた俺の実家、レイドール伯爵家にはすでに相応しい後継ぎがいて、俺に対して両親が向ける期待度はそれほど高くない。
長兄ダレンが数世紀に一人しか現れないといわれる聖騎士のギフトを授かったから、家は安泰なのだ。
その意味で、俺は家督を継がなければいけない他の連中より、幾分心を軽くしてこの場に挑んでいた。
だからこそ罪が科されたのかもしれない。
少なくとも、剣士か。もしくは重騎士くらいの‥‥‥スキルをくれたらそれでよかったのに。
俺が賜ったスキルは、破滅を呼ぶものだった。
それは神様からの贈り物。
誰にも等しく与えられる能力の総称。
能力はスキルとも呼ばれ、それぞれ様々な属性に大別される。
属性は光、闇、炎、氷、水、風、大地、時空の八つ大別されるといわれてる。
しかし、属性は変化するから最近では、なになに属性だから、この属性とは相性が悪い、みたいなことは叫ばれなくなった。
だって、土属性の溶岩は火の属性と水の属性のそれぞれを併せもつのに、火と土、土と水、水と火の相性が悪いなんて、ナンセンスだからだ。
属性はあくまでスキルの分類に過ぎない。
そんな属性にも忌み嫌われるものがあり、真逆に素晴らしいと讃えられるものもある。
誰にでも等しく与えられるから、誰にでも等しく成功と不幸が訪れる。
俺の得たギフト【消去者】はそんな忌み嫌われる側の、闇属性のスキルだった。
* * *
ペイパルスト王国の王都イザニアに住む十二歳の俺が、スキルを覚醒させる授与式に参与したのは夏のある日だった。
その日の王都には海からの涼やかな風が吹き抜けていて、無限に続く可能性を感じさせてくれた。
授与式は神々の王ダーシェの神殿で行われる。
それは特別なものかというとそうでもなくて。
人だけでなく、獣人のような亜種族も、エルフのような妖精も、魔族のような異種族も等しくギフトを持って生まれてくる。
人間の場合は十二歳になったらそこに行き神官から覚醒の儀式を施してもらうことになる。
ほぼいつもやっているようなものだから、神官たちにとっては、平常化された業務の様な物らしい。神殿の中で感慨深いものを感じているのは親と、その対象者である子供だけだ。
俺は周りの空気を読みながら、そんなことを頭の片隅で考えていた。
その時の意識は順番待ちの自分ではなく、幼なじみのとある少女に向いていた。
エルメス・スレイズホルム。
王国宰相を代々輩出してきた、名家スレイズホルム侯爵家の跡取り娘にして、俺の一番気になる美少女。
それが、白銀の髪と真紅の瞳を持つ‥‥‥十二歳にしては外観のふくらみが豊かで、もっと年長の少女たちのように立派に成長している少女。それがエルメスの印象だった。
その美しさに憧れながら、俺は我が身を顧みる。
鏡のように磨き抜かれた足元の黒い大理石をじっと見つめた。
目の前に垂れ下がった水色の髪、黒の瞳に、ぼさーっとしたこれといって特徴のない顔立ち。
兄たちは王国騎士団でそれぞれ騎士や騎士長を勤めていたり、聖騎士になっているというのに、俺の全身には騎士になれる素養ともいえるべき、筋肉というものがない。
どれほどトレーニングを積んでも、なぜか筋肉がつかないのだ。
おかげで家人たちからは貧弱な坊ちゃんと悲しまれ、兄弟姉妹からは将来を案じられる始末。
両親に至っては「おまえには期待していないから、それなりのギフトを戴いてこい」とハッパをかけられた。
そんなことを思い出しつつぼーっと、エルメスの可憐さに見入ってしまう。
これから先の人生に、もしも彼女がいてくれたらなあ、なんて子供心に憧れてしまう。
もっとも当時の俺に、エルメスに声をかけるなんて度胸はまったくなかった。
エルメスとは同じ学院に通う幼なじみだ。
それも縁の薄いもので、六歳に同時に入学した時から、彼女とときたま仲良くしてもらったり、食事をするグループにひっそりと混じっているだけの目立たない陰キャだった。
