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第一章
敗北感
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ダムっ!!
となかなかに勢いのよい音と共にそれは開かれた。
王子の身辺を護衛する者はおらず、なだれ込んできたのは緋色の装飾がなされたアイリスのよく知る、見慣れた装備の一団。
神殿騎士たちだった。
彼らはアイリスの姿を認めると、王子から遮るようにして遠ざけてしまう。
いきなりの行動に戸惑うアイリスだが、剣を抜くわけでもないその行動に、どこかため息をついていた。
知り合いの死が訪れるのを目にするのはーーやはり辛いものがあったからだ。
「あなたたち、どうしてここへ……?」
「我が主よりの神託が下されましたので――。ご家族は無事です、司祭様」
「司祭? 王太子妃補ではないのね?」
「あくまで、神殿関係者の利益を守るのが務めですから……体面上のことと受け流してください」
はあ。
どこもかしこも体面、プライド、損得ばかり。
誰がどうすれば、これは丸くおさまってくれるのだろう。
返事の代わりに大きなため息が出たのを見て、彼――見知らぬ神殿騎士は困った顔をしていた。
「さ、戻るがいい、アイリス。女神様の加護を大事にするだな」
「戻っても、なにもおさまらないではないですか。殿下だって、そのなすべきことをされない」
「それはもう無理だ。俺は最後の最後で駒を失った。出来ることはもう少ないな」
「では――それをなされることを期待しますわ、アズライル……」
「さらばだな、アイリス。許せよ?」
外野まで来てしまい、ここは去るべきだという女神の意思だと理解するアイリスはそれ以上、何も言えなかった。
できるならアズライルに王子として、すべての責任を取り、自分とケイトの家族を解放すると命じさせたかったのに。
「許せるものですか……ッ。貴方なんて、地獄の獄炎に焼かれてしまえばいいんだわ。最低男。最後まで逃げてばかり……!!」
「参考にするよ」
思わず素手でアズライルの頬を張ってやりたくなる。
だが、それは寸手のところで止められてしまった。
☆
「一番、損をした気分だわ」
「それはよくわかりますが、あそこで自重されるとは意外でした」
「だって仕方ないじゃない。あんな目をされたんじゃ……負けを認めるしかないわよ」
「さようですか」
「ええ……悔しいけど、愛って偉大かもね……」
神殿騎士たちは道を譲ってくれたのに……
その歩みを止めて怒りを受け止めたのは、なんと、アズライルの影にかくれてばかりいたダイアナだった。
炎が燃え盛るそのアイリスの手から、とっさに殿下を守ってその顔を自ら差し出したのだから。
「あれが愛とも思えませんなあ」
「そう? 私にはまだ経験がないものばかり。嫌になるわ」
「これからですよ。経験がないと言えば、まさか二千年の時をへて正しき主から命じられるとは。われらも思いませんでした。神託を全員が受けた時にが身震いしたものですよ、司祭様」
「全部、サティナ様の掌の上で遊ばれた気もしないではないけど。そういえば、あの場にいた緋色の神殿騎士。見たことがなかったわね……」
緋色の鎧に青の斜めの二本線。
あれは初めてみる装束だった。
まあ、いっか。
なんだか気負って行ったはずなのに、殿下には謝罪はされず、愛人には睨みつけられる。
あの傷跡は治してやったけど、なんだか釈然としない。
明日の朝になったら、解放されたという家族はどうなるのだろう。
自分はどうすればいいのだろう。
疲れた―ーいまはその思いだけが、鉛のような感触となって全身を支配していた。
となかなかに勢いのよい音と共にそれは開かれた。
王子の身辺を護衛する者はおらず、なだれ込んできたのは緋色の装飾がなされたアイリスのよく知る、見慣れた装備の一団。
神殿騎士たちだった。
彼らはアイリスの姿を認めると、王子から遮るようにして遠ざけてしまう。
いきなりの行動に戸惑うアイリスだが、剣を抜くわけでもないその行動に、どこかため息をついていた。
知り合いの死が訪れるのを目にするのはーーやはり辛いものがあったからだ。
「あなたたち、どうしてここへ……?」
「我が主よりの神託が下されましたので――。ご家族は無事です、司祭様」
「司祭? 王太子妃補ではないのね?」
「あくまで、神殿関係者の利益を守るのが務めですから……体面上のことと受け流してください」
はあ。
どこもかしこも体面、プライド、損得ばかり。
誰がどうすれば、これは丸くおさまってくれるのだろう。
返事の代わりに大きなため息が出たのを見て、彼――見知らぬ神殿騎士は困った顔をしていた。
「さ、戻るがいい、アイリス。女神様の加護を大事にするだな」
「戻っても、なにもおさまらないではないですか。殿下だって、そのなすべきことをされない」
「それはもう無理だ。俺は最後の最後で駒を失った。出来ることはもう少ないな」
「では――それをなされることを期待しますわ、アズライル……」
「さらばだな、アイリス。許せよ?」
外野まで来てしまい、ここは去るべきだという女神の意思だと理解するアイリスはそれ以上、何も言えなかった。
できるならアズライルに王子として、すべての責任を取り、自分とケイトの家族を解放すると命じさせたかったのに。
「許せるものですか……ッ。貴方なんて、地獄の獄炎に焼かれてしまえばいいんだわ。最低男。最後まで逃げてばかり……!!」
「参考にするよ」
思わず素手でアズライルの頬を張ってやりたくなる。
だが、それは寸手のところで止められてしまった。
☆
「一番、損をした気分だわ」
「それはよくわかりますが、あそこで自重されるとは意外でした」
「だって仕方ないじゃない。あんな目をされたんじゃ……負けを認めるしかないわよ」
「さようですか」
「ええ……悔しいけど、愛って偉大かもね……」
神殿騎士たちは道を譲ってくれたのに……
その歩みを止めて怒りを受け止めたのは、なんと、アズライルの影にかくれてばかりいたダイアナだった。
炎が燃え盛るそのアイリスの手から、とっさに殿下を守ってその顔を自ら差し出したのだから。
「あれが愛とも思えませんなあ」
「そう? 私にはまだ経験がないものばかり。嫌になるわ」
「これからですよ。経験がないと言えば、まさか二千年の時をへて正しき主から命じられるとは。われらも思いませんでした。神託を全員が受けた時にが身震いしたものですよ、司祭様」
「全部、サティナ様の掌の上で遊ばれた気もしないではないけど。そういえば、あの場にいた緋色の神殿騎士。見たことがなかったわね……」
緋色の鎧に青の斜めの二本線。
あれは初めてみる装束だった。
まあ、いっか。
なんだか気負って行ったはずなのに、殿下には謝罪はされず、愛人には睨みつけられる。
あの傷跡は治してやったけど、なんだか釈然としない。
明日の朝になったら、解放されたという家族はどうなるのだろう。
自分はどうすればいいのだろう。
疲れた―ーいまはその思いだけが、鉛のような感触となって全身を支配していた。
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