婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央

文字の大きさ
35 / 104
第三章

女神の約束

しおりを挟む
 もう何もかもが中途半端なままだわ……。
 まるでどこかの劇作家があらすじや大まかな流れも決めずに創作を始めてしまったものだから、これから先のことをうまく決めかねてしまい、時間稼ぎにだらだらと適当な会話を書き連ねた台本を演じる役者の気分だ。
 それを観客が観劇している合間に、どうにかいい話にしようともがいて場をつないでいるような。
 アイリスは自分がそんな駄作に延々と付き合わされるのはまっぴらごめんだった。
 
「サティナ様!」
「何かしら、いきなり大声出さなくてもいいじゃない、アイリス?」
「いえ、もう我慢の限界です。あれはあれ、これはこう。きちんと筋道を立てて説明してください。ああでも、神様の都合とかそんなものは抜いてくださいね。どうしたいかだけを嘘偽りなく、人間の身になって教えてください」
「めんどくさい。あなたたちは黙ってここにいればいいのよ? それだけで終わるものを」
「終わりませんし、ケイトの件すらもご存じないのなら従う方も恐ろしくなります。こんなにも不安定で適当な神に従うのは、もしかしたら破滅への道を歩んでいるのではないだろうかと」

 自分の司祭がここまで言葉を連ねて不満を口にするなんてこと、これまでの付き合いであったかしら? サティナはそう思い過去を振り返るが、それは王太子に夜襲をかけたあの時くらいしか思い至らない。
 いつもならここで的確な嫌味を交えて発言をするケイトは様子を見守りながら沈黙を続けている。
 どうやら、二人の中では同じ思いが芽生えているらしい。
 それは多分、信頼や信用が薄くなった。そういうことだろうと、サティナは当たりを付けていた。

「不満がたくさんですね、まあ……でも安心したわ。アイリスはまだアズライル王子のことを引きずっているようだったし、ケイトは家族が二度と巻き込まれないようにと不安を隠したまま見知らぬ土地で生きることに慣れようと必死だったから。ある程度慣れるまでは新しい不安を与えないようにしようと思っていたの」
「お優しいお言葉ですけど、優しさが不安を与えるということも理解して頂きたいです、サティナ様」
「ごめんなさい、私もついつい羽を伸ばしてしまったわ」
「それで、何をどうなさるおつもりですか? いつまでこんな逃避行を?」

 そうねえ、と女神は何かを思い出すように天井を見上げてから、アイリスとケイトへ交互に視線をやる。
 言いたくないなあ、そんな困ったような笑みを浮かべると話を始めた。

「二人にはね、こんな状況に巻き込んでしまって悪いと思っているわ。悪い……どこまでも人間的な感情だけど。炎の女神としては正直、どうでもいいの。でも、この国と契約を交わした女神サティナとしては悪いと思っているわ。それと全知全能ではあるけど、一応。それを使わないのは理由があるの」

 あの時、彼に言われた嫌味がまだ効いているなんて。
 はるかな過去の約束が今でも自分を縛り付けていることに、サティナは懐かしくも悲しい思いを抱いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...