エルメスたちのグループは学院でもトップクラスに成績の良い生徒たちの集まりで。
そこに混じれることを自分の才覚だと勘違いすることはなく、逆に兄たちの名声と功績の尻馬に乗っているだけだという申し訳なさがいつも心に渦巻いていた。
だから密やかに願ったのだ。
せめて、エルメスの隣に行ける程に。
憧れの女性の側でともに歩けるようなスキルを与えて下さい、神々の王ダーシェよ、と。
なんて考え事をしていたら、エルメスの順番がやってきた。
スキル覚醒の儀式はそんなに難しいものではなくて、神様が宿るとされた子供の頭大の水晶に手をかざすだけ。
それだけでよかった。
結果は大々的に発表されることはほとんどなく、各自の親には伝えらえるらしい。
ついでに神殿が発行する属性とスキル名を明記した証明書が授与される。
もしそれが家柄を大事にする貴族の体面を汚さない内容なら、後日、神殿を通じて大々的に知られて、その子供は晴れて社交界デビュー。
王宮に上がり役人として生きることの人生を約束される。
相応しくない内容なら、それぞれの貴族が持つ領地に送られ、男は領地の管理をするし、女は結婚することになる。
平民や商人の場合はスキルがなくても生きていくことが出来るから、大して問題視はされない。
算額や国語、読み書きといったものは六歳から十二歳まで通う学院で誰しもが習うからだ。
その恩恵を享受できないのは、奴隷の子供くらいである。
そんなわけで、俺もぬくぬくと育ち、ぬくぬくと適当な人生を送るはずだった。
多分、エルメスもそうだろう‥‥‥。もしくは彼女なら、王国でも数人しかいない女宰相になるかも?
そうなったら追いつくのは無理だな。なんてぼんやりと彼女の儀式を眺めていたら、急に「えええっ!」と狂気めいた悲鳴がそこから立ち昇った。
何事か、とみんなの視線が彼女に集中する。
エルメスは呆然とした顔をして、真紅の瞳に大粒の涙を浮かべていた。
彼女に付き添ってきていた同じ髪色の女性――母親だろう人は、呆然自失としてぽかんと口を開いたまま、その場に立ち尽くしていた。
宰相の侯爵はさすがにここにはこられなかったのだろう。
部下の騎士と思しき男性数名が、「奥様!」とか「姫様、お気を確かに!」とか叫んでいた。
「……何があったんだろ」
ざわつく神殿の大広間を、侯爵家一同は騎士と神殿関係者に連行されるようにして、奥へと消えていく。
子供心によくない事があったんだ、とだけは理解できた。
彼らの背中を追いかけていたら、自分の背を押されて順番が回ってきたことを知る。
今度は、俺が授与されたスキルを覚醒する番だった。
父親たちの期待していない顔が脳裏をよぎった。家人までもが同じ顔をしていた。
とはいえ、嫌われているわけでもなく。
「いいか、イニス。人には相応の分というものがある。お前がもし騎士に向かないのであれば、文官として生きればそれでいい」
父親はそんな希望とも慰めともつかない言葉を投げかけて屋敷から俺を送り出した。
代々、王国騎士団長を輩出してきた俺の実家、レイドール伯爵家にはすでに相応しい後継ぎがいて、俺に対して両親が向ける期待度はそれほど高くない。
長兄ダレンが数世紀に一人しか現れないといわれる聖騎士のギフトを授かったから、家は安泰なのだ。
その意味で、俺は家督を継がなければいけない他の連中より、幾分心を軽くしてこの場に挑んでいた。
だからこそ罪が科されたのかもしれない。
少なくとも、剣士か。もしくは重騎士くらいの‥‥‥スキルをくれたらそれでよかったのに。
俺が賜ったスキルは、破滅を呼ぶものだった。
応援ありがとうございます!
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